掲載日:2022年07月14日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
YAMAHA Vino
ビーノが最初に登場したのは1997年、初代モデルは2ストロークエンジンを搭載していた。全体に丸みを帯び、レトロ調のデザインは女性を中心に人気となった。その後エンジンの4ストローク化や、排気量違いのバリエーションモデル、EVモデルといった多くの派生モデルが登場するなど、ロングセラーとしての地位を確立してきた。2018年5月に発売されたモデルからは、ホンダとヤマハが原付一種領域で業務提携したことによりホンダが製造することとなり、ホンダジョルノをベースに外観を変更したヤマハ向けのOEM車両となっている。
今回試乗した車両も、正面からパッと見たところでは、デビュー以来変わらない、ビーノ特有の丸さを活かしたカエルのような可愛らしく優しい顔つきだ。ところがフロント内側から後ろは、ポケットの配置やシート、リア周りのデザインまで、車体構造そのものも含めてジョルノと同じものとなっている。いわば顔だけをビーノにしたと言ってもいいわけだが、それにしては全く違和感のない仕上がりで驚かされる。50ccクラスの原付一種はガラパゴス化が進み、車種も絞られて絶滅の危機もささやかれているが、ビーノを見ていると「ヤマハとホンダが手を取り合い、50ccクラスという日本が育んできたカテゴリーの灯を守るんだ」という意気込みと努力が宿っているように感じるのだ。
ちなみにこのビーノ、最近では女子高校生がキャンプを楽しむ漫画(アニメ、実写ドラマもあり)で主人公が乗っていたことから再び注目されている。しかしその人気の源は単にアニメに出たから、という理由だけではない。500mlペットボトルが収納可能なインナーボックスやアクセサリーソケットを内蔵したグローブボックス、荷物の運搬に便利な大型フック、約20Lと実用性十分なシート下トランク、坂道で便利な後輪ブレーキロック、アイドリングストップ機構などなど、現代に必要とされるバイクとしての実用性をきちんと備えているからこそ、評価され、人気モデルとして存続し続けているのである。
久しぶりに50ccクラスのスクーターに試乗したこともあって、ビーノを目の前にすると「原チャリ(親しみを込めて、あえてそう呼ぶ)ってこんなに小さかったっけ?」とあらためて感じる。取り回しの押し引きでも車体はとても軽く、シートも低い。スペックを見ると車両重量は81kg、シート高は720mmだ。跨るといっそう軽さとコンパクトさが際立つ。
エンジンをかけると、アイドリング音はとても静かで、住宅街などでも全く気を遣わないレベルだ。規則正しく刻まれるわずかな鼓動は頼もしくもある。スロットルグリップをグイとひねって走り出すと、排気音の高まりとともに車体は予想よりも軽快に前に押し出された。50ccクラスのスクーターに久々に乗ったのだが、「こんなに走るっけ?」というのが素直な印象だ。原付一種の制限速度である30km/hまでは2秒弱だろうか、それこそあっという間で、その後も一般道で四輪に交じって走れるぐらいの実力は備えている。
車体がコンパクトなのに、ほとんど窮屈さを感じなかったのも意外だった。ビーノはシートが大きく長めなので、シッティングポジションの自由度が高く、大柄な人物でも後ろの方に座ればリラックスした姿勢で乗ることができる。さすがに足元はあまり余裕がないが、お行儀よく座って乗る分にはあまり違和感はなかった。
タイヤは前後10インチで、サスペンションはフロント、リアともにこのクラスとしてはスタンダードなものが装着されているので、あまりハードな走りには対応していない。ただ、おとなしく走っている分には路面の段差や荒れ気味の舗装を走っても乗り心地自体は悪くなく、振動や突き上げなどはそれほど体に伝わってこない印象だ。アイドリングストップの働きも秀逸で、特に信号待ちからのスタートでスロットルを軽く開けるだけで全く違和感なく「ストトト……」と極めてスムーズに再始動するのには感心させられる。
幹線道路を走ると制限速度のこともあって、あまり心安らかではない。だが、住宅街の狭い路地などでは小回りがきいてとても便利。やはり50ccクラスは住居と最寄り駅までの間の、いわゆる“ラストワンマイル”の往復や、生活圏での買い物などに適している、とあらためて思った。この用途のモビリティは電動アシスト自転車の利用が伸びており、原チャリは少々分が悪い。しかし、電動アシスト自転車よりもパワフルでスピード面でも有利だし、航続距離も長く、カギのかかるトランクも標準で装備するなど、メリットも多いのだ。また、近ごろ人気の125ccクラスよりも駐輪場に停めやすいなど、有利な面もある。「原チャリもなかなかやるな!」、ビーノにはそう感じさせてくれる魅力が詰まっていた。
フロントフェイスは丸デザインを多用した、昔から変わらぬ“ビーノ顔”だ。ヘッドライトは35/35wのバルブタイプとなっている。
メーターはアナログと液晶を組み合わせたタイプで、速度表示は大きく見やすい。液晶部には燃料計やトリップメーター、時計などが表示可能だ。
ハンドル左側にはヘッドライト上下切り替え、ホーン、ウインカースイッチを備える。ホーンボタンが中央に大きく配置されるホンダ製と同様の仕様だ。
車体やエンジンがホンダ製となったことで、ハンドル右側にはアイドリングストップのオンオフスイッチが装備されている。
左ブレーキレバー前にはリアブレーキのロックレバーを装備。坂道で停車した際などに重宝する。
メインスイッチにはいたずらや盗難を抑止するシャッター付きキーシリンダーを採用。シートのロックを解除するスイッチも備える。
インナーカウル右側には500mlペットボトルが収納可能なインナーボックスを装備している。
左側には手袋などの収納に便利なグローブボックスを装備。12V1Aのアクセサリーソケットも備えている。
インナーカウルの中央には重さ0.5kgまで掛けられるフックを装備。折りたたみ式で持ち手の太いバッグにも対応する。
フラットなフロアは前方にくぼみもあり、意外とフットポジションの自由度が高い。滑り止め模様が施されたラバーシートも実用的だ。
シートは大型で座面が広く、クッションも厚めで座り心地は良好だ。ステッチが施されて高級感もある。
シート下トランクの容量は約20L。SHOEIのJ・O(Lサイズ)を入れてもかなり余裕がある。
パワーユニットには実用性の高い出力特性と耐久性、静粛性や低燃費性能を兼ね備えたホンダのeSPエンジンを搭載している。リアサスは1本タイプだ。
フロント、リアともにブレーキはドラム式を採用。タイヤはチェンシン製を履いていた。
マフラーには楕円形のカバーが装着されている。スタンドはセンターのみで、サイドスタンドは備えていない。
テール周りはグラブバーや灯火類を含めてホンダのジョルノと共通だが、全く違和感がない造りとなっている。
テスターの身長は170cmで足は短め。ビーノのシート高は720mmと低いので、両足でも足の裏全体がしっかり地面に接地する。
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