【ヤマハ E-Vino 試乗記】 旅バラエティ番組で飛躍的に知名度が上がった噂の電動バイク

掲載日:2019年10月03日 試乗インプレ・レビュー    

写真/井上 演 取材・文/小松 男

【ヤマハ E-Vino  試乗記】 旅バラエティ番組で飛躍的に知名度が上がった噂の電動バイクの画像

YAMAHA E-Vino

日本で生活をしているとあまり実感がわかないが、実はクルマやバイクでのEV化の波は世界中に押し寄せている。そこで、まずは実用性の高い原付クラスの電動バイクから試すのはいかがだろうか。

世界各国で押し寄せているEV化の波、
それに乗れる身近な手段は原付EVだ

日産リーフの販売台数は伸びているが、ハイブリッド車の台頭やインフラ的な問題もあり、実際のところ日本においてのEV及びEVバイクの普及は、進んでいるとは言えない状況だ。こと自動車業界を俯瞰してみると、プレミアム路線を推し進めたテスラの成功、ドイツ勢では、ポルシェやアウディなど総力を挙げて開発を進めるフォルクスワーゲングループ、すでにクルマ/バイクともにEVモデルを拡充しつつあるBMW、そして専用ブランドEQを立ち上げたメルセデス・ベンツ。それらEV業界を牽引しているのは、実は中国にあった。政府の方針により多大な補助金を投資したおかげで、次々とEVベンチャーが立ち上がり、その勢いは世界中を巻き込んでいる。

バイク業界においては、ハーレーのライブワイヤーがいよいよ市販段階に入った。とはいえ、どれも身近な話題に感じないのが、我々の日常というものだ。しかし、スイカ模様のヘルメットをかぶった出川哲郎さんが活躍する原付EVを使ったTV番組の話となると、一気に親近感がわくのではないだろうか。今回テストするのは、その番組で使われている「ヤマハ E-Vino」だ。

ヤマハ E-Vino 特徴

普通自動車免許だけでスタートできる
気軽な電動バイク生活

 ヤマハ E-Vino試乗記事の画像

ゴットリープ・ダイムラーや、カール・ベンツが内燃機エンジンを使用した地球史上初の自動車やオートバイを生み出してから、140年近くの時を経た今、自動車業界はこれまで歩んできた内燃機エンジンを使うという開発方針を変えつつある。それはいずれ訪れるとされる石油燃料の枯渇であったり、内燃機エンジンの排出ガスによる環境問題などに対応しなければならない局面に立たされていることが、大きな要因とされている。

 ヤマハ E-Vino試乗記事の画像

が一方で、我々の家の前には、相変わらず当たり前のように化石燃料を使用するバイクやクルマが並べられているという日常では、未来をイメージしにくいというのが現状である。EV専門媒体にも携わっている私の場合、世界中がEV促進に向かっている現在の動きが、常に情報として耳に入ってきており、EVという分野において、日本の企業は遅れをとっていると言わざるを得ない状況なのである。

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そのような中、どうしたらEV生活に慣れるのだろうかと考えた際、原付EVの存在が持ち上がってきた。そもそも原付は”原動機付自転車”の略称であり自転車の区分とされている。さらに50ccクラスを走らせる資格は、普通自動車免許にも付帯するため、わざわざバイク免許を取得する必要はない。もし何も持たない状況から原付免許を取得するにあたっても、満16歳以上であればOKであり、筆記試験のみと敷居はかなり低い。実は私自身も半年ほど前に、原付EVを中古で購入しており、EV生活をスタートしたひとりだ。その使用状況もオーバーラップさせつつ、E-Vinoのテストを行っていきたいと思う。

 ヤマハ E-Vino試乗記事の画像

ヤマハ E-Vino 試乗インプレッション

バッテリー充電特有の付き合い方さえわかれば、
新しいモビリティとして無限の可能性を感じる

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今回テストしたヤマハ E-Vinoの系譜を遡ると、2ストロークエンジンを搭載したVinoが1997年に登場ことが発端となっていることが分かる。当時のパフィーのCMは今も頭の片隅に残っている。登場から20年以上も経つロングセラーモデルなのだが、その間に2度大きなモデルチェンジが行われ、50ccエンジンを搭載したVinoは現在3代目モデルが販売されている。

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E-Vinoの外装は、実は2代目と共通デザインとなっているのだが、そもそも初代から続く大きな丸型ヘッドライト、丸みを帯びたファッショナブルなボディラインは踏襲されており、新旧モデルで受ける印象は変わらないと言えよう。2019年現在の今となっては、デザイン面において、もはや特筆すべきポイントは無いと言い切ってしまうが、それでもキャッチ―なスタイリングは幅広い層に親しまれていることは事実であり、飽きることのないデザインと言える。ただし「EV」という押し出しは、あまりにも少なすぎるのは、逆にネガティブとも感じられる。というのも、後述するが、ガソリン車とEVというのは、そもそも全く異なるものであり、現状では同じようには使えないのである。ならば、”電動モビリティでござい!”というデザインは、むしろ今必要なポイントのひとつなのだと断言する。

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イグニッションキーを挿しこみオンに回す。そしてメーターのボタンを押すと通電し、スロットル操作で発進することができる。このスタートスタイルに関しては、ハイブリッド車が一般的となった現在では、驚くようなことではないかもしれないが、一貫して内燃機エンジンを使わない原動機付自転車というものの新しさは、走り出してすぐに伝わることだろう。

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まず最初に無音であることが分かる。4ストロークエンジンが主流の現在では、ほとんどが静かな原付ではあるが、それに輪をかけて走行音が出ない。次に発進時のトルク感はエンジンモデルを凌駕していると言い切れる。少し前に4ストロークエンジンを搭載する現行の原付をテストしたことがあるのだが、想像以上に十分な動力性能でありながらも、2スト7.2馬力時代を知る私にとっては、やはり物足りなさは否めなかった。それと比べて、感触的に良いのだ。ちなみに内燃機エンジンを採用する現行Vinoの最高出力が4.5馬力なのに対し、E-Vinoは1.6馬力と低い。それでもEV特有の出だしから大きなトルクを発揮することができるというメリットが伝わってくる。

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問題は坂道で現れる。登坂角度がきつくなると、途端にパワーダウンしてしまうのだ。これはE-Vinoだけの問題ではなく、現在市販されているすべての原付EVに言えることだ。むしろE-Vinoの場合、標準とパワーという二つの走行モードの他に、坂道などさらなるパワーが必要な際にはブーストボタンが用意されているため、短い時間であれば、さほど気にならないとは思うが、広い世界、どこまで行っても平たんという道はない。むしろ坂道が続く場面もあるだろう。そういったエリアには向かないというのが現状なのだ。

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逆に平たんな土地であれば、何も問題は無いと言える。普段使いを想定してもパワー的には十分であるし、バッテリーは取り外し可能であり、予備バッテリーのオプションもあるので、TV番組さながらの出先で充電しつつ、長距離を走破することも可能。しかもバッテリーパック一つの満充電時に掛かる時間は3時間で、およそ30キロ弱走行でき、電気代は約14円。スペックを聞いてもイメージしにくいが、それこそがEVという乗り物なのだ。

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はっきり言ってしまうと、内燃機エンジンかEVかの、メリット、デメリットの話になると、まったく別物なので、どちらが良いとは言い切れない。ただ、乗って楽しい、便利という部分においては、E-Vinoはお薦めできる一台だ。今現在、このモデルを選んだとしても、とても有意義だと思うし、E-Vinoを手掛けているヤマハは、今後より魅力的な原付EVを出してくることだろう。

ヤマハ E-Vino 詳細写真

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デジタルメーターには速度、バッテリー残量のほか、ODO&トリップ、走行モードなどが表示される。モードボタンで標準とパワーモードの切り替え、セレクトボタンでは、ODO、トリップ、バッテリー残パーセントの表示切替を行える。

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内燃機エンジンモデルではセルスタートボタンが備わる場所に、ブーストボタンが設置されている。ボタンを押すことで、約30秒間パワーアップする。加速時や登坂路で使用する。

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原付たるもの日常生活での使い勝手の良さが、購入時のポイントとなってくることは周知のこと。フロントカバー裏に備わるポケットや、コンビニフックなど、ちょっとした工夫が、魅力を高めている。

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いたずら防止のシャッターを備えたメインキーシリンダー。その脇にシャッター動作キーシリンダーとレバーが配置されている。メインキーシリンダーは、イグニッションオン/オフのほか、ハンドルロックやシートオープン機能も兼ねている。

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メインスタンドを掛ける際に利用するグリップは、キャリア的な役割も兼ねている。外装は2代目Vinoを流用しているため、ガソリンモデルでは給油口が配置される部分に、カバーが装着されていることが分かる。

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動力源となる3相ブラシレスDCモーター。多くの原付EVで見られるインホイールモーターではなく、ロスの少ないギア駆動方式を採用し、EVならではの滑らかな乗り心地と動力性能、静粛性を備えている。

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一般的な内燃機エンジンモデルでは、メットインスペースとされるシート下にバッテリーが配置される。写真手前側の余裕が見られる部分には、予備バッテリーを格納することができる。

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メインバッテリーと予備バッテリーを収めたところ。多少のスペースは残されているが、メットインスペースを使いなれているライダーは、やや戸惑う部分。個人的にはバッテリーは着脱不可であっても、邪魔にならない場所に収めて欲しいと思う。

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厚手で広い座面を持つシートは疲れ知らず。後端のパイピングもポイントだ。オプションパーツとして、シートカバーも用意されている。

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1997年の初代モデルの登場以来、レトロフューチャーなデザインが踏襲され続けているVino。ストリートに溶け込むという面ではいいが、むしろ原付EVならではのデザインを用いても良かったかもしれない。

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エキゾーストシステムを持たないため、すっきりとした印象を受けるリアセクション。タイヤ交換なども用意に行えるなど、メンテナンスにおいてのメリットもある。

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前方カバーがほぼ直角に立ち上がっているために、足を投げ出すようなポジションは取れないものの、フラットなステップボードのため、箱モノなどの荷物を運ぶ際にも重宝する。

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シート裏側に取り付けられたスポンジは、走行時に予備バッテリーが暴れないように抑えるために用意されたオプションパーツ。代用品をDIYできそうなものだが……。

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50Vリチウムイオンバッテリーは、家庭用100V電源にて約3時間で満充電。予備バッテリーとの併用で、約58キロ走行可能とされている。バッテリー単体での重量は6kg。ステップボード下に固定式のバッテリーを埋め込み、メットインスペースを活かすというレイアウトの方が、個人的に求めるところ。

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