掲載日:2022年06月10日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA CROSS CUB 110
スーパーカブシリーズの世界生産累計が1億台を達成したのは2017年のこと。それから5年の年月が経った今もスーパーカブの人気は衰えるどころか拍車をかけている印象がある。中でもオフロードモデルテイストのワイルドなスタイリングで纏められたクロスカブ110とCT125ハンターカブの2モデルは絶大な支持を受けており、全国各地どこに行ってもその姿を見かけることができる。なぜこれほどまでに人気があるのか、それは実際に触れることで分かるものだ。今回は先だってビッグマイナーチェンジが施されたばかりのクロスカブ110をピックアップし、モデルチェンジの内容と秘めたる魅力に迫ることにした。
初代クロスカブ110が登場したのは2013年のこと。スーパーカブをベースにアウトドアテイストを用いたレジャーバイクとして発売直後から好調なセールスを記録した。どちらかと言うとストリートユースを想定して開発されたモデルではあったが、未舗装路での走行を楽しむユーザーも多く、オフロードテイストを高めるアフターパーツも多く出回るようになった。2017年には初めてのフルモデルチェンジが行われ、スタイリングから大きな変更が行われている。初代モデルで備わっていたレッグシールドが撤廃されたほかオフロード色が強くなり、現在も人気の高いCT110ハンターカブをイメージさせる外観となった(その後2020年にCT125ハンターカブが登場することとなる)。そして2022年マイナーチェンジが施されたニュークロスカブ110が誕生した。
今回のマイナーチェンジはスーパーカブ110と同時で行われており基本的な変更点は同じとなっている。その中でも大きなトピックとなっているのが、足まわりのブラッシュアップだ。C125のようなスペシャルモデルを除き、国内販売されているスーパーカブシリーズで初となるキャストホイールとABS付きのフロントディスクブレーキが採用されている。このことによりチューブレスタイヤが装着された。最新の排気ガス規制に対応した新設計エンジンではトルクアップ、燃費改善も行われているほか、メーター内にシフトインジケーターも追加されている。それではニュークロスカブ110に実際に触れ、その感触を確かめていきたいと思う。
今回のクロスカブ110をはじめ、これまで何台ものスーパーカブシリーズに触れたことがあるが、確か前回乗ったのはCT125ハンターカブだったので約一年ぶりのカブテストとなった。CT125ハンターカブが登場してからというもの、クロスカブ110の影がやや薄くなってしまっているかと思っていたこともあり、マイナーチェンジを受けたクロスカブ110には個人的も興味があった。
ニュークロスカブ110は、全体的なスタイリングでは従来モデルを踏襲しているものの、やはりキャストホイールとディスクブレーキは大きなインパクトがあり、一目見ただけで新しさは伝わってくる。セルスタートボタンを押すと、エンジンは心地よい振動と共に目を覚ました。ロータリー式ミッションを1速に入れる(走行中はリターン式)と、新たにメーター内に設けられたシフトインジケーターが“N”から“1”に変わる。このシフトインジケーターというものは無くても困らないが、有った方が間違いなく便利な装備だと考えている。
スロットルを開けて発進するとロングストローク化されたこともあってか、低回転からしっかりとしたトルク感を持つことが伝わってくる。ギア比がショート気味であること、低回転パワーが強い設定てあることから、高回転まで引っ張るよりもこまめにシフトアップをさせて走らせた方が快適だ。特に今回のエンジンで感じるのは、フリクションロスの少なさだ。まるでモーターかのようと書くと言い過ぎかもしれないが、まろやかでスムーズな回転上昇は、乗っていて気持ちが良いものだ。
CT125ハンターカブのテストでは、フレームやフロント周りの高い剛性感などから得られる乗り心地やハンドリングに、もはや原動機付自転車という枠を超えて、モーターサイクルとして昇華したと感じていたが、今回のニュークロスカブ110もかなりしっかりした作りとなっており、すでに原動機付自転車感は薄れていることが伝わってくる。特に新たな足まわりの効果は絶大で、きっちりしたブレーキタッチや軽快でありながらもしっとりとしたハンドリングなど、従来モデルから一歩先に進んでいると感じられるものとなっている。
未舗装路の走行もテストを行った。ブロックパターン風のタイヤは砂利道などでは十分だが、ぬたぬたのマディではトラクションが掛けにくい印象。とはいえ軽量コンパクトな車体なので、スタックしたところでどうにでもなる。クロスカブ110でオフロード走行を楽しむオーナーも多いがその気持ちも良く分かる。しかもニュークロスカブ110では最低地上高が6mm引き上げられ163mmとなっているので走破力も向上している。
燃費に関しては街乗り使用で、1リットルあたり53キロ走行することができた。乗り方によって多少は良くなるだろうし、逆に50km/Lを切ることも無いだろう。この話を業界関係者に話したところ、燃費性能はもう少し良くなっているかと思ったと言われたが、私の場合普段大型バイクをメインに乗っていることもあり、この数値だけでも十分に驚かされる。
昭和生まれの私の頭の中では、スーパーカブというと新聞配達や蕎麦屋の出前で使用するビジネスバイクであり、それはタフネスで便利な仕事道具であると考えている。しかし、今やスーパーカブはレジャーバイク、ファンバイクとしての地位を確立している。道具として考えると現在はディオ110の方が使い勝手が良いのではないかと思えるほどだ。
価格に関してもニュークロスカブ110が36万3000円からで、参考までに書き足すとCT125ハンターカブに至っては44万円だ。その金額を高いとは言わないが、スーパーカブシリーズは以前のビジネスバイクという立ち位置を捨てて、大人のオモチャという別のジャンルになってしまったように感じるのは私だけだろうか。
スーパーカブシリーズのルーツにならった空冷4ストロークOHCシングルエンジンは、最新の排出ガス規制に対応した新設計のものを搭載。排気量はそのままに小径ロングストローク化が施され、最大トルクと燃費性能が向上している。
同時登場したニュースーパーカブ110とともに、国内販売されるスタンダードなスーパーカブシリーズで初となるキャストホイールを採用。それにともないチューブレスタイヤが装着されている。フロントはディスクブレーキとされABSも装備。フォークアウターのABSセンサー取り付け方法も注目。
LEDヘッドライトは従来モデルを踏襲し、フェイスマスクにおいてデザイン的な変更点はない。しかしヘッドライトガードはボディ同色ではなく、すべてのカラーバリエーションにおいてブラックとされている。
ロータリー式4段ミッションを採用(走行中はリターン式となる)。クラッチレバー操作不要で前側を踏むとシフトアップ、後ろ側はシフトダウンをするシーソーペダルだが、初めてのライダーでもすぐに慣れるだろう。
メーターパネル内に備えられた液晶ディスプレイでは、走行距離計や残燃料が表示できるだけでなく、今回新たにシフトインジケーターも付け加えられた。時計や平均燃費を表することもできる。
シートの高さは784mmで従来モデルと同じ。クッション性もあり長時間乗車も快適だが、後ろの方に座るようにすると、キャリア前方のあおりバーがお尻にあたり少々気になった。
アップハンドルはライディングポジションの自由度が高く、体格を問わず車体を自由自在に扱うことが可能だ。ハンドルの切れ角も大きく、狭い路地に踏み入ることやUターンも容易に行える。
燃料給油口はシート下。タンク容量は従来モデルと比べて0.2リットル少ない4.1リットルとなっている。実燃費で50km/L以上は走るので、200kmは無給油で走行できる算段だ。
未舗装路走行を想定し、泥や小石などの挟み込みを防ぐためチェーンカバーが備わっている。カバーそのものは簡単に脱着することができるので、日常的なチェーンメンテナンスも問題は無い。
キックスターターも備わっている。エンジンがロングストローク化されたこともあり、以前よりも若干キックが重く感じられたものの、小排気量エンジンなので力のないライダーでも始動は簡単に行える。
マフラーガードの形状は異なるものの、基本的にはスーパーカブ110と同じサイレンサーを採用。新たにキャストホイール、チューブレスタイヤとなったがリアはドラムブレーキとなっており、ABSは備わっていない。
シンプルかつ後方からの視認性の良いテールランプ。前後ともにフェンダーエンドには泥や水の跳ね上げを防ぐマッドガードが備わっている。
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