SUVの発想を二輪へ。「TRAILMAX MISSION」はアドベンチャーバイクの足元を変えるか

掲載日/2026年3月9日
取材協力/住友ゴム工業株式会社
写真/井上 演 、執筆/稲垣 正倫
構成/バイクブロス・マガジンズ

近年、アドベンチャーバイクやスクランブラーモデルの人気は留まるところを知らない。しかし、多くのオーナーが直面するジレンマがある。「愛車には冒険心を掻き立てるブロックタイヤを履かせたいが、実際の走行シーンは大半が舗装路である」という現実だ。 見た目のワイルドさは欲しいが、ロードノイズやグリップ不足、寿命の短さといったネガティブな要素は避けたい。そんな現代のライダーの贅沢な悩みに正面から回答するのが、ダンロップの『TRAILMAX MISSION(トレイルマックス ミッション)』である。今回はスクランブラースタイルのホンダ・CL250に装着し、厳しい寒波が訪れた関東の1月に奥多摩方面の峠道から高速道路、そしてフラットダートまでを走り込み、その実像に迫った。

二輪タイヤにおける「オールテレーン」の再定義

TRAILMAX MISSIONの立ち位置は明確だ。ダンロップのラインナップにおいて、オンロード寄りの「TRAILMAX MIXTOUR(80/20)」と、本格的なラリーレイド用「D908RR(20/80)」の中間に位置する「60/40(オン60:オフ40)」のタイヤである。 しかし、この数字以上に重要なのが、その開発コンセプトである。開発陣が目指したのは、四輪のSUVが履く「オールテレーンタイヤ」のような存在だ。四輪のSUVタイヤは、一見するとゴツゴツとしたオフロード用に見えるが、実際には舗装路での静粛性や快適性が極めて高く確保されている。TRAILMAX MISSIONも同様に、深く刻まれた溝によるアグレッシブな外観を持ちながら、中身はロングツーリングを快適にこなすための最新技術が詰め込まれているのである。 「見た目は土、中身は旅」。このタイヤは、アドベンチャーバイクの足元を力強く演出しつつ、ライダーに我慢を強いない、新しいジャンルのタイヤと言えるだろう。

高剛性と柔軟性が同居する「肉厚」な造り

サイドウォールのラップアラウンド・ラグが、トレッドの溝と繋がって大きなブロックかのような見た目を演出する

フロントのパターンもアグレッシブで、今までになくデザインの主張が強い

実物を前にしてまず目を奪われるのは、そのデザインの力強さだ。トレッド面の溝は深く、まさにブロックタイヤのそれであるが、特筆すべきはサイドウォールの処理である。「ラップアラウンド・ラグ」と呼ばれるプロテクターのような凸凹が配置されており、これが岩場でのサイドカットを防ぐ機能パーツでありながら、タイヤ全体をマッシブに見せる視覚効果も発揮している。ブロックタイヤっぽく見せるためにトレッドの溝とつながっており、実際のトレッド面よりもさらにオフロードテイストを上乗せしているのだ。CL250のようなスクランブラーモデルに装着すると、車格が一回り大きくなったかのような迫力が生まれるから不思議である。CL250の場合、前後共にロードタイヤのサイズが指定されているため、オフロード向けのタイヤは見つけづらかったのだが、このTRAILMAX MISSIONなら無理なくオフロードのルックスに寄せることができる。

溝は同社TRAILMAX MIXTOURと比較してもだいぶ深い

指でコンパウンドを押してみると、ブロック自体の剛性は非常に高くしっかりしているのだが、表面のゴムには独特の粘り気があることに気づく。構造的にはバイアスをベースにしつつ、ベルトで補強を加えた「ベルテッドバイアス構造」を採用している。これは重量級アドベンチャーバイクの車重やパワーを受け止める剛性と、オフロードで路面を掴むための柔軟性を両立させるための設計だ。 純正タイヤと比較すると、ゴムの量が多いためか重量は確かに増している。しかし、その重さはネガティブなものではなく、「良い道具」が持つ信頼感のような、どっしりとした手応えとして伝わってくる。

極寒のオンロードでも揺るがない「絶対的安心感」

今回のテスト環境は過酷だった。気温はマイナス2度。路面温度も極めて低く、場所によっては凍結の恐れすらある状況だ。通常、このようなコンディションではタイヤが硬化し、グリップ感が希薄になりがちだが、TRAILMAX MISSIONの真価はこの舗装路でこそ発揮された。

まず驚かされるのは、高速道路での静粛性である。溝が深いブロックパターンを持つオフロード向けタイヤの場合、高速走行では「ゴーッ」というパターンノイズが発生するのが常識だった。しかし、このタイヤはパターン由来のロードノイズは皆無と言っていいほど静かだ。ロードタイヤと遜色ないレベルでインカムの会話や音楽を楽しめる。 さらに、タイヤ自体が持つ「減衰力」が素晴らしい。厚みのあるトレッドゴムと構造がサスペンションのように機能し、路面の細かなギャップを吸収してしまう。重量増によるネガは感じられず、むしろジャイロ効果による直進安定性の高さが際立ち、長距離移動での疲労を大幅に軽減してくれるだろう。

ワインディングでの挙動も特筆に値する。プロファイル(断面形状)が比較的フラットなため、バイクを寝かし込む際にパタンと急に倒れ込むような神経質な動きがない。その代わり、クリッピングポイントに向けて荷重をかけた際、タイヤ全体が路面に「ベタッ」と張り付くような接地感がある。 特に印象的だったのは、マイナス2度という極寒の中でも走り出しからコンパウンドが路面を掴む感覚があったことだ。路面状況が読みにくい冬の峠道において、この滑る気がしないフィードバックは、ライダーにとって何物にも代えがたいアクティブ・セーフティとなる。スポーツタイヤのような鋭い旋回性ではないが、どんな環境でも破綻しない懐の深さがある。

接地面がフラットで、過敏に倒れ込むような怖さを一切感じない

冒険への扉を開く「プラスアルファ」の自由

全体の2割程度となるオフロード走行だが、ここでのインプレッションも重要だ。想定されるのは、モトクロスコースのような激しい地形ではなく、ツーリング先で遭遇する林道やキャンプ場の未舗装路(フラットダート)である。

舗装路向けのタイヤで砂利道に入ると、ブレーキやアクセル操作に対して唐突にグリップを失い、そのまま制御不能になることへの恐怖がある。しかし、TRAILMAX MISSIONはその挙動が非常に穏やかで、深い溝がしっかり路面を噛みグリップを回復させる。 砂利道というのは、実はどんなブロックパターンの激しいモトクロスタイヤでも滑るもので、絶対的にグリップするタイヤは存在しない。そしてどちらかというと、接地面積でグリップさせるタイプの路面なので、トレイルマックスシリーズとの相性はいい。滑り出しがマイルドで予測しやすいため、「あ、滑ったな」と感じてから対処する余裕があるし、スライドしても一気にすっぽ抜けるのではなく、ある程度のところでグリップが回復してくれるため、恐怖感なく通過することができる。

こういった砂利路面では安定したグリップ感を感じられる。モトクロスタイヤのハード路面用には敵わないが、ソフト路面用より相性がいいのではないか

キャンプ場や、温泉の駐車場など、ツーリング先で突如現れる砂利道は林道だけではない。このTRAILMAX MISSIONであれば、様々な路面で恐怖感を拭い去ってくれるはず

このタイヤのオフロード性能における最大のメリットは、「道を諦めなくて済む」ことだろう。 ツーリング中に気になる脇道を見つけた時、ロードタイヤでは「砂利か、やめておこう」と引き返していた場面でも、このタイヤなら「ちょっと入ってみよう」と思える。 泥濘地や砂、柔らかい路面は苦手だが、一般的なライダーが「旅」の中で出会うオフロードであれば、十分以上の走破性を持っている。この「どこへでも行ける」という精神的な余裕こそが、アドベンチャーバイク本来の楽しみを拡張してくれるはずだ。

何も犠牲にせず、オフ性能を手に入れる

TRAILMAX MISSIONのインプレッションを一言で総括するならば、「ネガティブ要素を極限まで排除した、バイクライフの最適解」である。

これまで、オフロードルックのタイヤを選ぶことは、舗装路での快適性やライフ、グリップを犠牲にする「トレードオフ」を受け入れることと同義だった。しかし、このタイヤはその常識を覆している。ロードタイヤ並みの静粛性とグリップを持ち、ロングライフでありながら、オフロードへ踏み入る実力も兼ね備えている。 特に、今回のテストのように路面温度が低い冬場のツーリングや、予期せぬ悪路でも、ライダーを緊張させることなく淡々と走り続けるタフネスさは特筆に値する。

見た目の迫力だけで選んでも後悔することはなく、走りを追求しても満足できる。CL250のようなスクランブラーはもちろん、重量級のアドベンチャーバイクで長旅をするライダーにとっても、TRAILMAX MISSIONは「旅の質」を一段階引き上げてくれる、最高のパートナーになることだろう。

今回はホンダのスクランブラーモデルCL250に装着。見ての通り、オールテレインタイヤのようにバイクの外観をさらにワイルドに仕立て上げてくれている

フロントの溝も深く、がっしりした見た目のパターンデザイン

真横からラップアラウンド・ラグを見ると、この意匠の意図が伝わりやすいだろう

デザイン性だけでなく、側面を岩などの障害物から守ってくれる機能がある

摩耗が進行しても、この段差部分でエッジを活かすことができる(フロント)。ダンロップが誇るスタッガード・ステップ・テクノロジーだ

リアのスタッガード・ステップはブレーキ側に効くように配置されている

タイヤの構造的にはバイアスだが、ベルテッドバイアスと呼ばれる技術でバイアスならではのしなやかさと、ラジアルのような剛性を併せ持っている。特に荷物を積載するアドベンチャーバイクでも快適性を失わず、高荷重状態での高速道路での安定性も高い

AMAスーパーモトクロスで最大派閥の同社ならでは、剛性のあるブロックがオフロードでのトラクション性能を最適化する

INFORMATION

住所/東京都江東区豊洲3-3-3 豊洲センタービル
電話/03-5546-0114
営業時間/10:00~18:00

1889年、イギリスにて設立されたダンロップ社。今や、誰もが知る“ダンロップ”というこのブランドは、創立者の息子が「自転車をもっと楽に走れるようになるにはどうしたらいいのか?」という素朴な質問を父に投げ掛けたことから、その歴史をスタートしています。四輪は勿論、現在では国内外でのモータースポーツシーンでも活躍し、SUPER GT(元 全日本GT選手権)を中心にタイヤを提供。以前は全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権(JSPC)、全日本F3000選手権等にもタイヤ供給を行っていました。二輪車用としてはSPORTMAX・GP・ARROWMAX・KABUKI・TRAILMAX・BURORO・GEOMAXをラインアップ。また純正として同社のタイヤを採用するメーカーも多数存在し、いつの時代も、その時々の環境に対応し、性能にも一切妥協をしないその作り込みは一流ブランドならではのものです。

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