経済的で実用的で、それでいてスポーティ。進化したバイアスタイヤSPORTMAX Q-LITE

掲載日/2022年8月29日
取材協力/住友ゴム工業株式会社
写真/井上 演
取材、文/和歌山利宏
構成/バイクブロス・マガジンズ
ダンロップから軽中量級用の新しいバイアスタイヤであるSPORTMAX Q-LITEが登場した。スポーツタイヤの主流がラジアル化されて久しい今、バイアスタイヤにはもはや斬新さを感じない人も多いだろう。しかし、ラジアルタイヤとともにバイアスタイヤも進化を続けていることを忘れてはいけない。この新しいSPORTMAX Q-LITEに乗れば、そのことも納得できるはずだ。

バイアスタイヤとラジアルタイヤの違い
「気負わずに走れて低価格」というバイアスのメリット

SPORTMAX Q-LITEの特徴について知ってもらうため、まずはバイアスとラジアルの違いについてお話しておこう。タイヤはゴムでできているが、それだけだとゴム毬みたいにフニャフニャで車体を支えることもできず、内部は繊維をより合わせたコードで補強される。その補強の仕方がバイアスとラジアルによって大きく異なるのだ。

バイアスタイヤでは、コードが周方向(回転方向)に対して、25〜40度の角度で互い違いに張り合わされる。コードを太くしたり、密度を高めたり、あるいはコードの層を増やしたり、はたまた角度を小さくすれば剛性が高まるし、さらに路面に力を伝えるトレッド部に要求される剛性を得るために、そこにカットブレーカーと呼ばれる補強材を張り付けたりもする。

そうしたバイアスタイヤに対し、タイヤ性能を高次元化するために生まれてきたのがラジアルタイヤだ。トラクション性能を安定させるとともに、超高速走行でもタイヤが壊れない強度を得るために、トレッドはベルトという補強材でガチっと固められる。ベルトは今、周方向に沿った0度のスチール製が主流だ。一方で、吸収性とともにコントロール性を高めるべく、サイドウォールを柔軟にするため、コードアングルを断面方向、つまり90度(昨今は寛容性を高めるため70〜80度のものが多い)としてやる。

そのため、ラジアルタイヤはハンドリング性能も高い。サイドウォールの撓み感(俗に言うつぶれ感)を豊かな情報として感じながら、高いグリップ性能を生かしやすく、旋回性能も高い。ただ、その旋回性能を引き出すには、ある程度はスポーツライディングしてやりたい。タイヤへの荷重によってタイヤがつぶれるのを感じ、トラクションを引き出してやる、といったところだろうか。

だからと言って、バイアスタイヤが単純に劣るわけでもない。タイヤの剛性バランスがラジアルよりも均一であるため、小難しく考えなくても普通に転がしていくことができる。だから、街乗りやツーリングならむしろ気負わずに走れるかもしれない。そしてもう一つ、バイアスタイヤには低価格というメリットがある。

ラジアルだと、トレッドをベルトで固めるため、加硫器(タイヤの型)に入れてから外径を引き伸ばすことができない。そこで、最初にトレッド部だけを膨らませ、そこにベルトとトレッドゴムを張り付けてやるという2段成形が必要になる。また、0度ベルトをグルグルと巻き付けていく設備と工程も必要だ。高価格になることにも理由があるのだ。それがバイアスだと、1枚の板状になった生タイヤを加硫器に入ればいいのだから、製造しやすい。低価格での供給が可能になるわけだ。

今回SPORTMAX Q-LITEをテストしてくださったのは和歌山利宏氏。メーカーでロードスポーツ車の開発に携わった経験もある元レーシングライダーで、現在もタイヤ開発のテストライダーを務めるフリーライター。タイヤを科学的に分析し、ライディングテクニックに落とし込む「タイヤの科学とライディングの極意」(グランプリ出版)も執筆。

ダンロップの新しいバイアスタイヤ
SPORTMAX Q-LITE

SPORTMAX Q-LITEは、ダンロップのフラグシップスポーツラジアルSPORTMAX Q4、 Q5のイメージを踏襲したバイアスタイヤだ。溝面積の少ないトレッドパターンやシリカを用いないフルカーボンコンパウンドを採用している。しかし、それらによって高水準化を図ったというほど話は単純ではない。スニーカー感覚で楽しめるというバイアスタイヤの特徴を大切にし、そのために要求される寛容なハンドリング特性やタイヤライフを高次元化、さらにスポーツとして楽しみたい人のために、グリップ性能や接地感が高められているのだ。

それはSPORTMAX Q-LITEに造り込まれた技術に注目すれば明らかである。ほぼ同時期に発売されたSPORTMAX Q5を思わせるトレッドパターンは溝面積が少なくスリックライクで、高荷重に耐えて高いグリップ力を期待できて、摩耗も抑制できる。それでいて、接地面を横断するロンググルーブによって、効果的に排水、ウェットグリップも高められているという。

そして、トレッドプロファイルは、従来のTT900GPよりも、特にリヤは中央が尖っていないフラットな形状に改められている。これまでスポーツタイヤには「コーナリングを決めてナンボ」といった面もあって、深いバンク角までスパンと寝かし込むことが前提になっていたことも否めない。でも、SPORTMAX Q-LITEは先鋭化を抑え、より多くの人に受け入れられやすい特性を目指している。

また、コンパウンドはフルカーボンだ。ここのところ、ゴムの補強材にはウェットグリップや低温グリップに有利とされるシリカが多く用いられてきたが、SPORTMAX Q-LITEはフルカーボン。そのことで耐摩耗性やレーシングタイヤ直系のグリップ性能を高めているが、ウェットグリップが犠牲になっていない(むしろ前作TT900GPより高い)のは、さすが技術の進歩と言ったところか。

スリックライクなトレッドパターン、フルカーボンのハイグリップコンパウンドによって、トレッド部にはより高い剛性が求められる。SPORTMAX Q-LITEのYZF-R25用サイズには、フロント1枚、リヤ2枚のカットブレーカーが挿入され、剛性バランスが最適化される。既存のバイアスタイヤと違って、まるでラジアルのスポーツタイヤのような見た目はYZF-R25のようなスポーツタイプのモデルにもよく似合う。ドレスアップパーツとして捉えてもコストパフォーマンスは高いと言えるだろう。

「ワインディングを安全に楽しめるハンドリング」
これぞ進化したバイアスタイヤ、SPORTMAX Q-LITE

ゆっくり走り始めたときの第一印象は、何の変哲もないバイアスタイヤと言ったところ。どちらかと言えば硬質で、トレッドゴムの動きをあまり感じさせない硬質さが、タイヤライフの良さを予感させる。もちろん、固さはなく、トレッドゴムは路面をしっかり掴んでいるが、ラジアルタイヤにはあるサイドウォールの撓みによる豊かなインフォメーションが届くわけではない。

ところが、軽くスラロームして驚いた。寝かし込んで向きを変えていくにしたがい、これまで経験したことのない種類のインフォメーションが届く。それはいわゆる接地感でもある。トレッド面の撓みを感じるのだ。お断りしておくが、トレッド面が波打つとかめくれるといったものではない。第一、それではグリップ力に影響してしまう。あえて言えば、接地面が矩形から平行四辺形に変形するみたいなイメージである。

これはバイアスSPORTMAX Q-LITEならではの特徴だろう。ベルトで固められたラジアルではこれは期待できない。これには、カットブレーカーの剛性バランスが最適化されていることに加え、ロンググルーブのトレッドパターンも貢献しているのかもしれない。

ハンドリングは、街乗りやツーリングペースにも順応しやすい。日常域でハンドリングは自然だし、ワインディングでライダーを変に焚きつけることもない。でも、いざライダーがその気になれば、豊かな接地感が自信を持たせ、楽しむ気にさせてくれる。いたずらにマシンをバンクさせることなく向きを変え、ワインディングを安全に楽しめるハンドリングでもある。

このように、あらゆるタイプのライダーにお薦めできるSPORTMAX Q-LITEだが、SPORTMAX Q5やα14といったラジアルタイヤには、さらなるスポーツライディングの奥深い世界が広がっていることも忘れてはならない。CBR250RRやZX25Rはラジアルタイヤが標準装着で、ラジアル走りを前提に開発されているだけに、それらにはやはりラジアルがお薦めだ。

で、このYZF-R25だが、標準タイヤはバイアスながら、スーパースポーツとしてサーキット走行などをしっかり楽しみたいなら、やはりラジアルも試してみるべきだろう。もっとも、ここで述べてきたSPORTMAX Q-LITEの特徴が価格も含め自分のバイクライフに合っているというなら、まさに願ったり叶ったりである。

INFORMATION

住所/東京都江東区豊洲3-3-3豊洲センタービル
電話/03-5546-0114
営業時間/10:00~18:00

1889年、イギリスにて設立されたダンロップ社。今や、誰もが知る“ダンロップ”というこのブランドは、創立者の息子が「自転車をもっと楽に走れるようになるにはどうしたらいいのか?」という素朴な質問を父に投げ掛けたことから、その歴史をスタートしています。四輪は勿論、現在では国内外でのモータースポーツシーンでも活躍し、SUPER GT(元 全日本GT選手権)を中心にタイヤを提供。以前は全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権(JSPC)、全日本F3000選手権等にもタイヤ供給を行っていました。二輪車用としてはSPORTMAX・GP・ARROWMAX・KABUKI・TRAILMAX・BURORO・GEOMAXをラインアップ。また純正として同社のタイヤを採用するメーカーも多数存在し、いつの時代も、その時々の環境に対応し、性能にも一切妥協をしないその作り込みは一流ブランドならではのものです。

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