
グリップ力の高さと素直な旋回性で定評を持っていたα-14の実質的な後継モデルとされたスポーツマックスQ5S。ストリートタイヤでありながら、レーシングタイヤさながらのグリップ力がウリだ。
今回はスポーツマックスQ5Sを実際に車両に装着し、ワインディングやクローズドコースで試乗テストを行った。テストに用いた車両はトライアンフ・トライデント660。ライトウェイトスポーツとして人気の高いモデルである。
スーパーバイクやストリートファイターなどを所有するスポーツ志向のライダーは、タイヤのブランドやグレード、そして普段の管理状態などにもこだわりを持つ方が多いことと思う。
しっかりとしたグリップがライダーへと伝わり、深々と車体を寝かせても不安なく狙い通りのラインをトレースできること、これはスポーツバイクを楽しむ上での醍醐味と言えるだろう。
そのようなライダーの要求を満たすために市販タイヤの性能は年々向上し、一昔前では考えられないほどのポテンシャルを持つようになったことは事実である。
一方でサンデーレーサーをはじめ、サーキットに通いつめるような一部のライダーを除いて、そこそこ高価なタイヤ交換を頻繁にすることはなかなか難しい。
だからこそしっかりと吟味し、メディアなどの情報で自分に合ったタイヤを見つけなければならないわけだ。
ここではダンロップの新製品である【スポーツマックスQ5S】を実際に使い、そのインプレッションをお伝えしていくのだが、その前に当該タイヤであるスポーツマックスQ5Sの概要について少々触れてみよう。
センター付近に見られる直立パターンの剛性を引き上げ、ブレーキング時の安定性をもたらしつつロングライフを叶えている。一方でショルダーにかけてのミドル部のパターン剛性はあえて下げ、車体を寝かした際の接地感や排水効率を向上。
ワインディングでの走行時はハーフウェットかつ路面には降雨により落ちた木々の葉、花弁が散見される状況ではあったので、丁寧な操作を求められたものの、Q5Sからのインフォメーションが良く安心感が高い。特に公道ではブレーキング時のグリップ力の高さに助けられた場面は多い。
Q5Sよりもストリート向けのグレードとなるQ5Aも比較のために試乗してみた。そもそもの車重や車両のキャラクターが異なるものの、Q5Aのほうがバンクをさせた際の転がりが柔らかな印象を受けた。
タイヤの選択によって車両のキャラクターは大きく変わってくるものだが、Q5Sはどのようなタイヤなのだろうか。
ダンロップにはQ5Aというオールラウンドに使えるスポーツモデルがある。Q5Aはワインディングロードなどツイスティなステージでしっかりしたスポーツライディングを楽しめ、併せてロングライフやウェット性能も求める設計がなされたタイヤだ。
一方、ダンロップには公道走行可能でありながらレーシングレベルのグリップと操作性をもたらしたプレミアムスポーツタイヤQ5が存在し、今回取り上げているQ5Sはそれらの中間に位置するスポーツタイヤとされている。
Q5Sという名称であるものの、従来モデルにあたるのはスポーツマックスα-14となっている。このα-14は高いグリップ力と安定性を高い次元で両立したモデルであり、個人的にも好きなタイヤの一つだった。
α-14を基準にQ5Sの性能を見てみると、コンパウンドやプロファイルの見直し、トレッドパターンの変更などが行われ、ロングライフかつウェットでの排水効率の向上、なによりもグリップ力が格段に引き上げられているのがわかる。
トレッド面に触れると手にペタペタと吸い付いてくるような粘着感があることが分かる。一皮むく前にすでにグリップ力の高さが伝わってきた。今回の試乗ではフロントタイヤの剛性力とプロファイルが良いため切り返しが軽く、グリップ力も高いのでさらに安心感があることが分かった。
リアタイヤのエッジ位置が下げられたプロファイル形状によりキャンバースラストが強く効き、一気に内側へと旋回する。コーナリングが楽しい。
今回のQ5S試乗テストは一般道のワインディングとクローズドコースで行った。ワインディングは片側1車線、割と勾配があり、雨上がりのハーフウェットで木々の葉や花弁が散見される状況だった。
つまり路面コンディション的には良くはない。しかしツーリングに出た際、結構な確率で遭遇するシーンである。
上りではQ5Sのリアタイヤのグリップ力の高さがまず光った。走行0kmのおろしたてのタイヤで、先述したような路面状況であるにもかかわらず、車体を寝かせた際のグリップは強く感じられた。だから肩肘張らずに自然な操縦をするだけで、ペースを維持したままパスすることができる。
また、下りではフロントタイヤのグリップと回頭性が際立っていた。路面状況が悪い中で前荷重になるとフロントの限界点を気にしがちで、メリハリのある走りがスポイルされることがあるのだが、ブレーキを強くかけても左右に振れることはなく、車体を寝かし込んでコーナーに進入してもリーンアングルはビシッとキープすることができる。
よりストリート向けのグレードとなるQ5Aと比較してみたが、ハーフウェット程度では、性能の甲乙をつけがたいと感じた。むしろわざとハンドルをこじらせるような意地悪な入力を加えた時にもQ5Sの方がしっかりと受け止めてくれた。それほどQ5Sの出来が良いのである。
クローズドコースでのQ5Sはまさしく水を得た魚状態だった。1~3速までで周回できるミニサーキットであるが、その分メリハリを持たせた走り方が求められる。
車体が立った状態できっちり減速すると、フロントタイヤがしっかりと車体全体を支え、車体を寝かせてコーナーに進入するとリアタイヤが強いキャンバースラストを発生させ一気に内側へ向かおうとし強力な旋回力を生み出す。スロットルを開けるとフロントがすっと立ち、次のコーナーに頭を向ける。
トラクションを路面へしっかりと伝えつつ、急な加減速にも動じることのない粘りのある剛性力があり、さらにそれを活かす強力なグリップ力を兼ね備えている。
軽快な倒し込みと粘るグリップ、これが高い次元で両立されているために、延々と走りたくなるような楽しさを得られるのだ。
ツーリング先での醍醐味がワインディングでのスポーツライディングだと思っている方、サーキットを頻繁に走るようなライダーでも十二分に満足できるポテンシャルを持つQ5S。もはやスポーツバイクのタイヤ選びに悩むことは無い。
そもそもロードスポーツモデルとして基本に忠実なハンドリングを得られるトライデント660のキャラクターを、より一層スポーティにしてくれると思えたQ5S。従来モデルであるα-14のトータルバランスを引き上げつつ、グリップ力とライフが高められている。
走行後のトレッド面を見ると、常に高いグリップ力を発揮しつつも、加減速による縦方向の摩耗、コーナーでの横方向の摩耗のバランスが良く、かなりナチュラルな摩耗具合であることがわかる。Q5Sはツーリングもサーキット走行も高い次元でこなせるタイヤだ。
2010年のα-12以降、αシリーズの試乗テストを行ってきたが、Qシリーズへと進化したQ5Sは、従来モデルであるα-14のトータルバランスの高さを活かしつつ、よりハイグリップスポーツタイヤへと昇華していた。