

掲載日:2014年09月30日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真・動画/山家健一 衣装協力/HYOD
「CTX1300」に最初に乗ったのはホンダのプレス試乗会のときだったが、印象的だったのは開発者たちの内輪話でのやりとり。「ウーパールーパーみたいだな~」とか「違うよ、宮崎駿のアニメに出てきた白竜だよ」などと、何やら楽しそう。CTXへの愛情の深さ、デザインへのこだわりなどがユーモアを交えた会話の中から伝わってきた。
かく言う私も、ひと目見てデザインに惚れてしまった。直線を強調したモダンなシルエットと、スマートながら丸みを帯びた愛嬌のある“顔つき”。その中心に露出した巨大な心臓と肋骨にも見えるエンジンとエキパイなど、洗練された未来的なフォルムの中にも、どこか生き物のような温かさを感じる。
そして、エンジン。セル一発でかかる始動性の良さや、一切の不整脈すら感じさせないアイドリングの規則正しさはホンダならでは。工業製品としての完成度の高さをあらためて感じる。ST1300パンヨーロピアン由来の縦置きV4エンジンは現行量産モデルでは唯一無二。V4自体珍しいが、それを車体に対して縦に置いている。フラットツインなどと同じでシリンダーが車体の側面に飛び出す形になるので、縦置きエンジンは見た目のインパクトがある。スマートなデザインの中であえてエンジンの存在感を見せつける手法が新鮮であり、またそのエンジンの造形がカッコいいのだ。
フィーリングも独特だ。V型でありながらVツインとは異なる細かい鼓動感があり、直4にも似た滑らかな回転フィールも併せ持っている。そして、サウンドはフラットツインにも似たところがあり、なんとも味わい深い。他にはない独自の世界をエンジン単体でも表現しているところがCTXの魅力だ。
耳に心地よいV4サウンドと鼓動を味わいながら、分厚い中速トルクに任せて街をクルーズする気持ち良さは、なんとも言えない幸福感をもたらしてくれる。交差点の右左折なども、大柄な車体の割に軽快。クランク軸が車体に対して前後に通っているため、左右ロール方向へのジャイロ効果の影響を受けにくいのも縦置きエンジンのメリットだ。信号待ちでも、ローシートと意外にもスリムな車体のおかげで、300kgを優に超える車重も苦にならない。シリンダーを避けるように張り巡らされたフレーム構造により、車体そのものの幅は抑えられていることも特筆すべき点だ。
高速クルーズも格別だ。回転を上げなくても豊かな中速トルクがぐいぐい巨体を引っ張ってくれるし、回したときの振動も少なめ。ライポジもクルーザーというよりツアラーに近い設定で、ごく自然な位置にハンドルやステップがあるので、長時間の走りでも腰や首への負担が少ないことも嬉しい。スマホとワイヤレスでつながる、ブルートゥース対応オーディオの音質も素晴らしく、低めのスクリーンが受け流してくれる程よい風に当たりながら走っていると時間を忘れてしまうほどだ。
CTXの隠れた才能がスポーツ性能。縦置きエンジンによる軽快感に加え、低重心設計とワイドラジアルタイヤによる路面に吸い付くような安定感のあるハンドリングが楽しめる。ディメンション的にもキャスターが比較的立っていて、フロント荷重も大きめなので、ステアリングの応答性もかなりいい。バンク角にも余裕があり、フルバンクでのコーナリングも普通にこなしてしまうし、実際にワインディングではスポーツバイクの集団と同じペースで流すことができた。前後連動ABSブレーキとトラクションコントロールの恩恵もあり、巨大マシンでも安心してスポーティな走りを楽しめるのだ。
広がり感のあるタンクシェルターからメーターまわりに至る、高級4輪車を思わせるコックピットデザインも素敵で、大人の余裕を感じさせるもの。機能性とデザインが融和した都会的センス溢れる新しい世代のクルーザーだ。今までバイクにあまり関心がなかった人、乗りたいモデルが見つからなかった人にこそ、ぜひおすすめしたい1台だ。
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