モトクロスライダー辻 健二郎が2013年、AMA-SXに参戦！　Vol.08

うーん、しかし乗るマシンが無くなって困ったー。借りて乗る予定だった 450 のエンジンが戻ってきたのですが、完成車にしたらそのまま売る事になっているらしい……。ちょうど日本から送った荷物も届いてウキウキしていたのに、マシンが無いのではどうしようもありません。ジェフは個人レッスンで忙しく、もう１人の若いライダー（キャメロン）と一緒に、とりあえずマシンを組み上げました。モトクロスマシンは綺麗でカッコイイほうが絶対にイイ。買ってくれる人も絶対にそのほうが嬉しいはず。何か役に立つものは無いかと、荷物の中から使えそうなモノを選んで綺麗にマシンを仕上げました。お陰で、久しぶりに完成車になって本来の姿に戻ったマシンも、次のオーナーも、綺麗な状態を喜んでくれました。

ところが、彼はこのマシンを更に売って、今度は 250cc を買うらしいんです。突然どういった心境の変化か分からないのですが、どうやら 250 でコーナースピードを高める練習をするそうなんです。結局、彼はこの 450 （ホンダ CRF450R）を乗らないから、なんとオレが借りられる事に。メチャクチャ、ガッツポーズ!!　です。ようやく 450cc に乗ることが出来ます！　テンション、凄く上がりました。 450 に乗り始めてからはペースも上がってきて、乗り込む度に感覚も良くなってきました。ステイしている所はカリフォルニアの北で、ほぼサンフランシスコ。以前にトレーニングでアメリカを訪れた時は、カリフォルニアの南。その辺りは、モトクロスチームの拠点が数多くあり、コースも豊富なので AMA レースに出ているセミプロライダーも多く練習していて、レベルが高かったです。レースをする人にとっては己を高めるのに非常に良い環境です。この時の経験で南の様子は分かっていたので、今回はスーパークロス準備の一環として、北の環境も下調べする目的でこちら（カリフォルニアの北）を選びました。カリフォルニア北部はモトクロスとアメリカをエンジョイする、という点ではとても良いです。読者の皆さんにも、機会があれば体験してもらいたい空間ですね。コースは走りやすいし、近くにサンフランシスコ、モントレーといった観光地もあります。昼はバイクでエンジョイ、夜はモントレーの酒場でエンジョイ、みたいな遊び方が出来るのがイチオシ。実際に酒場に行った事はないですけど、観光客が多く治安も良いので楽しそうです。思わず、『＜USモトクロス満喫ツアー＞日本から週末飛んで、数日エンジョイしてまた仕事に戻る』みたいなツアー、作っちゃいますかー!?　なんて考えてしまいました。

話を戻しましょう。カリフォルニア北部はいい場所ですが、 AMA スーパークロスの事だけを考えると、もっと中身の濃い練習をしたいし、本場にしかない本物の空気に触れる目的もあるので、欲張りなオレはここの環境はちょっと物足りなさを感じてきました。ただそうは言っても、ステイ場所にしてもいるので、練習場所を変える事は簡単でもありません。そこで少しでも本番の感覚を掴めないか、とまたレースに出てみました。 450 にスイッチして、自分の中で感覚が良くなってきたのも理由のひとつです。結果は、１位２回と３位、４位で（合計４レース）、前回より確実にステップアップしている事が実感出来ました。今度は出走３台とかではなく 20 台くらいはいたので、意味のあるリザルトですし、レースをしていて楽しかったです。１周目にトラブルで止まってしまい最後尾から追い上げたレースでは、かなりヒートアップしたみたいで、前回同様、レース後に知らない人が「おもしろかったぞ～！」みたいなノリで話しに来てくれたりして、今回はよりアメリカの風土に馴染めた感じもありました。その後も、個人レッスンの手伝い（ジェフの所）やマシン整備を手伝いながら（スクール用の）、可能な範囲でモトクロスの勉強や現地のモトクロス事情、環境を詳しく知る事が出来て、スーパークロスに向けた準備は少しずつですが進みました。

でもでも。やはりもう、スーパークロスの練習をしたいところです（編注：『スーパークロス』は厳密には『通称モトクロス』とはやや異なり、走るというより、ただひたすらにとても巨大なジャンプをクリアする事が求められ、当然、練習には専用のトラックが必要になる、という意味）。友達に聞いてお願いをしても、「多分来週かな～。スーパークロストラック持っている友人が３人いるから大丈夫だよっ」ていう軽い返事。ホントかな??　オレ、真剣なんだけどな。

その焦燥のようなものもあったのか、スーパークロスに向けてのステップとして、 AMA ナショナルの最終戦（編注： AMA 管轄の『いわゆるモトクロス』。シリーズ戦で行われ、そのレベルは世界でも最高峰。）が南カリフォルニアであるから出場しようと考え、動き始めました。いきなりスーパークロスに出るのはちょっと危険な気がしたからでもあります。ところが、ナショナルの最終戦まであと１か月、というところで古傷の膝を痛めてしまい、マシンに乗れない状態に。うえー、やってしまったー。結果的にやはり出走はキャンセルする事になって、これがスーパークロスへ向けての全体計画にも響いて、この時は相当 凹 みました。ただ、ちょうどこのタイミングで昔から身体のケアをしてもらっている整体師の鳥屋さん（編注：鳥屋 仁。佐賀県に鳥屋療術所を構え、モータスポーツをはじめ実業団などで幅広く定評がある人物）が渡米していたので、すぐに連絡を取って治療を始めました。鳥屋さんは、 AMA ライダー、ケン・ロクスン（編注： FIM 世界選手権でチャンピオンの経験もある、 KTM ファクトリーライダー）のサポートに訪れていたところを、オレが先取りしてしまったかたちなんですね。ごめんね～、ケンちゃん。

もちろん、そんな状況でもしっかりと最終戦は観てきました。灼熱の中、 250 クラスはもの凄く熾烈な争いのレースで、とても興奮。オレが出るはずだった 450 クラスは、トップの２人だけが飛びぬけていて、彼らのライディングにくぎ付け。とは言っても、本来のトップライダー３人とその他のセカンドライダー数名が怪我で走っていない状況でのバトルなので、彼らが怪我から復帰してくるスーパークロスの開幕戦は、とてつもない空間になる事は容易に想像がつきます。その後、治療を続けながら一度マシンに乗ったのですが、やはり膝の調子が相当に悪く、ライディングは控える事に。近々日本に一度帰国する予定でもあったので、そのまま帰国して検査を受けました。（日本の）家の近くに膝に関して有名な先生がいるのが、少しは幸いでした。結果は、「うーん、靭帯の付け根が剥がれてるかなー。開けてみないとわからないけど、随分、膝がぐらぐらしますねー」だと！　よくない事は分かっていましたが、こうまで症状が明らかになるとかなり複雑な心境になります。平たく言えば、『手術が必要』なのですが手術を受ける気はないので、今回は装具を付けたまま保存治療する道を選択しました。すべて剥がれていない事を祈りながら、オレの獣のような治癒力に更にエネルギーを注ぐ為、運動も少し控える事にしました。

ちょっと暗雲漂って来ている気もしなくもないですが、こんな事ではヘコタレませんよ！

＜続く＞