掲載日:2026年09月03日 フォトTOPICS
写真・文/小松 男


NPDジャパン(Circana)の調査によれば、日本の出前・デリバリー市場はコロナ前の2019年に4,183億円だった規模が、2020年には6,271億円へと急拡大。その後も伸び続け2023年に8,603億円でピークを迎えたが、2024年には8,078億円へと6年ぶりに減少に転じた。しかし2025年には8,240億円と再び増加に転じており、まさに「一度は下火になりかけたものの、生活習慣として定着し直した」市場だと言える。

その一方で、急拡大の過程では負の側面も指摘されてきた。配達員の多くが企業に雇用されない"個人事業主"という立場であるため、道路交通法上、企業に義務付けられている安全運転管理者の選任や社員教育の対象にならない、という構造的な課題が過去何度も報じられてきた。実際、コロナ禍初期には配達中の死亡事故も発生しており、安全教育の届きにくさが問題視されていた。
そこにホンダが持ち込んだのが、専用のハードウェアを一切必要としない「二輪安全運転診断アプリ」だ。スマートフォンに内蔵されているGPSやセンサー情報だけを使い、加速・減速・ステアリング操作などをスコア化する。一般的に、スマートフォン単体でのライディング計測はエンジンや路面からの振動の影響を受けやすく、精度の確保が難しいとされてきた。ホンダはここに、長年蓄積してきた車両データと統計処理を組み合わせた独自技術を投入し、二輪車特有の挙動を踏まえた高精度な計測を実現したという。さらに、世界各地で運営する交通教育センターの指導員のノウハウや、開発を支える社内テストライダーの走行データも、評価ロジックの精度向上に生かされている。

今回の実証実験は、Uber Eats Japanが主催する「Uber Eats安全運転キャンペーン」の一環として、2026年9月1日から28日までの4週間実施される。対象は、原付やバイクで配達を行うUber Eats配達パートナーのうち希望した1,500名。アプリをオンにした状態で合計150km以上走行した参加者全員に5,000円を支給し、さらに平均運転スコア上位10名には15,000円を追加支給するという、スコアとインセンティブを組み合わせた仕組みになっている。

実は日本での取り組みはこれが初めてではない。両社は2025年11月と2026年6月にも、Uber Eats配達パートナー向けのオンライン安全運転セミナーをすでに実施しており、ホンダ交通教育センターの指導員が講師を務め、天候や時間帯別の事故リスクなど、実際の配達シーンを想定したリスク予測トレーニングを提供してきた。今回のアプリ実証は、その延長線上に位置づけられる取り組みだ。
視点を世界に広げると、この取り組みの本気度がより鮮明になる。ホンダとUberは2025年3月から、Uberアプリを通じて配達パートナー向けにシミュレーション形式の安全運転コンテンツをグローバルで配信しており、2026年5月時点で世界21カ国、50万人のUberパートナーがトレーニングツールとして活用しているという。今後は自動車ドライバー向けコンテンツの制作・配信も計画されているというから、二輪にとどまらない広がりを見せている。

ホンダは「Safety for Everyone」というグローバルスローガンのもと、2030年までにホンダ製の二輪車・四輪車が関わる交通事故死者数を2020年比で半減、2050年までに"交通事故死者ゼロ"という壮大な目標を掲げている。今回のアプリも、2023年に北米で先行展開した四輪向け運転診断アプリ「Honda Driver Coaching」で培った知見を二輪へ応用したものだ。一見、バイク専門メディアの読者からすれば地味な話題に映るかもしれない。しかし、雇用関係のない配達員という、本来安全教育が届きにくい層にまで手を伸ばそうとするこの姿勢こそ、交通安全に本気で取り組んできたホンダらしさだと言えるのではないだろうか。







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