掲載日:2025年02月28日 試乗インプレ・レビュー
写真/川上 礁太 取材・文/小松 男
KAWASAKI W800 vs KAWASAKI MEGURO K3
やってきました話題の対決(比較)企画。今回は2台とも同じカワサキから製造・販売が行われているW800とメグロK3です。
ネオクラシックブームと言われる前から長い歴史を持つW800と、その始祖とも言える存在であり復活したメグロブランドの第一号車となったメグロK3。つまり血縁関係を持つモデルです。しかもフレームやエンジンなど基本構成は共通とされています。
なので、はっきり言ってしまうと多くの人がリバッジモデル(エンブレムの違いなど小変更を加えたモデル)だと考えていると思いますが、実際に見て触れて走らせてみると、カワサキがそれぞれのモデルに込めた思いというものが伝わってきました。せっかくですので簡単に歴史を振り返りつつ、ルーツを繋いできた名機W800と現代に蘇った伝説メグロK3という2台の違いなどを探っていきましょう。
メグロK3は1965年に登場したカワサキ 500メグロK2(メグロスタミナK2と呼ばれることもあり)の後継と捉えることもできます。60年もの時を経て復活を遂げたメグロブランドは、現在のカワサキを語る上で外せない存在でもありました。
細かい違いは後述しますが、大きなポイントとなるのはハンドルバーの仕様が異なることで、メグロK3の方が断然高い位置にセットされています。このライディングポジションの違いにより、走らせてみるとかなり両車の印象は違います。
W800と比べてメグロK3のハンドルは高く、ライダーに近い位置にセットされています。おのずと上半身は立ち気味となるのですが、このライディングポジションは街中をクルーズする時などに大変楽に感じます。
車両の歴史的な話は本文を参照していただくとして、W800もルーツを遡ればメグロに辿り着くモデルではあります。そして現在のW800は1999年に登場したW650から続いてきました。スタイルを見てもメグロK3と同じ方向性であることが分かります。
W800の方が、ハンドルセット位置が低くフロントタイヤの抑えが効き、ハンドリング的にはややスポーティな印象を受けます。とはいえ窮屈なライディングポジションではなく、あくまでも自然な姿勢で走らせることができるという感じです。
メグロという名称は元々目黒製作所に由来しています。1937年(昭和12年)にメグロ号を発売したのが目黒製作所です。大正時代から昭和にかけて輸入メーカーがほとんどだった中で、国内メーカーが研究し開発を進めた国産モーターサイクルの黎明期でした。
現在のカワサキの前身となる川崎航空機工業はそもそも軍用機などを開発製造していましたが、その後大戦の終結によって技術者たちが小排気量モーターサイクルに着手しメイハツを誕生させます。
なお、1950年まではわずか数社だった国産メーカーはその後爆発的に参入が伸び、1955年(昭和30年)までに約150ものメーカーが全国に生まれたと言われています。もちろん、誕生、そして淘汰されるメーカーもたくさんありました。そのような時代の中、大排気量モデルを手掛けている目黒製作所と小排気量モデルの製造を行っていた川崎航空機工業は業務提携を結んだのです。実際には、目黒製作所の業績が振るわず経営破綻となり、川崎航空機工業に吸収される形でしたが。
その時代の流れの中にカワサキ・500メグロK2があり、その後継モデルとして伝説の名機W1が登場したのです。つまりメグロブランドが無ければ現在のW800は無かったということになりますし、そのルーツを重んじた結果、満を持してメグロが復活したということなのです。歴史のお話はこのくらいにして、それでは両車の違いを探っていきましょう。
メグロK3と比べるとW800の方がスポーティなハンドリングを楽しめます。個人的にはワインディングロードを駆け抜けるようなシーンではW800の方が好みです。ただ、あくまでも楽ちんポジションを求めるならメグロK3をお薦めします。
W800とメグロK3の燃料タンクは同形状です。見分けるにはまずエンブレムだと思うのですが、銀鏡塗装や手作業で色付けされたエンブレムの採用などメグロK3の方が、高級感があります。しかしW800もタンクの上面の塗装はメタリック仕上げが施され負けていません。
ツインショックタイプのリアサスペンションを見比べると、メグロK3はカバーが装着されています。使用されているショック自体は同じなのですが、随分と印象が異なり、W800の方が軽快感ある見た目です。
排気量773ccバーチカルツインエンジン、最高出力52馬力、最大トルク62Nmとすべて共通のスペックを持つエンジンを両車は採用しています。ただメグロK3はベベルギアカバーが赤く縁取りがされているなど見た目の変更はされています。
今回の対決テストを行う前はW800とメグロK3の乗り味について違いを語るのはなかなか難しいものがあると考えていました。しかし走らせてみるとそれぞれのキャラクターにはちゃんと特徴がありました。
まずはハンドルバーの違いよりライディングポジションが異なる点です。メグロK3のハンドルの方がライダー側に近く、しかも高い位置に置かれているために、上体が立った姿勢のライディングポジションになります。ハンドルを切った際に、外側の手が遠くなるので小柄な体格のライダーは扱いにくいと感じることもあるかもしれませんが、ある程度のペースでクルージングを楽しむようなシーンではとても快適です。
対してW800はメグロK3と比べて、やや上体が前傾する姿勢のライディングポジションとなります。フロントタイヤに荷重をかけやすくスポーティな走りを楽しむことできます。メグロK3が227kgなのに比べW800が226kgと車体重量に違いがあり、ペースを上げて行った際にフロントの抑えが利くW800の方が、安心感があります。
ちなみにエンジンのスペックは同じなのですが、上体が立っているライディングポジションのメグロK3の方が、加速時など腹部あたりに響く太いトルクを強く感じることができます。
シートを比べてみると、W800はタックロール、メグロK3はプレーンな表皮です。縁にパイピングが施されているのは共通。シート高は790mmで同じ。それぞれ全体的なスタイリングに合わせた仕様となっています。
乗り味に関して大きな違いをもたらしている両車のハンドルバー。並べてみるとその差は歴然なのですが、メグロK3の方が高く、手前にセットされています。交換することもできるはずですが、その際にはケーブル類も変更しなければならないと思います。
メグロK3とW800の差というものは少なく、はっきり言ってしまうと双子モデルと言って良い関係です。しかし伝統を重んじて復活を遂げたメグロK3は各部の仕上げを見ると全体的に凝った造りがされていることが伝わってくることは確かです。
「どうせ買うならメグロK3にするか!」と選ぶユーザーも多いようで、W800と比べて16万5000円も高い140万8000円という車両価格にも関わらず販売状況は良好で、しっかりと世間に受け入れられる存在となりました。
ちなみに両車を見比べてみても、W800は決して見劣りすることはありません。むしろ40~50代くらいの年齢層であれば、スポーティな見た目と走りを得られるW800の方が走らせていてしっくりくるのではないかと思えます。それに1999年に登場したW650から代々試乗テストをしてきましたが、現在のW800は本当に良くできていると思います。
何にせよ、目黒製作所、川崎航空機工業の歴史を昭和、平成、令和となった今まで繋げている両車です。どちらを選んだとしても所有すれば長く付き合うことができる魅力的なモデルであることに違いはありません。
W800とメグロK3のメーターを見比べるとパネルやベゼルなどが異なることが分かります。メグロK3の方が全体的にブラックアウトされており、W800の方はクロームメッキ仕上げのパーツが多用されています。
足まわりは前後とも両車共通の仕様です。フロントはシングルディスクですが、リアのディスク径が大きく、前後のブレーキを併用することで十分な制動力を得られています。前後フェンダーがスチール製なのもクラシカルで好みです。
リアブレーキのディスク径が大きめなのがわかると思います。ABSも標準装備なのでロックも防いでくれます。排気音もしっかりチューニングされており、歯切れの良いツインサウンドを周囲に轟かせます。
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