掲載日:2025年02月07日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
KAWASAKI MEGURO S1
どのモデルからはじまったと断定することは難しいが、昨今カワサキがマーケットに導入するモデルはすべて大ヒットとなっていることは周知の事実だ。カワサキの看板モデルであるニンジャシリーズはもとより、Z900RS、エリミネーター、KLXなど出せば当たる状況となっている。その裏側にはマーケットに求められているニーズを先読みしてしっかりと応えていること、さらに実際に走らせてみても高い完成度を誇っているということがある。
そんなカワサキが2021年にメグロK3で『メグロ』ブランドを復活させたことは記憶に新しいが、2024年秋にはメグロブランドに普通自動二輪免許で乗ることができる新たなモデル、メグロS1が追加された。今回はメグロS1に触れ、現代に蘇った名門ブランドの真価を探る。
”メグロ”という車名を聞いてピンとこない方もいることと思うので、まずはかつて存在したメグロ(正式名称:目黒製作所)というモーターサイクルブランドのことから書き始めるとしよう。
島津モーター研究所が開発した国産モーターサイクルの始祖と呼ばれているNS号が誕生したのは明治42年(1909年)のこと。それは日露戦争を勝利で終えた後、富国強兵を国策として勢いに乗る時代だったこともあり、NS号を追うように日本各地でモーターサイクル開発が進められた。大正に入ると輸入車を中心に徐々にモーターサイクルは普及し、レースや愛好者によるクラブなどが誕生し始めていった。昭和に入ると中川幸四郎商店のキャブトン号、岡本自転車製作所のノーリツ号、宮田製作所のアサヒ号など次々と国産車が登場し、その中に東京の目黒製作所が造り上げたメグロ号(昭和12年)もあった。
一方で当時のカワサキはというと、太平洋戦争時には飛燕などの戦闘機を製作していた川崎航空機の技術者たちが昭和20年の敗戦後に培ってきた経験と技術をもとにモーターサイクルエンジンを手掛け車両を開発し世に送り出していくこととなる。
昭和30年代後半に入ると戦後景気は終焉を迎え、日本国内は不況へと陥っていた。そのような中、川崎航空機はモーターサイクル業界の老舗である目黒製作所と業務提携を結ぶこととなる。昭和36年には二輪販売会社カワサキ自動車販売(カワサキ自販)が発足し、”カワサキ”、”メグロ”の発売元となる。しかし昭和39年、資金難となっていたメグロの工場が操業停止、カワサキ航空機工業に吸収されメグロブランドは消滅することとなる。
ここまでの事柄をお読みになって、今の世の中で起きている社会問題とオーバーラップしている部分があるようにも思えなくはないだろうか。ただメグロの場合、未来は明るいものとなった。それというのも長い年月が経った2021年、W800をベースとしたリバッジモデルであるメグロK3が登場し、メグロブランドはついに復活したのである。
そして2024年秋、W230のリバッジモデルである今回紹介するメグロS1が登場した。余談だが2024年はメグロ100周年のアニバーサリーイヤーでもあった。それではメグロS1に実際に触れ、感触を探っていくことにしよう。
昨年のモーターサイクルショー以来、数度メグロS1を見たことはあったが、いざ試乗テストを行うこととなり実車を目の前にすると、これまで思っていた以上にコンパクトにまとめられていることが分かる。ただその印象を大きく上回るインパクトがあるのが、ブラックとクロームメッキで纏められたカラーリングなのだ。ぱっと見、いつの時代に作られたかわからないほどのクラシカルさにより、サイズ感は二の次となっていたのである。それに、リバッジモデルであるW230の時は、”ん? エストレヤ?”と思ってしまったが、こちらは燃料タンクまわりのメッキ仕上げや専用エンブレム、ニーグリップパッドなどによりしっかりと”メグロ色”が押し出されている。
そもそもエストレヤの出自を思い返すと、60年代に登場したメグロSGの復刻版のようなものであったし、今回のメグロS1はそのメグロSGの後継モデル的な位置づけとなっているのでルーツは一緒と言えるのである。
シート高は740mmで、身長177cm体重71kgの私が乗るとべた足なうえ、全体的には少々小さいとも思えるサイズだ。車両重量も143kgと抑えられているので、取り回しも容易。これならば普通自動二輪免許を取得したばかりのビギナーでも安心して扱えるであろう。
エンジンを始動すると、キャブトンタイプのマフラーからシングルエンジン特有の歯切れの良いサウンドが聞こえてくる。ギアを一速に入れて走り出す。低回転からトルクがあり扱いやすい。しかも粘ってくれるのでイージーなライディングを楽しむことができる。発進時にスロットル操作をせずともエンストをしないよう自動的に回転数をキープする機能もあり、クラシカルな見た目とは裏腹に、中身は現代的な仕上がりとなっていることが分かる。
フロント18インチ、リア17インチのタイヤセットとされており、しかも細身のバイアスタイヤであることから、ハンドリングもオールディーズな感触となっている。それであっても、しっかりとした制動力を持つブレーキや、十分な性能を持つ前後サスペンションのおかげで、ややスピードを上げ気味に走らせたとしても不安感は無い。
ボアストローク量67×66mmのほぼスクエアとした232ccシングルエンジンは、250ccの旧エストレヤと乗り比べるとややパワーが乏しいと思えるかもしれないが、吹け上がりが早く、シャシーや足まわりなどの全体的なバランスが良いため、総じて乗りやすくフィーリングも良い。
4000~5000回転を使ったクルージングは快適、5000回転前後のトルク感は心地よく、6000回転からレッドゾーンまで一気に吹け上がる快活さもある。1週間に渡る試乗テスト期間では、歩行者などから注目されているようにも思えたし、年配の方から「いつのバイクですか?」と声を掛けられたこともあった。クラシカルな装いが人目を惹きつけるのである。
鉄製のフェンダーや燃料タンク縁の綺麗な溶接痕、鏡面メッキなど各ディテールの質感が高く、それだから全体的な高級感、オーラがあるのだと思う。眺めてみて、走らせてみて、メグロS1はとても良いバイクだということが分かったのだが、後々プライスリストを確認すると72万500円となっており、対してW230が64万3500円だということを知ると、どちらを選ぼうか思案のしどころだな、と思った次第だ。
排気量232cc、空冷4ストロークシングルエンジンを搭載。最高出力18馬力を7000回転で発生する。環境規制が厳しくなる現在においてよくぞ空冷エンジンを残してくれていると思う。
フロントタイヤは90/90-18サイズ。ニッシン製のブレーキキャリパーは十分な制動力を持ち、さらにABSも標準で装備する。ホイールのスポーク部分につけられた”ウエイト”がクラシカルな雰囲気を助長する。
燃料タンク容量は11リットル。燃費は40.5km(WMTCモードカタログ値)と良好。何よりもメグロ専用エンブレムやクロームメッキ仕上げ、それと縁の綺麗な溶接痕などによるルックスがナイスだ。
リアタイヤサイズは110/90-17、フロントと同様に細身のサイズ設定であり、ハンドリングもビンテージバイクのような感触だ。出口部分が絞られている通称キャブトンタイプのマフラーも全体的なフォルムと似合っている。
トランスミッションは6段リターン式。各ギアが割とロングな設定であるために、さほどこまめなシフトチェンジをせずとも走らせることができるのもポイント。ステップ先のセンサー部分が接地しないよう気を使って走らせていたが、バンク角もそこそこある。
縁にパイピング処理が施されたシートはW230と大きな違いの一つとなっている。シート高は740mmと低く抑えられているが、シート下部のサイドカバーが左右に出っ張っていることが多少気になった。タンデムシートもフラットで使いやすい。
ベゼル部分がクロームメッキとされたオーソドックスな丸型ヘッドライト。ウインカーの大きさも良い。ライトそのものはLEDを採用しており、耐久性も高そうである。
リアサスペンションはツインショックタイプとなっており、左右独立したプリロード調整機構を持っている。日常使用域では過不足無く十分な性能だと思えた。
テールセクションもクラシカルなスタイルで纏められている。フロント・リア共にスチールフェンダーとされているのも雰囲気があって良い。
速度計と回転計をそれぞれ独立させた2連メーターを採用。W230とは文字盤が異なる。カタカナを使った「メグロ」ロゴがキャッチーだ。ETCランプを備えているところなど、ユーザーのことを考えるカワサキらしい気遣いである。
アップタイプのバーハンドルは幅、高さが具合よく、誰でも気負うことなく扱うことができる。丸型バックミラーなども相性良く纏められている。
シート下のユーティリティスペースにはETC車載器+αの余裕が確保されている。シート裏には日常的なメンテナンスでも使える車載工具が収められている。
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