掲載日:2022年06月27日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/淺倉 恵介
HONDA HAWK11
HAWK11の何が特徴的であるかといえば、国内専用車であることだと思う。現在、市販されている国産バイクのほとんどはグローバルモデル。世界の幅広い地域で、基本的に同仕様のバイクが販売されている。コスト意識が高まった昨今、仕向地別に異なったモデルを開発・生産するのは難しい。ところがHAWK11は、日本でのみ販売される専用車だ。本来であれば、国によって異なる気候風土や、国民性に合わせたバイク作りが理想であるはず。それが許されない時勢の中で、日本専用車をリリースしたホンダの英断に拍手を送りたい。日本の国土と日本のライダーに最適化したバイクを作りたい! その情熱がなければ、HAWK11は誕生し得なかったはずなのだから。
また、ビッグツインスポーツにホーク? と訝る人が多いと聞くので、少し豆知識を紹介しておこう。「HAWK」というネーミングに違和感を覚えるのは、アラフィフ以上だろう。その年代のライダーにとって、ホークといえば1970年代にデビューしたパラレルツインエンジンを搭載する普通二輪、いや中型バイクを指すからだ。ところが、ホークは懐かしいだけの車名ではないのだ。あまり知られていないことなのだが、VツインスポーツモデルVTR1000Fの北米仕様には「SUPER HAWK」というペットネームが付けられていた。ビッグツインエンジンを積むスポーツバイクが、HAWKの名を冠するのには意味があるのだ。
エンジンはCRF1100L Africa Twin由来の、排気量1,082ccの水冷4ストローク4バルブOHCパラレルツイン。ベースモデルのアフリカツインを上回る、102PSの最高出力と10.6kgf・mの最大トルクは、吸排気系の変更によって獲得したもの。同系エンジンを搭載する兄弟車のNT1100とスペック上は共通。マフラーの多くのパーツをNT1100と共有しているが、HAWK11のマフラーはテールアップスタイルでマウントされている。これはバンク角の確保目的のため。また、アフリカツインやNT1100、同系エンジンを搭載するRebel1100のトランスミッションはDCTが主力となっているが、HAWK11はコンベンショナルな6速マニュアルミッションのみ。スポーツバイクとして生み出された、HAWK11のキャラクターを象徴するメカニズム。フレームもアフリカツイン、NT1100と基本的に共通なものを使用。前後サスペンションとホイール&タイヤサイズの変更で、ロードスポーツとしての乗り味と走行性能を実現している。
スタイリングで大きな特徴となっているのが、カフェレーサーを想起させるロケットカウル。一般的な量産バイクのカウリングは、ABSなどの樹脂の成形品が使用されるのだが、HAWK11のカウルはFRP製。生産コストが高いFRPカウルだが、ABSに比べると軽量で強度が高く設計できる。HAWK11のロケットカウルは、そのデザイン性の高さもさることながら、存在自体がプレミア感を演出している。もちろん、その効果はファッション面だけではない。バイクの運動性向上にはマスの集中が欠かせない。重量物は可能な限り、車体のセンターに集めたい。ABS製のカウルはそれなりの重量物なので、軽量なFRP製カウルは運動性を高めることにも寄与しているのだ。
まず気づいたのは取り回しの軽さ。スペック上の車両重量は214kg、リッターバイクとしては軽め……とはいうものの、実重量が軽いとはいえない。なのに、車重から想像されるものより押し歩きは軽快だ。重心の低さと、幅があって押しやすいハンドルのおかげだろうか? ともかく、車格や車重を考えると取り回しは軽い。
バイクに跨りハンドルに手を添えると、意外なほど上半身の前傾は深い。形だけでなく、ポジションはしっかりセパレートハンドルのそれ。ステップは適度に後退した位置にあり、ハンドルとの位置関係に無理がない。自分は身長が163cmと小柄で、日本人らしい短足体型なのだが、両足の指の付け根まで着地する。シート高は格別に低いわけでもなく820mmあるのだから、足つき性は良好と言っていいだろう。ここでも重心の低さがプラスに働き、停車時にマシンを支えている時の安定感は高い。
走り始めて、最初に感じたのは“ミラーが無い!”だ。ハンドルの下側にマウントされたミラーは、HAWK11のデザインアイコン。実にスタイリッシュなのだが、“あの位置で見えるのか?”と疑問を抱かせる部分でもある。で、実際に走ってみての感想だが、後方視界はちゃんと確保されている。円形でコンパクトなミラーなので視界が広いとはいえないが、必要十分ではあるレベル。慣れないうちは特異なミラー位置に戸惑うが、自分の場合はすぐ慣れた。バーエンドミラーよりは視線の移動量が少なくて済むし、バンク中に上半身を伏せている時などは一般的な位置のミラーより余程後方が見やすかった。
エンジンはアフリカツイン由来の270度位相クランクを持つパラレルツイン。このエンジンはトルクの太さと鼓動感の豊かさがポイントだが、HAWK11でも基本特性は変わらない。トルクは太く、パワーバンドは広い。大排気量、大トルクのエンジンと聞くと、低速域でのギクシャク感が心配になるものだが、そうした悪癖は皆無。どこまでもスムーズでフラットだ。その分高回転域での盛り上がりに欠けると感じるかもしれないが、メーターを見れば思った以上にスピードが出ていることに驚くだろう。1,000ccを超える排気量と、100馬力を超えるパワーは伊達ではないのだ。
車体は基本的に安定志向。コーナーでは寝かせ始めは多少重さを感じるが、バンキングが始まるとマシンはスルっと寝てくれる。そして、バンク角の深まりとリンクして、弧を描くようにコーナーを曲がっていく。これは、HAWK11の車体設定によるものだろう。例えばCBR1000RR-Rのホイールベースは1460mm、キャスター角は24度でトレール量は102mm。対してHAWK11のホイールベースは50mm長い1510mm。キャスター角は1度寝かされた25度だが、トレール量は4mm短い98mm。基本的に安定性重視なディメンジョンといえるのだが、低中速域での軽快なハンドリングも意識したもの。セパレートハンドルを採用しており、上半身が前傾するライディングポジションからもスポーティなイメージのあるHAWK11だが、数値的な面から見ると車体設定はスーパースポーツよりもネイキッドに近いものだ。
実際に走ってみての感覚、特にコーナーでの操作感はネイキッド的だ。ネイキッドからスーパースポーツに乗り換えると、思ったようにマシンを曲げられず戸惑う人は少なくない。ライディングポジションの違いが雌雄の一つなのだが、その点HAWK11であれば車体が乗り手をフォローしてくれるだろう。違和感なくコーナリングを楽しめると思う。スーパースポーツのようにスパッと向きが変わるわけではないし、“大きく重いものを動かしている”という感覚はある。けれどその“手応えの重さ”が、ビッグバイクを操っていることを実感させてくれて楽しい。また、フロントブレーキが秀逸。軽くない車重をガッシリ受け止めるストッピングパワーとコントロール性を両立。制動力の立ち上がりが早いところも好印象。その反面、リヤブレーキは物足りない。かなり強く踏まないと、思ったように減速してくれない。もっとも、コーナリング中の姿勢コントロールや、Uターンで引き摺って使うには問題はない。
少し話は変わるのだが、ワインディングでのインプレッションをとるために、国内の峠道にありがちな中速コーナーと短いストレートで構成されるルートを走った。最初のうちはHAWK11のキャラクターを探ろうと、いろいろな操作をしてマシンの反応を試していたのだが、そのうち楽しくなってしまいインプレッションを忘れた。そこで気付いたのが、走りに集中していたらギヤが3速固定のままだったこと。トルクバンドが広いエンジンだから、忙しくギヤを変えずとも十分走れてしまう。回転が落ちて美味しいトコロを外しても、そこからスロットルを開ければ、鼓動感豊かな息の長い加速が気持ちイイ。HAWK11で峠を走るのなら、オートマ走行がラクで楽しいのかもしれない。操る楽しさを重視して6速マニュアルシフトのみ設定されたと聞くが、DCTでも面白く走れるのではないだろうか? 兄弟車のアフリカツインとNT1100にはDCTが主力なのだから難しくはないハズだ。HAWK11のDCT仕様はアリだと思う。
楽しいといえば、高速クルージングも実に素晴らしかった。直進安定性は抜群にいい。車体の重さと大きさが、良い方に働いている。6速で巡航する時のエンジン回転数は、100km/hで3,500rpm。そこからスロットルを開けると、一瞬のタメはあるが十分についてくる。120kmhだと4,000rpmくらいまで回っているので、スロットル操作に連動する感覚でパワーを引き出せる。120km/hも出ていれば、風圧が上半身を支えるように働くので前傾姿勢もマイナス要素にならない。そして、エンジンからは心地よい鼓動が伝わり続ける。狂ったように飛ばすのではなく、適度なスピードでのクルージングがなんとも気持ち良く、どこまでも走っていきたいと感じてしまった。仮定の話になるのだが、もう少しエンジンが回っていると更に気持ち良いクルージングが楽しめるので、日本の速度制限が150km/hになってくれないかなあ? と夢想するのだった。
ビッグツインというと、エンジンのテイスト重視で走りは二の次のクルーザーや、快適だが重いツアラー。でなければ軽さを活かした過激過ぎるスポーツバイク。と、いったキャラクターのマシンでラインナップが固定されてきた。けれどHAWK11は、どの枠にも当てはまらないように思う。ビッグツインスポーツの新しい形なのかもしれない。なんともホンダらしい独自性が、HAWK11にはある。
パラレルツインエンジンの排気量は1,082cc。水冷4ストロークOHC4バルブ。バルブ駆動は直打式とロッカーアーム式を併用する、ホンダ独自のユニカムバルブトレイン。270度位相クランクを採用する。走行シチュエーションに合わせた4種類のパワー特性が選択可能なライディングモードを装備。スロットルは電子式のスロットル・バイ・ワイア(TBW)。
フロントのブレーキローターは、φ310mmのフローティングディスク。ブレーキキャリパーはニッシン対抗4ピストンラジアルマウントを組み合わせる。強力なストッピングパワーと、精密なコントロール性を実現している。
フロントブレーキのマスターシリンダーは、ニッシン・ラジアルポンプマスターを採用。ストローク感のあるレバータッチとブレーキフィーリングは、ラジアルポンプマスターならでは。
フロントフォークは、軽量で優れたダンピング特性に定評あるショーワSFF-BP。アジャスト機能はプリロード調整のみ装備。ハンドルバーは、トップブリッジより下側にクランプされる。
スイングアームはアルミ製で、HAWK11の専用品。リアサスペンションは、ホンダ独自のプロリンク式を採用する。
リアショックユニットには、油圧式のプリロードコントローラーを標準装備。体重や走り方に合わせてのアジャストが、工具なしに行うことができる。
リアブレーキはφ256mmのローターに、片押しピンスライド1ピストンキャリパーを組み合わせる。当然ABSを装備する。
メインフレームはスチール製のセミダブルクレードル形状だが、バックボーンはツインスパーフレーム的な太さが与えられている。基本設計はアフリカツインとNT1100と共通。シートレールはアルミ製で軽量化。
シートはコンベンショナルなダブルタイプ。座面はフラットで前後に長く、着座位置の自由度は高い。オーセンティックなデザインだが、シートスポンジはかなり硬くスーパースポーツ的な座り心地。
ETC2.0車載機を標準装備。シート下には空間があるにはあるが、小物入れとして活用するには容量も形状も問題がある。収納可能なのは、書類とウェス程度だろう。
HAWK11のデザインアイコンたる、斬新なミラーマウント。カウルステーから分岐したミラーステーによって支持されている。慣れが必要なのは確かだが、後方視界はしっかりと確保されている。
アッパーカウルを内側からみると、ガラス繊維が貼り付けられていることがわかる。FRP製であることを証明していると共に、デザイン面でもユニークなワンポイントとなっている。
フューエルタンク容量は14L。燃費性能に優れたエンジンを搭載してはいるが、リッターバイクとしては少なめの容量。航続距離は、あまり長くはないだろう。
テールカウルはFRP製で、HAWK11専用品。テールランプの光源はLED、ヘッドライトとウインカーもLEDを採用する。
メーターはフルLCDで、視認性の高い反転表示を採用。車速、エンジン回転数、ギヤポジション、時計、燃料計、ライディングモード、外気温等を常時表示。走行距離や燃費情報は選択式の切り替え表示となる。
ライディングモードとメーター表示の切り替えは、全て左ハンドルスイッチで操作する。「MODE」ボタンで切り替えたい領域を選択し、シーソー式の「SEL」スイッチで表示やパラメーターを選択。操作方法はシンプルで覚えやすい。
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