掲載日:2020年01月29日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/伊丹 孝裕 写真/井上 演
KAWASAKI W800
ゼファー(1989年)の成功によって、高スペックがバイクのすべてではないことを世に知らしめたのがカワサキだ。1999年に送り出したW650でそれを決定的なものとし、日本のネオクラシックブームをけん引。その魅力はW800へと引き継がれたものの、2016年のファイナルエシションで惜しまれつつ姿を消した。
そんなWが2019年3月に復活。W800ストリート、そしてW800カフェという新しい名称が与えられて登場したわけだが、実はもう1機種、本命とも言うべきモデルが準備されていた。それが末尾になにも付かない、無印のW800である。2019年12月の発売開始以来、すでに好調なリリースを記録。ストリートやカフェとの違いも含めつつ、そのフィーリングをお届けしよう。
新型W800の存在が明らかになったのは、2019年秋に開催された東京モーターショーでのことだ。その時、ニンジャZX-25RとZ H2とともに大々的に発表されたのだが、それら2機種に対して、W800はやや地味に映った感は否めない。なぜなら、既述のW800ストリートと同カフェがリリースされて、その時点で半年以上が経過。シルエット自体はすでに見慣れたもので、一見しただけではカラーバリエーションの追加程度に思えたからだ。
ところが、そこにはフロントホイールの大径化という大きな違いがあった。W800ストリート/カフェが前後に18インチホイールを採用していた一方、W800はフロントに19インチを選択。端的に言えば、スポーティな18インチと落ち着きのある19インチという差が与えられていたのだ。
その他にもハンドル形状、シート、前後フェンダー、メッキパーツの多用、エンジンの表面処理、フロントフォークのバフ掛け、センタースタンド、グリップヒーター(カフェには標準装備)などをW800専用パーツとして装備。若々しいストリート/カフェに対し、その雰囲気はよりクラシカルなものになっていたのである。
ホワイトのパイピングが施されたシートの高さは790mmだ。足つき性は極めて良好な部類に属し、乗車する時もプレッシャーはまったくない。そこから手を伸ばしたちょうどいい位置にハンドルがあり、上体の前傾も穏やかそのもの。クルーザーのように大きくプルバックしたストリートと、低く絞られているカフェとの中間あたりにグリップがあり、ライディングポジションは最も自然だ。
エンジンはどのモデルも共通で、2016年型のW800ファイナルエディションのそれに対し、高回転型になっている。具体的には最大トルクの発生回転数が2,500rpmから4,800rpmへと大幅に引き上げられ、それでいてギヤレシオやファイナルに変更はないにもかかわらず、線の細さは皆無。キャブトンタイプのマフラーから吐き出される力強い排気音と鼓動感を伴いながら、右手の操作ひとつでグングンと加速していく。
高速道路を100㎞/hで巡行した時のエンジン回転数は3,500rpm付近を指し、7,000rpmから始まるレッドゾーンに対して十分な余力を確保。最高出力自体は52㎰と控えめながら、パワーに不足はまったくない。
そんなW800の真骨頂は、やはりフロント19インチの美点が味わえるワインディングにある。コーナーに向かって車体をリーンさせると、浅いバンク角から十分な旋回力を発揮してくれるのだが、だからと言って軽快過ぎない手応えがポイントだ。ある程度のバンク角に達するとビタッと粘り、そこから先はオンザレール感覚でラインをトレース。フロントタイヤから滑って転ぶことがまったく予想できないほどのスタビリティは高い。
18インチだと軽快感が続き、それはそれでスポーティと言えるのだが、ユラリユラリとしたおおらかなハンドリングに身体をゆだねていたいライダーには19インチが向いている。
パワーやグリップ力、電子デバイスで限界が引き上げられたバイクは数多いが、そういったものに一切頼らずともライディングの醍醐味はしっかり味わえること。それを教えてくれるのがW800であり、これからも継承されていくべき日本の正しいスタンダードバイクだ。
燃料タンクは15Lと十分な容量が確保され、WMTCモードで21.1㎞/lの燃費を公称する。深みのある艶やかな塗装とクロームメッキのエンブレムが質感の向上に貢献。ニーパッドはW800カフェと同デザインのものが装着されている。
1999年のW650から変わることのない、キャブトンタイプの2本出しマフラーを採用。表面には厚みのあるメッキが施され、その仕上がりは美しい。低回転域ではズ太く、高回転域ではメカノイズをともなったビッグツインらしい迫力の排気音を奏でる。
W800にはセンタースタンドが標準装備される。チェーンへの給油やタイヤの空気圧チェックなど、メンテナンス時の利便性が大きく向上。ホイールまわりの洗車も行いやすい。
グリップヒーターを標準装備。温度調整機能は付かないシンプルなON/OFFタイプだが、操作性に優れる。クラッチレバーとブレーキレバーにはダイヤル式のアジャスターが備わり、手の大きさや好みによって位置調整が可能だ。
メーターは右に回転計、左に速度計を配置したシンプルな2眼式を採用。アナログとデジタルディスプレイが組み合わせられ、その情報は整理されている。文字盤の色やフォントは、W800/ストリート/カフェそれぞれで異なる。
W800/ストリート/カフェで異なるのはハンドル形状も同様だ。W800の高さはストリートとカフェの中間にあり、グリップの絞り角は最も穏やか。上体の前傾姿勢、シートとステップに対する位置関係などはごく自然なものになっている。
おおらかなハンドリングとネオクラシックらしい端正なスタイルの決め手になっているのが、フロントに採用された19インチホイールだ。ブレーキにはφ320mmのシングルディスクとトキコの2ポッドキャリパー(ABS付き)が組み合わせられている。
2016年型以前のWシリーズはリアにドラムブレーキが採用されていたが、2019年に復活してからはディスク化され、ABSも装備。Φ270mmの大径ディスクが備えられている。リアホイールのサイズは18M/C-MT3.00で、ダンロップのスポーツバイアスタイヤ・K300GPを装着。
樹脂フェンダーを装着するストリートとカフェに対して、W800にはクロームメッキが施されたスチールフェンダーが前後に採用されている。美しさとともに耐久性も大幅に向上し、よりクラシカルな雰囲気が強められている。
シリンダーヘッドの右側に見える丸いカバーの中には、カムシャフトを駆動させるためのベベルギアが組み込まれている。1999年に発表されたW650の開発陣が、エンジン外観の美しさにこだわり、あえて採用した技術である。
白いパイピングを持つタックロール入りシートはW800の専用だが、ストリート用とカフェ用とも互換性があるため、交換することは容易。ストリート用を選べば、シート高を790mmから770mmにローダウンすることも可能だ。
バイクから離れる時に便利なヘルメットホルダーを装備。荷掛け用のフックなども含め、カワサキの車両は利便性を重視したものが多い。リアサスペンションのプリロードは5段階の幅で調整が可能。タンデムや荷物の積載量、ライダーの体重によって簡単に変えられる。
視認性と被視認性を確保するため、ヘッドライトはLED化されている。その一方で、クラシカルな雰囲気を損なわないよう、凸面レンズやクロームメッキ仕上げのリングを採用するなど、きめ細やかな配慮が光る。
シート下のスペースには、ETC2.0車載器キットを標準装備。その前部には書類と車載工具の収納スペースが設けられている。
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