掲載日:2010年03月10日 特集記事 › カムは重い方がいい?
記事提供/2009年11月1日発行 月刊ロードライダー 11月号
■Report/石橋知也 ■Photo/富樫秀明/柴田直行
■取材協力/ヨシムラジャパン TEL046-286-0321
ある種のダルさが
雨の8耐優勝をもたらした
話をカムに戻そう。カムを重くするためにバランスウエイトを付けるという手法は、実はかなり以前からあって、レーシングエンジンでは'07年8耐からホンダCBR1000RRが採用していた。ただし、JSBや世界耐久のレギュレーションでは、カムの材質は市販車から変更不可となっていたため、STDの鋳造品の素材カムから加工していたヨシムラは採用していなかった。ところが他社が丸棒からの削り出しカムを使っていて(ウエイト付きもあった)、これを抗議したのだが、鋳造も丸棒も「鉄」であるという見解から、合法となった経緯がある。ヨシムラは鋳造と丸棒は製造方法も素材も異なるという判断から、STD改としていたのだ。合法となれば使わない手はない。そこで'09年鈴鹿8耐に向けて削り出しのウエイトカムを採用することになった。実際にウエイトなしでは動弁系の挙動が安定せずに、鈴鹿300kmの事前テストの時には2基が、エンジントラブルを起こしてしまっていた。
「4輪では、カムにフライホイールを付けて動弁系の挙動を安定させるという手法を、量産車でも使っています。JSBで使って結果も良いので、GSX-R1000K9用に市販することになったんです」(加藤)
おそらくバイク用市販品では世界初のウエイト付きカムだ。
「ライダーは、いい意味でダルで開けやすいという。空ぶかしのピンピンというピックアップの良さではなく、本当にタイヤをグリップさせて開けられる。では、ビッグバンは低中速型のカムかというとそうではなくて、トルクピークが低いわけではないしパワーも出てます」(加藤)
効果は大きかった。加速時ばかりではなく、エンジンブレーキの効き方も変わり、バックトルクリミッターのセッティングまで変更した。「だから、あの雨の8耐で勝てたんだ、転倒もせずに」(不二雄)
ウエイトを付けて重くなった分、回転慣性力に影響の小さい軸部は、中空の内径を広げて軽量化してある。ところでその恩恵は、アマチュアが公道でも味わえるのだろうか。
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| 中空タイプ拡大中! こちらは中空加工で軽量化したカムシャフト例。写真下・左は新発売されたカタナ用で、右がZ1用。カタナ用(ST-1とST-2の2種類)では、吸排気2本でSTDより約600g(約20%)も軽い。これでパワーロスはかなり軽減され、レスポンスも上がるはずだ。また、表面はバレル研磨処理を施し、フリクションを減らして耐久性もアップさせている。一方、ビッグバンカムの後処理もイオン窒化と凝っている。どちらもチューニングカムの新世代。次作を期待したい。 GSX1100S/750S Z1/Z2 |
「公道でも同じだと思いますよ。今の1000ccエンジンを本当に乗りこなすのは難しいでしょう。だから公道で全開にできないまでも、少しでも開けやすくなれば楽しめる。だから市販するわけです」(加藤)
ところでヨシムラは、Z用やカタナ用に中空カムを発売している。つまり、こっちは軽いカムだ。
「ようするにバランスだよ。Z1なんかはクランクが重くて、GSX-R1000と比較すると回転数も低い。だから軽いカムの方がいい。また、バルブアングルが広い。両カムスプロケットへのカムチェーンのかかり方は正三角形に近い。カムがカムチェーンから押されるような影響も小さいんだ。でも、最新エンジンはバルブアングルが狭くて立っているから、カムチェーンからの影響を受けやすく、それが今回のカムの回転ムラの要因になっている。こうしたレイアウトの違いで、軽量カムもビッグバンカムも必要になる。カムにしろ、キャブにしろ、まだまだやれることは多いよ」(不二雄)
ビッグバンカムに中空軽量カム、オフセットシリンダーやクロスプレーンクランク、オフセットクランク‥‥‥。外付けの電気制御ばかりでなく、本質となる機械的な工夫がバイクの高性能に寄与する余地があったことに、ほっとした気分にさせられた。まだまだ、内燃機関は突き詰められ、おもしろくなるのだ!!
集合管と同じく、ヨシムラのチューニングの歴史でハイカムの存在は大きい。'54年の創業直後からPOPはカムを製作。最初はベース円を小さくし、バルブステムを長くすることでハイリフト化を実現。以降、カム山にステライトを肉盛りした。こうしたグラインダーの手削りから、カム研磨機を導入して製作は一気に進歩。そしてCB750Four用デイトナカム、Z1用ボンネビルカムなどの名作を生む。
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