掲載日:2018年12月14日 トピックス
取材協力/MOONEYES, ITA(Italian Trade Agency) Text & Photo / Ryo Tsuchiyama
2018年12月2日(日)にパシフィコ横浜で開催された「27th Annual Yokohama Hot Rod Custom Show 2018(ヨコハマ・ホットロッド・カスタムショー:HRCS)」。
今回「Cheetah Custom Cycles」、「Buddy Custom Cycles」、「CHIP-MOTO Cycles」、「Garage Duck Tail」、「INU Chopper」、「HOT-DOCK CUSTOM CYCLES」のカスタムビルダーが合同で出展した「Have Fun!! Horizontal Motor Flat Track Racing」のブース。「Have Fun!! 」は、いま世界で人気が高まるフラット・トラック(ダートトラック)を楽しむために立ち上げられた新しいカテゴリだ。150ccまでの横型エンジンを使用してオリジナルフレームを製作、前後ホイールは17インチ。これが「Have Fun!! 」の独自レギュレーションだ。
重量車ではリスクもあるフラット・トラックレースも、小排気量車ならもっと気軽に走れるし、マシン作りも楽しめる。そんなビルダーならではの発想で立ち上がったプロジェクトは、今回のホットロッド・カスタムショーの展示によって海外ビルダーたちからも大きな反響があったようだ。また、今回はSHOEIの新作ヘルメット「EX-ZERO」と「Have Fun!!」がコラボしたことも大きな話題になった。
そんな「Have Fun!!」に注目するブースレポート第2弾では、第1弾に引き続き横型エンジンを使用したオリジナルマシンとオリジナルペイントのSHOEI「EX-ZERO」も詳しく紹介。さらにブースに展示されていた横型マシン以外のSRやハーレーなどのフラットトラックマシンも合わせて紹介する。
こちらはプライベーター「INU CHOPPER」が手がけたマシン。フレームはシンプルなダブルクレードルで、リアはツインショック仕様だ。
ゼッケンプレートは針金でフォークに固定。トーハツ・ランペット用?のガソリンタンクとも相まって、ヒストリーのあるビンテージマシンのような雰囲気だ。
フロントハブはディスクブレーキ車用のハブを流用。フラット・トラックではフロントブレーキを使用しないので、ディスクローターを取り外して装着している。
リアは角スイングアーム。サスペンションマウントは4カ所設けられている。タイヤはSHINKO製のフラット・トラック用で、サイズは120/70−17。ショー展示前にダートを走行した泥汚れがリアル。
エンジンマウントはアルミ板から削り出しで製作。シフトペダルはやはり上向きに。
ハンドルはバー入りのスクランブラータイプ。アメリカのローカルなフラット・トラックではエントリークラスとして100cc程度のマシンによるクラスもあった。そんな雰囲気も漂うマシン。トーハツタンクのロゴには「INU CHOPPER」の屋号が入る。
独特のデザインでまとめられたSHOEI「EX-ZERO」。帽体前部からスキャロップのように入るグラフィックは、よく見るとコラージュで製作されていることがわかる。後頭部には70'感溢れるグラフィックが。
「Cheetah Custom Cycles」が製作したもう1台のマシン。フレームのアウトラインこそ1台目に似てはいるが、こちらはトラス状のパイプが一切入らないスタイル。
シートカウルにはファットボブフェンダーをセット。フェンダー後端には「Eat My Dust!!」と挑発的なレタリングが入る。
アルミ製ガソリンタンクはフレームチューブ内に収める。サイドにはトレードマークのチーターロゴが入る。このマシンも1台目と同じくヨシムラYD-MJNをセット、さらにオイルクーラーも追加されている。
前後ホイールはスポーク仕様に。リムに施した黄色いハンドペイントは走行中かなり目立つだろう。タイヤサイズは前後ともに120/70−17。
チェーン引きはもう1台と同じアジャスタブル式。キャリパーサポートや、ブレーキロッドの作りも丁寧だ。
マシンに合わせたSHOEI「EX-ZERO」。頭頂部にはチーターロゴを大胆に配置。
ブラックの純正色をベースにチーターをイメージしたまだら模様とレタリングが入る。現行のSHIFT製ゴーグルとバイザー無しのスタイルもクール。
最後に紹介する横型エンジンマシンは「HOT-DOCK CUSTOM CYCLES」の代表河北さんが製作した1台。じつは今回出展したビルダー達はこのマシンに試乗して小排気量エンジンで遊ぶ楽しさを知り「Have Fun!!」の構想が立ち上がったのだという。
フレーム構成やフロントサスペンションなど独特の車体構成が非常に特徴的。これはヨーロッパで長い歴史を誇るフラット・トラック競技「スピードウェイ(Speedway)」で使用されるスピードウェイ・レーサーをイメージしたもの。
ただ、スピードウェイ・レーサーと言っても日本ではピンと来ないと思う。ということで本場スピードウェイ・レーサーを少しご紹介しよう。これは2017年のEICMA2017(ミラノショー)にて撮影したもの。
500ccのJAWA製単気筒エンジンを積むスピードウェイレーサー。フレームはリジッドフレームで、フロントフォークはテレスコピック式ではなく小型ダンパーを備えた特殊なボトムリンク式。車体構成は日本のオートレーサーに近いとも言える。
シリンダーが大きく前傾したJAWA製のエンジン。特殊なフロントサスペンションや、ハンドルやボディに貼り付けられたカバーなど独特なスタイル。日本では知られていないが、欧州ではFIMが世界グランプリを開催するほど人気が高いスピードウェイ。冬季はスパイクタイヤで圧雪路を走る「Ice Speedway Gladiators(アイス・スピードウェイ・グラディエーターズ)」という大会も開催されているほど。
HOT-DOCKの車両解説に戻ろう。本場のスピードウェイマシンをふまえてHOT-DOCKのマシンを観察すると、その再現度の高さがよくわかる。ハンドル前に取り付けられた独特の形状のゼッケンカウルもスピードウェイレーサーならでは。
フレームはスチールチューブを組み合わせたもので、リアサスペンションなしのリジッドフレーム。リアからの眺めも完全なスピードウェイレーサーだ。他のマシンに比べてエンジンマウント位置がかなり低いのもこのスタイルの特徴。
フロントサスペンションはボトムリンク式の一種で、これは本場のスピードウェイレーサーとまったく同じ方式だ。フォークアーム本体とL型のリンクプレートにはそれぞれ銀色の丸いカラーが取り付けられているが、そのカラーをつなぐのはゴム製のバンド。じつはこれがスプリングの役割を果たし、フォーク前方にある金色のダンパー(Bitubo製)との組み合わせでサスペンションとして機能するのだ。フロントホイール径は23インチ。「Have Fun!!」の17インチルールとは異なるが、そもそもこれは「Have Fun!!」構想以前に河北さんが自身のスピードウェイレーサー研究のために製作したものなので他のマシンとはちょっと違うのだ。
燃料タンクはフレームトップチューブにぶら下がるように取り付けられている。日本のオートレーサーにも共通するスタイル。
小ぶりなシート。着座位置が低いのもスピードウェイレーサーの特徴だ。
大型のゼッケンプレートやチェーンガードもスピードウェイレーサーらしい雰囲気。エンジン搭載位置が極端に低いのでドライブ&ドリブンスプロケットの位置関係もこんな感じになる。
フラット・トラックやスピードウェイにも造詣が深いHOT-DOCK代表の河北さんはこれまで数多くのカスタムバイクを手がけてきたトップビルダー。フレームやエンジンマウントの作りもとても美しい。このマシンでもチェンジペダルは上向きに装着される。チェーンカバーにはフットレストも設けられている。
HOT-DOCKが手がけたSHOEI「EX-ZERO」。ブラックの帽体をベースにレタリングとチェッカーをあしらう。カッコイイ!
こちらはカスタムペイントで有名な「Shakin' Speed Graphix」の展示ブース。
メタルフレークをふんだんに使用してチェッカー柄と組み合わせた「EX-ZERO」は超クールな仕上がり。長年ペインターとして活躍する代表の清水さんのセンスが存分に発揮されている。また「EX-ZERO」以外にも同じくSHOEIのモトクロス用トップモデル「VFX-WR」もディスプレイ。こちらもスピード感溢れるパターンでペイントされている。カッコイイ!
ここからは原付マシン以外のフラット・トラックマシンを紹介していこう。こちらは「Shakin' Speed Graphix」清水さんの愛車。ベースはスズキのグラストラッカー。フラット・トラックは昨年から始めたという清水さん。レーサーとして製作された車両は吸排気にもきっちり手が入っている。
リアサスペンションはビンテージ・モトクロスの世界ではお馴染み、FOXレーシングのエアショックをチョイス。いまとなってはかなりレアなパーツだ。
「Garage Duck Tail」が持ち込んだSRのフラット・トラッカー。
きっちり作り込まれたマシンは、本場アメリカのレーストラックにもいそうな雰囲気だ。
よく見るとリアサスペンションはモノサスに変更されている。フレームは純正ベースだそうだが、リアエンドを作り変えてカンチレバー式に。マフラーはスーパートラップのロングタイプでオープンエンド仕様に。
キャブレターはFCR-MX(モトクロッサー用のFCR)をセット。かなり元気のいいエンジンなのだろう。Duck Tail代表の渡邉さんもフラット・トラックを日常的に楽しむ大のフリークなのだ。
「HOT-DOCK CUSTOM CYCLES」はスピードウェイレーサーをもう1台持ち込んでいた。フロントサスペンションは前述のボトムリンク式でリアはリジッド。なんとこれはモトクロッサーのKX250Fのフレームとエンジンを使用したスピードウェイレーサーなのだ!
フレームの大部分はKX250Fのアルミフレームをそのまま使用、スイングアームも純正ベースでショート加工してリジッド化。モトクロッサーをベースにしながら、似ても似つかないスピードウェイレーサーに仕上げてしまう技術には驚くしかない。河北さんはこの車両の製作と同時期にJAWAエンジンの本物のスピードウェイレーサーも入手。本物のディメンションに近づけるべく手を入れたのだという……。
「Buddy Custom Cycles」が製作したハーレー・サイドバルブのレーサー。「Have Fun!!」マシン同様に、フレームはなんとハンドメイド! 「Buddy Racing Frame」という屋号でフレームビルダーとしての顔を持つのが同店代表の福田さんなのだ。
エンジンこそハンドシフトのサイドバルブというビンテージだが、その車体作りは現代のフラット・トラックマシンそのもの。リアサスは片側にオフセットしたシングルでフロントフォークも現代的な正立式でセットアップ。
こちらもBuddy製作の1台。ベースはご覧の通りスポーツスターで、純正フレームをベースに製作されている。フロントフォークは往年のフラット・トラックレーサーがこぞって装着していたCerianiのGPフォークで、前後のリムはアルミH型。フロントブレーキキャリパーの装着位置にもビンテージ感が溢れる。
「Cheetah Custom Cycles」製作のハーレー・サイドバルブレーサー。メッキの美しいフレームとフロントサスペンションはなんとハンドメイド。フラットトラック用にワンオフされたマシンなのだ。
リジッドフレームのパイピングも独創的。ビルダーの大沢さんはこのマシンでフランスのイベント「Wheels&Waves」に出場し、世界のビルダーたちの度肝を抜いた。
こちらもハーレーのサイドバルブがベースのボバー。シリンダーヘッドのフィンは大胆にカットされている。
WLが現役だった時代のサンデーレーサー的な雰囲気を醸し出した1台。
2回に渡ってお届けしたホットロッド・カスタムショー「Have Fun!!」ブース特集はいかがだっただろうか。フラット・トラックをもっと身近に楽しむために有志によってキックオフした新カテゴリは、来年以降レースとしての運営も検討されている。今回の展示を見た海外ビルダーたちの中でもすでに同様のカテゴリでのレースをという声も上がっているようだ。単にカスタムバイクのショーアップではなく「新しいムーブメントの創出」という大きな可能性も秘めた今回の展示。「Have Fun!!」の今後の動向にも注目していきたいところだ。
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