掲載日:2026年01月18日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之

KAWASAKI KLX230 SHERPA S

KLX230シェルパ(以下:シェルパ)は2025年にKLX230シリーズが国内再登場した際に追加されたモデルだ。232ccの空冷単気筒エンジンを搭載した同シリーズには、オフロードモデルのKLX230とローシート仕様のKLX230S、モタードモデルであるKLX230SM、トレッキングモデルのシェルパとそのローシート仕様である今回試乗したシェルパS、そしてシェルパの装備を豪華にしたKLX230DFというファミリーモデルが存在する。

シェルパはこれらの中で、オフロードに特化するというより、街中から郊外、そして自然の中へとのんびりしたライディングを楽しむ、というのがコンセプト。アルミ製のスキッドプレートやハンドガード、スタックパイプなどを標準で装備し、カラーリングも自然に溶け込むアースカラーを採用しているのが特徴だ。高張力鋼を使ったペリメター構造のセミダブルクレードルフレームに搭載されるエンジンは、空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ232cc。最高出力は13kW(18PS)/8,000rpmと控えめながら、低中回転域で扱いやすく粘り強い特性を持ちつつ、高速道路での巡航も快適にこなせるよう設計されている。

このシェルパの基本性能はそのままに、シート高を845mmから825mmに20mm下げ、前後サスペンションに専用のデュアルレートスプリングを採用、ホイールトラベルもフロント200mm→158mm、リア223mm→168mmとして足つき性を向上させてさらに乗りやすくしたのがシェルパSだ。このほかにもリアタイヤをチューブレス化してパンク修理やタイヤ交換の際の利便性を向上させたり、スマホアプリとの接続機能に音声コマンドやナビ機能を追加するなど、スタンダードなシェルパよりもさらにユーザーフレンドリーな機能が追加されている。

シェルパSを目の前にしてまず感じたのは安心感だ。オフロードバイクにありがちな、腰よりもはるかに高い位置にシートが来る、なんてことはもちろんなく、サイズ的にも「安心して乗れそう」な雰囲気に満ちている。実際のシート高は825mmで、これはスタンダードなシェルパやローシート仕様のKLX230Sよりも20mm低い値だ。体格に恵まれた人には無視できる値かもしれないが、たかが20mm、されど20mmで、身長170cmで足が短めの筆者にとっては、乗り始めてすぐに「20mmの差は大きいな」と感じた。

スタンダードなシェルパのシート高も決して高いわけではないが、オーナーになればこのわずかな差は、日常の乗り降りやUターン、信号待ちといった何千、何万回と繰り返される足つき動作において、ライダーのストレスを大幅に軽減してくれるはずだ。ツーリング中においても「ちょっとここで写真を撮りたいな」と停める場合も気軽だし、足場の悪い林道などでも、心理的な安心感は非常に大きい。絶対的なオフロード性能よりも、この安心感が「このバイクなら先の読みづらい道にも入っていける」という冒険心を後押しし、例えばキャンプツーリングで荷物を積んだ状態であっても、臆することなく林道の奥地を目指せる気軽さを提供してくれるのだ。

走りに関してはどうだろう。まず一般道での印象は、発進から中低速域にかけての力強さが抜群だ。特に40~60km/hという日常で最も多用する速度域において、トルクフルで扱いやすく、キビキビとした軽快な走りが楽しめる。路面の段差や荒れた舗装路でもサスペンションの収まりは良好で、不快なバタつきは少なく、街乗りでは終始リラックスして走れる印象だ。

高速道路では100km/hでの巡航も可能で、エンジンが無理をしている感覚はない。ただし速度が上がるにつれて振動は増えるため、快適さという点では90km/h前後での巡航がちょうどいい。当然ながら大型バイクのような余裕はないものの、「必要にして十分」という表現がふさわしく、淡々と距離を稼ぐツーリング性能をしっかり備えている。

ダート性能に関しては、スタンダードモデルよりもホイールトラベルが短縮されているため、飛んだり跳ねたりするようなハードな走りにおける絶対性能では一歩譲る面があるのは仕方のないところだ。しかし、シェルパSの主なターゲット層は、林道をアグレッシブに攻めるのではなく、景色を楽しみながら走るユーザーが多数派なはず。そんなライダーにとって、ホイールトラベルの短縮は実用上ほとんど影響がないはず。実際にフラットな林道を走行した限りでは、サスペンションが底付きするような場面はなく、大きな不満は感じられなかった。もちろん高性能オフロードバイクと比較すれば、車重からくるバタつきや衝撃を吸収しきれない面もあるが、気になるレベルではなく、穏やかなペースでの林道走行には十分対応できる。むしろ、前述のシート高の低さがもたらす安心感の方が、獣道やガレ気味の道に進入する際の心理的ハードルを下げ、オフロードライディングをより楽しむための大きなメリットとなっている。また、ABSのキャンセルスイッチを備えているので、ダート走行の際に任意でABSを解除することができ、後輪スライドなどより積極的に遊びの幅を広げることもできる。

リアにチューブレスタイヤを採用したことは、パンク修理がより簡単に行える意味でも評価できるが、コストダウンのためか、ハザードやギアポジションインジケーターが装備されていないのは残念な点だ。個人的には、スマホとの接続機能に音声コマンドやナビ機能を追加するよりも、ハザード機能を搭載してくれた方が安全面でも有用だと思う。

ともあれ、メーカーが純正で低いシート高のバリエーションモデルを提供している点には拍手を送りたい。これにより、体格に自信のないライダーや小柄な女性など、これまでオフロードバイクを敬遠しがちだった層にも入口が広がるきっかけとなるはず。かつて絶大な人気を誇ったヤマハ・セロー250が生産終了となった今、“トコトコ系”トレッキングモデルの市場には大きな空白が生まれている。シェルパSは、その穴を埋める有力な候補であり、速さやパワーではなく、景色や冒険を楽しむことを目的とするライダーのニーズにピッタリとはまるモデルだ。今後、その存在が市場で高く評価され、ヒット作となる可能性を十分に秘めている。

ヘッドライトはLEDを採用、カバーはシェルパ専用のデザインだ。スタックパイプを標準で装備している。

左側のハンドルスイッチボックス。赤いボタンを停止時に長押しすることで、ABSのキャンセルが可能だ。

右側のスイッチボックスは、スターターボタンとキルスイッチのみというシンプルなもの。

左右に各種インジケーターを配したメーターはフルデジタルのモノクロ液晶タイプ。従来同様スマホアプリと接続できるが、シェルパSでは音声コマンドとナビ機能が利用可能になった。

車体と同色のハンドガードを標準で装備。林道で枝などから手を守ってくれるほか、防風効果も期待できる。

KLX230シリーズ共通の232cc空冷単気筒SOHC2バルブエンジン。バランサー内蔵で、低中回転域でのトルクを重視している。

シェルパはアルミ製のスキッドプレートを標準で装備している。エンジン下部を守ってくれるので林道でも安心だ。

リンクがスイングアームに取り付けられたニュー・ユニトラックサスペンションを採用。プリロードの調整も可能となっている。

シフトレバーにはラバーを装備。ステップはオフロードモデルらしく金属むき出しとなっている。

シートは直線的で体重移動やポジションチェンジがしやすい。スポンジはかたくはないものの、厚みはそれほどない。

左側のキー付きサイドカバーを外すと、バッテリー端子やヒューズに簡単にアクセスできる。

車載工具はバッテリー上のスペースに収納されている。内容は写真の通り最小限のものだ。

車体左側、シートカウルの下にはコの字ピン式のヘルメットホルダーを装備している。

フロントフォークは正立でインナーチューブ径は37mm。ブレーキはシングルでディスク径は265mmとなっている。タイヤサイズは2.75-21 45Pで銘柄はIRCのGP-21Fだ。

リアホイールはDID製のリムを採用し、チューブレスタイヤとなっているため、パンク修理などがしやすい。タイヤサイズは4.10-18 59P、銘柄はIRCのGP-22Rだ。ブレーキのディスク径は220mmとなっている。

リアの灯火類はKLX230シリーズ共通でシンプルなもの。テール/ブレーキ灯とウインカーはバルブタイプを採用している。

テスターの身長は170cmで足は短め。シェルパSのシート高はスタンダードモデルより20mm低い825mmで、片足ならほぼかかとまで接地し、両足でも母指球までしっかりと着くので不安は全くない。








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