掲載日:2025年03月06日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/アポロ佐藤
KAWASAKI KLX230 SHERPA
その昔、カワサキは、スーパーシェルパ(1997~2007年)というモデルをラインナップしていた。専用コースではなく、林道など自然のオフロードフィールドをレジャーとして走って楽しむために設計された、いわゆるトレック系のデュアルパーパスモデルである。このカテゴリーにはヤマハ セローという強力なライバルがいたこともあって、地味な存在だったが、トライアルバイクのようなスリムな燃料タンクと、低く設定されたシートを組み合わせるエルゴノミックな車体デザインにKLX250の水冷DOHCエンジンをわざわざ空冷化して搭載するなど、いま思うとかなり意欲的なモデルだった。
そんなシェルパの名を受け継ぐモデルが長い時を経て、KLX230Sのバリエーションモデルとして登場した。往年のライバルであるセローはすでにいない。今度こそこのカテゴリーの旗手になれるのだろうか。
カワサキKLX230 シェルパは、KLX230のローダウン仕様であるKLX230Sがベース。ヘッドライトカウルなどの外装デザインや車体色がアウトドアギアを意識したものに変更され、ハンドガード、スタックパイプ、アルミスキッドプレートなども標準装備される。
エンジンのスペック、前後サスペンションのホイールトラベル、シート高はKLX230と共通だ。排気量232㏄の空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブエンジンは、振動を軽減するバランサーシャフトを内蔵したもの。これをペリメーター構造のセミダブルクレードルフレームに搭載する。前後サスペンションは、前200mm、後223mmとゆとりのあるホイールトラベルが確保されている。
ABSは左手スイッチを長押しすることでキャンセルが可能であり、後輪をロックさせてターンするなど、トレッキングだけでなく、本格的なオフロードライディングにも対応できる仕様だ。
走り出してまず印象的だったのはガッチリとした車体剛性だ。操作に対しての反応が正確で、街中でも一体感のあるシャープな操縦性が楽しめる。コーナリングは軽快だが、旋回中はしっかり安定しており、高速コーナーであっても思いのほか楽しめる。サスペンションはかなりソフトな設定のため、ブレーキング時や路面の凹凸で良く動く。しかし、土台のフレームががっちりしているので、不安定な挙動を誘発するようなことがない。常に車体が自分の手の内にあるような安心感だ。
一方で、エンジンの特性は好みが分かれると感じた。発進を含む極低速域のトルクが豊かでトコトコと粘る特性がイメージされるが、さにあらず。どちらかといえば極低速トルクよりレスポンスが重視され、それを低いギア比で走らせている印象である。スロットルをワイドに開けると「ダーン!」と元気に吹け上がり、空冷エンジンのメカノイズと勇ましい排気音、つながりの良い6速ミッションと相まって、なかなかエキサイティングな気分に浸れる(メーターを見ると意外と速度は出ていない)。街中を普通に走っているだけでも「やってる感」を堪能できるものだから、ついつい無駄にスロットルを開けてしまう。
楽しいといえば楽しいが、これがコンセプトにマッチしているかといえば疑問に感じなくもない。ベースモデルとエンジンの出力特性まで作り分けるのがコスト的に難しい側面があるのは重々承知しているが、せっかくシェルパの名を復活させたのなら、もうひと頑張り欲しいところ。個人的には、回転を上げずとも望んだ加速力が得られ、もっと極低速域での粘り強さが欲しい。今回はオフロード走行は試せなかったが、自分のようなビギナーは間違いなくそっちの方が扱いやすいはずである。
感心した点としては、エンジンの振動がよく抑えられていたこと。前述の通り、ついついスロットルをワイドオープンしがちなエンジン特性ではあるのだが、勇ましいのは音だけで、不快なバイブレーションの発生はほとんどない。標準装備のファットバーの恩恵もあって、ハンドルへ伝わる振動もよく遮断されている印象だった。ツーリングでは大きな美点になると思う。
シート高は身長170cmの私(残念ながらやや短足)では、両足のつま先が地面に触れる程度。車体が軽量なので不満は感じなかったが、未舗装林道に踏み込んだらテクニックのない私はおっかなびっくり走ることになると思う。座り心地はまずまずで、すぐにお尻が痛くなるようなことはない。ま、この辺はライダーによるので、絶対的な評価は下しにくいが。
気になったのは、跨ったままだと車体を右側に傾けなければサイドスタンドが出せないことである。荷重でサスペンションが沈み込んでいると、サイドスタンドが路面につかえてしまうのである。なんとかサイドスタンドを出すと、今度は車体がほぼ直立状態に。左側から降車しようとするとサイドスタンドが突っ張ってマシンが右側に倒れそうになるので、やむなく右側から降りることになる。改善してほしい。
KLX230シェルパは一般的なトレック系バイクのイメージとはギャップはあるが、価格も含めてフレンドリーに付き合えるデュアルパーパスモデルとしてはなかなか魅力的な一台。ルックス的にも、ベースのKLX230Sはアクティブな外装デザインと空冷エンジンの組み合わせに少々ミスマッチな感があるが、シェルパはしっかりと馴染んでいる。眼識あるベテランも納得できるのではないだろうか。
空冷SOHC単気筒という古典的な構造だが、レスポンス鋭く、振動も少ない現代的なフィーリングのエンジン。中低速ではすばやくトルクが立ち上がるので、ワインディングをリズミカルに駆け抜けられる。
回転計をもたないシンプルな液晶メーター。スマートフォンとBluetoothでつないで車両状況を確認することも可能。このモデルのコンセプトを鑑みるとシフトポジションインジケーターがあるとなお良かった。
豪快なエキゾーストノートを奏でるマフラー。ベースモデルのKLX230Sはサイドカバーと一体にデザインされたカウルで覆われているが、こちらはブラックアウトされ、キャラクターの作り分けがされている。
砂利道や岩場、深いわだちなどを走行する際にエンジンを保護するアルミ製のスキッドプレートを標準装備する。一見しただけでは付いているのか分からないスマートな造形だ。
燃料タンクのカバーにチェッカープレート模様のデカールが配され、アウトドアギアムードを演出している。燃料タンク容量はベースモデル同様、7.6Lと少な目。市街地メインで約80㎞ほど試乗し、満タン法で実測した燃費は29.8L/㎞だった。
シート高は845mm。最低地上高が240mmあるので絶対的に低くはないが、サスがかなり沈み込むので数値ほどは高くない。肉厚はそこそこあり、この手のバイクとしては座り心地はまずまず。
中央から先端にかけて径が細くなっているアルミ製のテーパードハンドルバーを採用。軽量で強度が高いという触れ込みだが、実際に走ってもその効果は体感できる。振動吸収性が高く、マシンとの一体感も損なわない。
インナーチューブ径37mmのフロントフォークは正立タイプ。アクスルトラベル量は200mmあるが、かなりソフトな設定となっており、あまり飛ばさない私のようなライダーには動きがつかみやすく安心感がある。前後ともブラックに仕上げられたアルミリムを採用する。タイヤはIRC製でサイズは2.75-21。
LEDヘッドライトを採用。ヘッドライトカウルの意匠がシャープな造形のKLX230Sに対し、タフ感を強調したものに改められている。ライトの下にはバイクを人力で引き上げる際に重宝するスタックパイプが標準装備される。
金属製のフレームをもつ、いかにも頑丈そうなハンドガード。オフロード走行時に手元を保護してくれることはもちろん、タフなルックスを演出するアイコンにもなっている。
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