掲載日:2023年01月10日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
SUZUKI V-STROM SX
スズキのアドベンチャーモデルV-STROMシリーズは1980年代後半のDR750Sのスタイリングイメージを継承している。国内では1050cc、650cc、250ccと大・中・小の排気量がラインナップされており、毎年V-STROMだけのミーティングイベントがスズキ本社で大々的に開催され、1000人以上のファンが集うほどの人気を誇っている。なお、今回試乗したV-STROM SXはバイク館が独自に輸入販売しているインド仕様のもの。
V-STROM1050、650の2車種はそのシリーズ名の元にもなっているVツインエンジンを搭載している。V-STROMの「V」とはエンジンのシリンダー角が90度のV字型をしていることから付けられた名前なのだ。Vツインエンジンはピストンが往復することによって生じる振動を打ち消しやすく、2つのシリンダーの爆発間隔が不均等なことからリアタイヤのトラクションが向上するというメリットもあり、ハーレーやドゥカティでもこのVツインエンジンを採用したモデルが多数存在する。
しかしV-STROM250は見た目こそ1050、650に似せてはいるものの、その中身はロードモデルのGSX250Rとほとんど共通であり、エンジンもV型ではない二気筒エンジンだ。ホイールも前後17インチで、小排気量のアドベンチャーモデルでありながらオフロード適正はそれほど高くない、という珍しいモデルだ(もっとも、そのおかげでセロー250やCRF250Lなど他社のオフロードモデルと差別化でき、大ヒットしている)。そしてそんな250ccのV-STROMのホイールサイズをフロント19インチにしてインド向けに発売されたのが、V-STROM SXだ。言うなれば国内のV-STROM3兄弟の従兄弟的な存在と言えるだろう。このV-STROM SXは国内ラインナップこそまだされていないが、バイク館によって輸入され、国内でも購入することが可能となっているのだ。
実は、V-STROM SXのエンジンは2気筒ですらなく、油冷4サイクルSOHC単気筒エンジンを搭載している。スズキの油冷250cc単気筒と言われると思い出すのが、やはりインド発のオンロードモデル、ジクサー250だ。エンジンはこのジクサーのために開発された新型エンジンをチューニングして搭載している。そのため、乗ってみるとV-STROM250とは全く異なる単気筒独特のトルク型のフィーリングを感じる。とはいえボア×ストロークは76.0mm×54.9mmとショートストローク型で、中〜高回転こそがこのエンジンの真価であることが窺える。実際、スズキはこのV-STROM SXをオフロードモデルとして売り出すつもりはなく、あくまでエントリーユーザーに向けた、ちょっとした未舗装路もこなせるアドベンチャーモデルとして位置付けているという。
今回は高速道路での試乗は叶わなかったため、高回転域のパワーを十分に体感することはできなかったが、ジクサー250のそれが参考になるだろう。さらにV-STROM250よりも大きいシールドと19インチのフロントホイールを備えていることから、250ccクラスとしては十分な快適性が想像できる。
また、フロントサスペンションには正立フォークを採用しているが、舗装路を走っている分には確かな剛性を感じられた。試しに小さい石が敷き詰められたデコボコ道や波状路を走ってみると、少し挙動が大きく、吸収しきれないショックが体に伝わってくる。それでも車重がV-STROM250よりも20kg以上軽いため、車体が暴れたり、転倒の不安を感じるようなことはなかった。これならば、フラット林道を気持ちよく駆け抜けることができるだろう。もっとも、ノーマルタイヤは少し溝が大きい程度のオンロードタイヤのため、もう少しオフ寄りのものに換えてあげればベターだろう。また、最低地上高もV-STROM250が160mmだったところが、205mmになっていて、こちらもオフロードを走る上で安心感の向上に役立っている。
さらに、車体全体がスリムになっていて、ニーグリップがしやすいのも好印象だった。これはV-STROM250が17Lタンクだったのに対し、12Lとタンク容量を小さくしていることも要因の一つだろう。サイレンサーもコンパクトなのは良いが、こちらもジクサーと似た形状で取り付け位置も低く、スタンディングで乗っているとたまに右足の踵がサイレンサーに当たってしまうのは少し気になってしまった。
以上のように、このV-STROM SXはV-STROM250よりもオフロードテイストに振られたアドベンチャーモデルと言えるだろう。オンロードツーリングがメインだけど、出先ではちょっと林道にも入ってみたい、という人にはこのモデルをオススメしたい。
フロントフェンダーはパリ・ダカールラリーで活躍したDR-Zを連想させるスズキ伝統のクシバシ形状を受け継いでおり、ウインドシールドはV-STROM250よりも大きいものを採用している。
ハンドルはバーハンドルで標準的な22.2mm径のものを採用。スマホホルダーなどのアクセサリー類の装着には困らない。クローズドタイプのハンドガードを標準装備している。
軽量で見やすいLEDデジタルメーターには速度、回転数、時刻、ガソリン残量、ギアポジション、走行距離が表示される。インドではスズキ・ライド・コネクトに対応し、スマートフォンとBluetoothで接続し、通話情報やナビゲーションを表示できる。
エンジンはジクサー250用に開発された油冷4サイクルSOHC4バルブ単気筒249cc。最高出力は19.5kW(26.5PS)/9,300rpmで、最大トルクは22.2Nm/7,300rpmとなっている。
フロントタイヤは100/90の19インチで、オフロード走行を考慮している。アルミ製キャストホイールも十分に軽量化されていることが窺える。
リアタイヤは140/70の17インチ。インドの民族衣装の裾を巻き込まないためのサリーガードが装着されている。こちらを外すことでさらに軽量化も可能だ。
エンジンガードはインドらしくないコンパクトサイズ。樹脂製で少し頼りない気もするが、軽量化の一助となっている。
テレスコピックフロント正立フォークは120mmのストローク量で、やはりオフロードの走破性よりもオンロードでの安定感を重視していると思われる。
リアショックはプリロードを7段階から調整可能で、一人乗車の場合、タンデムの場合、キャンプツーリングなどで重い荷物を積載した場合などで変更することができる。
シートはV-STROM250と違い、国内最高峰モデルのV-STROM1050と同じセパレートタイプ。パッセンジャーの快適性を確保しつつ、スポーティな性能と見た目も実現している。
パッセンジャーが捕まりやすい形状のグラブバーも標準装備。荷物を固定するためのフックも備えているからリアキャリアとしても使える。
ステップにはラバーマウントが純正装備されている。裏側のボルトを外すことでラバーを取り外し、グリップ性能重視型に変更も可能。
メーターの左脇にはUSBソケットを装備している。インドでは250ccクラスは高級車に当たるため、こうしたアクセサリー装備が充実しているのだ。
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!