【カワサキ ヴェルシスX250ツアラー 試乗記】長距離&悪条件で真価を発揮する、250ccアドベンチャーツアラー

掲載日:2021年02月10日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦 写真/井上 演

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KAWASAKI VERSYS-X250 TOURER

2017年のデビュー時とは異なり
現在はツアラーのみを販売

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どうして今のタイミングで、ヴェルシスX250? この記事を読み始めた方の多くは、そう感じているのではないだろうか。その理由は至って単純で、当サイトにツアラー仕様のインプレを掲載していなかったからである。もっとも2017年の発売当初は、スタンダードとツアラーの2本立てだったヴェルシスX250だが、2019年以降の日本市場で販売されているのは後者のみ。その理由は定かではないものの、おそらく、日本でヴェルシスX250を購入したライダーの多くは、パニアケースやエンジンガード、センタースタンド、ハンドガード、DC電源ソケットなどを標準装備する、ツアラーを選んだのだろう。

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ガチンコではないけれど、ヴェルシスX250ツアラー:70万4000/72万500円のライバルになり得るモデルは、同じ2017年にデビューした、ホンダCRF250ラリー:74万1400円とスズキVストローム250:61万3800円、そして今年から発売が始まるKTMの250アドベンチャー:67万9000円である。それらと比較すると、ヴェルシスX250ツアラーは最もパワーが高く、最も装備が豪華だが、ライバル勢より15~25mm長い1450mmの軸間距離や、Vストロームに次いで重い183kgの装備重量は、人によってはマイナス要素になるかもしれない。

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カワサキ ヴェルシスX250ツアラー 特徴

ニンジャ250ベースの並列2気筒を
専用設計のシャシーに搭載

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250ccクラスでアドベンチャーツアラー、あるいは、そういった資質を備えるモデルを作る場合は、既存の車両のパーツをできるだけ転用するのが通例である。事実、前述した3台のライバル車は、エンジン+シャシーの基本設計を兄弟車から転用しているのだが、ヴェルシスX250/ツアラーはシャシーをゼロから新規開発。外装やライディングポジション関連パーツ、130/148mmのストロークを確保した前後サスペンション、2.15×19/3.00×17のスポークホイールなどは言うに及ばず、バックボーンタイプのスチールフレームも専用設計だ。

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もっとも、180度クランクの並列2気筒エンジンは、先代ニンジャ250からの転用なのだが、カムシャフトやバランサー、吸排気系などを見直した結果、最高出力は31ps/11000rpm→33ps/11500rpm、最大トルクは2.1kg-m/8000rpm→2.1kg/10000rpmに変化。アドベンチャーツアラーなのに高回転指向というのは、意外な気がするけれど、手間のかけ方という見方をするなら、250ccアドベンチャーツアラー界のナンバー1は、間違いなくヴェルシスX250/ツアラーだろう。

カワサキ ヴェルシスX250ツアラー 試乗インプレッション

インパクトは感じないものの
乗り手に優しいエンジン

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ここ最近のカワサキのニューモデルは、かなり打率が高く、日本市場ではZ900RS/CAFÉやニンジャ1000、ニンジャ400、ZX-25Rなどが大人気を獲得している。とはいえ、2017年に登場したヴェルシスX250/ツアラーは、これまでに1度も販売台数ランキングの上位に顔を出していない。その理由には諸説があるものの、僕は以前から、排気量が296ccで最高出力が40psのヨーロッパ仕様を販売していたら、事情は違ったんじゃないか?……という印象を抱いていた。

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と言うのもヴェルシスX250、特にスタンダードより車重が8kg重いツアラーに乗ると、低回転域で力不足を感じるのだ。具体的な話をするなら、ゼロ発進時のトルクは十二分とは言い難いし、ここぞ!という場面で右手に力を込めたときのレスポンスはいまひとつ。マフラーやファイナルレシオを変更したら、多少は印象が変わるのかもしれないが、何かこう、ヴェルシスX250/ツアラーの乗り味は、インパクトが感じづらいのである。

ところが、今回の試乗ではさまざまな場面をじっくり走り込み、まさかの降雪にも遭遇したせいだろうか、僕のこのバイクに対する印象は大きく変わった。もちろん、基本的な特性は初代と同じだが、長距離ツアラーという視点なら、これはこれでひとつの正解だと感じたのだ。

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まずは懸案のエンジンに対する印象を述べると、悪条件下では低回転域の力不足がほとんど気にならず、むしろ控え目なトルクと穏やかなスロットルレスポンスがありがたく思えた。逆に言うなら、過去の試乗でそのことに気づかなかった自分が、今回の試乗では恥ずかしくなったのだが、ワインディングやオフロードをムキなって飛ばすのではなく、周囲の景色を眺めつつ、流すようなペースで淡々と走ると、ヴェルシスX250/ツアラーのエンジンは非常に優しくて、心地よかったのである。

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そして我ながら都合がいいもので、エンジンに対するネガなイメージが払拭されると、他の部分も魅力的に見えて来た。いい意味でオフロード車的ではない、1980年代以前の旧車を思わせるライディングポジションは、親しみやすさと快適性を高次元で両立しているし、抜群の防風効果を発揮するスクリーン+フェアリングのおかげで、高速巡航はかなり快適。さらに言うなら、乗り手を急かさないニュートラルなハンドリング、路面の凹凸を巧みに吸収する前後サスペンション、ツーリングペースなら25~30km/L前後をマークする燃費も好感触で、そのあたりを認識した僕は、今さらではあるけれど、ヴェルシスX250ツアラーを見直したい気持ちになってしまった。

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まあでも、短時間の試乗や一般的な日帰りツーリングでは、このバイクの本当の美点はなかなか理解しづらいだろう。逆に言うなら、数日以上のロングツーリングに頻繁に出かけるライダー、あるいは、日帰りでも500km以上の距離を日常的に走るライダーにとって、ヴェルシスX250ツアラーは理想の1台……になり得るモデルなのだ。

カワサキ ヴェルシスX250ツアラー 詳細写真

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オーソドックスなハロゲンバルブを採用するヘッドライトはマルチリフレクター式。スクリーンの防風効果は抜群と思えたものの、アフターマーケット市場では数多くのロングタイプが販売されている。

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スチールパイプ製のエンジンガードは、ボディに程よく寄り添うレイアウト。片側2つずつの突起の内側には、純正アクセアリーパーツのフォグランプ装着用の雌ネジが刻まれている。

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コクピットは大排気量アドベンチャーツアラーに通じる雰囲気。ワイドにしてアップタイプのハンドルはラバーマウント式で、左右切れ角は40度(ニンジャ250/Z250は35度)。バーエンドウェイトはかなり細身。

【カワサキ ヴェルシス1000 SE 試乗記事】3代目に進化したオールラウンドツアラーの14画像

アナログ式回転計+液晶モニターのメーターは、ニンジャ250/400やZX-25/6Rなどと共通のデザイン。左にはDC電源ソケット、右にはフォグランプスイッチ用のベースが備わっている。

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ガソリンタンク容量は17L。燃費を25~30km/Lと仮定すると、航続可能距離は425~510km。なおガソリンタンク左右のカバーは、ライダーの下半身に当たる走行風の低減に貢献。

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シートはオンロードバイク的な雰囲気。足つき性が良好なだけではなく、座り心地もなかなか好感触。純正アクセサリーパーツとして、座面高が純正+25mmの840mmとなるハイシートが存在。

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シート後方にはグラブバー兼リアキャリアを設置。片側2ヶ所ずつの荷かけフックは、ロングツーリングで重宝しそうだ。シート下の収納スペースには、ETCユニットが設置できる。

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パニアケースの容量は片側17L。固定はボルト留めなので、残念ながらワンタッチでの脱着はできない。

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左右ステップは完全にオンロード用のデザイン。バーの下面には振動緩和用のバランスウェイトが設置されている。

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センタースタンドは標準装備。改めて言うのも気が引ける話だが、この装備の有無によって、荷物の積載やメンテナンスの難易度は大きく変わって来る。

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ヨーロッパ仕様の300:62×49mmを基準に考えると、62×41.2mmの250はショートストローク指向。この写真ではわかりづらいが、2本のエキパイはかなり複雑なラインを描いた後に、クランクケース前/下方で集合。

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フロントフォークはφ41mm正立式で、リアサスはリンク式モノショック。F:φ290mm/R:φ220mmブレーキディスクはペータルタイプで、キャリパーは前後とも片押し式2ピストン。

【カワサキ ヴェルシスX250ツアラー 試乗記】長距離&悪条件で真価を発揮する、250ccアドベンチャーツアラーの24画像

オンロード重視のタイヤはIRC GP210で、サイズはF:100/90-19、R:130/80-17。なお試乗記には低回転域が力不足と記したが、ニンジャ250と比較すると、1次・2次減速比は加速重視になっている。

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