掲載日:2021年01月28日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/伊井 覚 写真/稲垣 正倫
HONDA CRF250RALLY
同時にフルモデルチェンジを果たしたCRF250Lと並べてみると、CRF250RALLYはパッと見の外見は大きく変わっていないように見える。しかし、それはフロントマスクが従来モデルと同じだからであって、細かく見ていくと様々な工夫が凝らされており、それがしっかりと「The Dakar Replica 週末の冒険者」という開発コンセプトに則っている。それでいて、シャーシやエンジンは新生CRF250Lと共通の進化を遂げているため、オフロード性能を引き上げつつ、ツーリングの利便性や快適性をさらに追求したモデルとなっているのだ。
CRF250RALLYを購入する人の多くは、オフロードバイクを求めているというよりは、アドベンチャーバイクを求めている。つまり長距離ツーリングを快適にこなせるライディングポジションや、大容量タンク、高速道路の強風で疲れない車体だ。今回のモデルチェンジでCRF250RALLYはそこの部分を大きく伸ばしてきた。
まず、フューエルタンクは+2Lで12Lに増量。燃費性能も向上しているため、なんと燃料満タンではCRF1100Lアフリカツインよりも航続距離は長いという。また、ハンドルバーの両端にはCRF250Lにはないインナーウエイトが装備されており、走行中の振動を軽減。ちょっと乗っただけではわからなくても、長距離ツーリングで使い比べてみれば腕の疲労感が変わってくるはずだ。シートもCRF250Lに比べて着座面の幅を20mm拡大し、お尻の痛さを対策。さらにシート取り付け部とステップにラバーを追加することでも疲労軽減効果を狙っている。
今回試乗できたのはサスペンションの長い<s>タイプで、シート高は885mm(無印は830mm)。CRF250L<s>との差はわずか5mmだが、シート幅が広がっていることやシュラウドの形状などの影響からか、身長173cmの僕の足つきは両足の土踏まずがつかないくらいだった。走り出してみると、足つきは全く気にならず、CRF250Lと同様にシェイプアップされたシャーシと、低中速度域に振られたエンジン特性の優秀さが目立った。
従来モデルから-5kgと発表されている軽量化の主な要因は、完全新設計されたスチール製のツインチューブフレームや、スイングアーム、アルミ鍛造のボトムブリッジなどによるもの。さすがに新型CRF250Lのように股下で自在に振り回せる、とまではいかないものの、明らかに細くなったシュラウドもあいまって、ライディング時のヒラヒラ感は明らかに向上している。これまでも「長距離ツーリングができてオフロードにも入れる」マシンだったが、「長距離ツーリングが快適で、積極的にオフロードに入りたくなる」マシンに変わっていると言える。
最後に触れておきたいのがエンジン特性だ。吸排気系を見直すことで、従来モデルより低中速域のトルクを向上。よりオフロードバイクらしいエンジン特性を獲得している。さらにトルクの谷を無くし、綺麗なトルクカーブを描いているため、アクセルをスムーズに開けていくことができる。街乗りで車の後ろについて低速でゆっくり走っていても苦痛を感じないし、林道のコーナーでアクセルを開けてリアタイヤを軽く滑らせてもコントロール下に収まる。1〜5速ギヤのギヤ比をローへ振っていることで、オフロード向けのエンジン特性をさらに補助しているのだという。
それでは、高速道路の巡航性能は落ちているのか? と思いきや、6速のみハイレシオになっているらしい。つまり高速道路では6速で快適に巡航でき、街や林道では1〜5速で扱いやすく、アクセルも開けられるということだ。
今回のモデルチェンジを経てCRF250Lとはさらに住み分けが進んだCRF250RALLYは、軽量な250ccのオフロードバイクでありながら、リッターアドベンチャーのように長距離ツーリングも快適にこなすことができる、さらに満足度の高いマシンへと進化した。残念だったのはあの顔を少しでも変えてくれれば、ニューモデルの所有満足度がさらに高いものになったであろう、という点くらいだろう。