Vol.26 サスペンションとどう付き合っていくか

掲載日:2014年11月21日 モタード魂    

文/小布施 倫行(CP sports)

掲載日/2014年11月21日  文/小布施 倫行(CP sports)

スーパーモタード車でのサスペンション
その真髄は奥深くかつ重要である

前回はスーパーモタード車の足回りの中から、タイヤ、ホイール、ブレーキについてお話ししました。今回はサスペンションについてお話しします。

バイクを路面とつなぐタイヤ、ホイールが大事なことは 前回 の通りで、その大事なつながりをさらに左右するのがサスペンションで、やはり重要なパーツになります。現在の主流は、フロントが『倒立テレスコピック』と言う方式で、リアが『リンク式スイングアーム』と言われる方式です。

まずフロントの説明からいきましょう。テレスコピックとは、カメラのレンズのように筒が伸び縮みする方式の事で、筒状のアウターチューブ内をインナーチューブが往復運動する動きからこのように呼ばれており、多くの場合『フロントフォーク』と呼んでいます。当初、フロントフォークは『正立テレスコピック』という、細い方のインナーパイプをクランプして上部にレイアウトし、外側の太いパイプを下側にしてホイールに取り付けられていました。しかし、現在スポーツ性の高い車種には、前者の『倒立テレスコピック』が採用されています。これは、アウターチューブ(太い外側パイプ)を上部にクランプ(取り付け)することで、細いパイプをクランプするより外力に対して強くなる効果と目的があってのことです。

スーパーモタード車のフロントフォーク長は、ロード車より長く、オフロード車よりはやや短いのが特徴で、ダートや悪路、またジャンプにも耐えられる長さは確保しており、それに加え、オフロード車より高速安定性に優れているのが特徴です。また、リアのストローク長においても同じことが言える設定になっています。全体を見るとオフロード車に比べフロントサスペンションは同程度の固さ、または少し柔らかめで、リアがやや固めの味付け、というのがスーパーモタード車のセッティングです。

ただし、これはスポーツライディング時の1人乗りの場合であり、2人乗りを前提とした市販のスーパーモタード車については、フロント・リア共に硬過ぎると考えます。

ベストの硬さを求める場合、ライダーの体重とポジションを加味しスプリング(レート)を決めて、ライディングシーンを想定したダンパー調整を行うという作業をします。調整機能の付いていない機種でも、スプリングシートを抜いたりスぺーサーを使うなどの方法があります。また、オプションパーツが販売されていることも多いので、スポーツ性能を追求したいライダーはショップなどで相談して下さい。スプリングは、フロントが3,000円程度、リアについても1万円程度から販売されています。また、上級編としては互換性のあるサイズの他車種のパーツも使用する、という手段がありますが、この場合、十分な知識と確実な整備が求められますのでその点を理解しておいて下さい。

まずスプリングと会話をしよう
硬さ柔らかさで乗り味を変える

ここからは、サスペンションが違うと走りなどがどう異なるかという点に触れていきます。まずはライダーと走りの環境、目的によって評価が変わるということを知っておいて下さい。

スーパーモタード車においてのフロントサスペンションの役目は、ターマックに於いて他の車種より大きいと言え、ブレーキ時の沈み込みや、コーナー侵入時に車体をバンクさせ、その抵抗で沈む現象を最大限に利用することが特徴になります。沈んで短く縮んだフロント周りを低く保つことがモタードライディングのコーナーリングでの要であり、その効果は他ジャンルより大きいと言えます。

その時のライダーポジションは、リア寄りで座り、その座り位置はロードのポジションに近いものがあり、マシンのピッチングに対しライダーは極力動かないことでフロントタイヤの接地を安定的にします。この時、ライダーの体重などでフロントに架かる荷重が違ってくるので、セッティングが必要になるのです。フロントサスペンションが硬いと、その性能はロード車寄りになり、小さいコーナーなどの旋回能力が減ります。対して、柔らかすぎると小さいギャップや舗装のアンジュレーション(うねり)を余計に受けて、車体の安定性に欠けます。

リアサスペンションでは、セッティングが硬いとトラクションを架け辛くなるので(沈む量が減り、リアタイヤに荷重を十分に架けられない)アクセルオンがセンシティブに、逆に、柔らかすぎるとリアが沈み込み過ぎて大きいパワーをタイヤに伝えきれなくなり横滑りが起こりやすくなります。

ここで言う、『硬い』と『柔らかい』はスプリングを指すもので、この他にもダンパーの硬さをセッティングする必要があります。

この、スプリングとダンパーは別の役目を担っていて、座ってみた感じだけではどちらが効いているか、硬いのか柔らかいのかが判断し辛いもので、まずはダンパーアジャストを標準か柔らか目でセッティングをし始めることをお薦めします。特に、新車はリンクやオイル、ダストシールが原因で硬い場合が多く、慣らしを済ませてからのセッティングが確実です。

サスペンションとポジション
スーパーモタード独特でもあり難しい

今回のサスペンション編の最後になりますが、セッティングの重要事項としてライディングポジションのことに触れます。

ほとんどの人がライダー自身の体重に関して無頓着で、その影響力は車体の様々なところに及ぶことを考えていないでしょう。およそ100kg~150kg程度の車体に50kg以上の人間と数kgの装備などが乗るので、それらが前後左右に動くだけで想像以上にサスペンションやマシンに力がかかり、さらに走行中の加減速により重力加速度と同様に倍増します。無駄な動きをせずにベストポジションを見つけ、リキまずにキープできることがベストと知っておいて欲しいです。ライディングポジションもまた、セッティングと言うわけです。

特別なトレーニングや経験なしで、レーシングライダーのような積極的に見える『動くライディング』をするのは危険でもあり、また、テクニック向上やセッティングの妨げにもなりかねません。例えば、ターマック(舗装路)でのコーナーリングで、モトクロスのようなシート前方に座ることは必要なく、余計にフロント周りを沈めることになってしまい、マシンの前後サスペンションバランスを取れなくなってしまいます。もちろん、ロードレーシングのような前傾姿勢や極端なリア乗りは超ハイスピードコーナーリング以外では必要なく、サスペンションの動きを有効に使えないため、モタードセッティングから外れていく恐れがあります。

足回りのドレスアップやセッティングをする際に、写真や動画撮影なども取り入れてシミュレーションをしながら、ライディングポジションもチェックしつつ進めて行くと、スーパーモタード車らしい均整の取れた仕上がりになるのではないでしょうか。

小布施 倫行
Michiyuki Obuse

レーシングカートのワークス/開発を経て、ホンダ系でのワークスマシンの開発とレーシングスリックタイヤの開発を担当。1990年に長野でCP sportsを創業、事業を開始する。CP sports発足後はロードレース地方選手権チャンピオンを輩出、モトクロスでも全日本選手権で上位シングルのライダーを輩出し、1998年の長野オリンピックではボブスレーのテクニカルディレクターを務め、日本チーム史上最上位を得る。その後、モタードの全日本に専念し、レーシングパーツ開発とモタードスリックの開発も担当し、2006年にCRFで、2010年にハスクバーナで全日本モタードProクラスチャンピオンを獲得する。06年より全国各地でのモタードスクール・講座もしていて、受講者の中には全日本モタードの優勝者も出ている。

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