掲載日:2014年03月28日 絶版原付
文/櫻井 伸樹
21世紀に突入してはや14年、現代のバイクを取り巻く環境はパワーよりも燃費や静粛性、排気ガスのクリーンさなど、エコロジーでリサイクルな方向性に向いつつあるが、日本が大きく経済成長をした1980年代はまだまだパワー競争全盛で、また速く走れるヤツが無条件に偉かったという時代だ。当然50ccの原付にもその傾向は強く、世の免許取立ての高校生たちは、いかに改造すれば自分のスクーターを速くできるかということに躍起になっていた。
1983年にホンダから発売されたビートも、そんな時代に活躍?した絶版原付だ。まずこのスクーター、一目見てわかるようにデザインが非常に奇抜。スポーツカーのボンネット周りのようなフロント周りやビッグバイクのようなシートカウルなど、そのルックスは近未来的で先鋭的だ。しかしどこかチープで特撮ヒーローのマシンや、デパートの屋上のミニ遊園地にある100円で動くハリボテバイクの香りが漂っている。
だがこのビート、当時の原付自主規制最高値である最高出力7.2psをきっちりと発生させるため、ホンダが世界で初めて水冷2スト単気筒を搭載させた革命的な1台なのである。
そのキャッチコピーは「高感度スクーティング」。メンテナンスフリーの密閉型バッテリーや2灯式ハロゲンヘッドライトなど、見た目の奇抜さに加え、2輪車としては世界初となる機構が多いのもポイントだが、最大の特徴はV-TACSという可変バルブ機構を搭載していたこと。
これは最高出力7.2psを発生させるための2段階トルク切り替え機構で、正式名称は、Variable Torque Amplification Chamber System(バリアブル・トルク・アンプリフィケーション・チャンバー・システム)。ビートの排気系はメインとサブの二つのチャンバーで構成されているが、サブは低回転域でトルク発生に適するものの、高回転域では吸気充填効率が落ち出力が頭打ちになる弱点があった。そこで、手動(足動?)によって高回転時に排気系をメインチャンバーのみにすることで、高出力を得るシステムである。
おもちゃのようなタコメーターが5500rpmを指した瞬間に、左のステップボードにあるペダルを踏むと、この機構が作動し目の覚めるような加速を見せるのだ。もちろん激烈な加速感といって所詮原付だから、たかが知れたものだが、装置で加速性能が上がるとは、ますます特撮やアニメチックで、ギミック好きのライダーにはたまらない機構だ。
そんな何から何まで奇抜なビートだったが、当時の50クラスとしては高めな15万9,000円という価格と、チープ感漂うデザインからか、どうにも人気が出ず、結局は1986年までの3年で販売終了となってしまった。
あれ、今見ると少し前にホンダが革命的な1台としてリリースしたオートマバイク「DN-01」とデザインも歴史も似ているような、似てないような……。
全長×全幅×全高 | 1690×580×985 |
軸距 | 1,140mm |
乾燥重量 | 60kg |
車両重量 | 65kg |
エンジン型式・種類 | AF07E・水冷2ストローク単気筒 |
総排気量 | 49cc |
最大出力 | 7.2PS/7000rpm |
最大トルク | 0.73kg-m/7000rpm |
燃費 | 67.0(30km/h) |
変速機形式 | 無断変速式 |
始動方式 | セルフ式 |
点火装置形式 | CDI |
潤滑方式 | 分離給油 |
燃料タンク容量 | 4L |
クラッチ形式 | 自動遠心 |
F懸架方式 | テレスコピック |
R懸架方式 | スイングユニット |
F・Rタイヤサイズ | 3.00-10-2PR |
価格 | 15万9,000円(北海道・沖縄は3,000高。その他、一部離島を除く。) |
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