掲載日:2022年09月02日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
KTM RC125
現在日本において、125ccクラスのスーパースポーツモデルはとても希少だ。このRC125を除けば、スズキのGSX-R125くらいではないだろうか。しかしもちろん、スーパースポーツの花形は大排気量モデルだ。1000ccや600ccなどの大型スーパースポーツバイクを思いっきり乗り回せたら、それは痛快だろう。しかし忘れてはいけないのが、大排気量のスーパースポーツモデルの性能を思いっきり使えるのはサーキットだけだということ。さらにスポーツライディングの基礎を学ぶには、やはり小排気量が一番だ。実際にレースで活躍するライダーたちも幼少の頃にポケバイから始めてステップアップしてきたように、公道用モデルでもいきなり大型に乗らずにRC125から始めれば、ライディングスキルの上達は目に見えて早いはずだ。
誤解しないでほしいのは、RC125は上級者が乗ってもとても楽しめるモデルだ。まずエンジンは125DUKEと同型でボア×ストロークが58×47.2mmとショートストローク型。高回転まで回して走るタイプ。数値上の性能通り、乗ってみるとやはり低回転での力不足を感じてしまう。
6500回転まで回すとシフトアップインジケーターを兼ねている回転数メーターが点滅し、シフトアップを催促してくる。スロットルを全開まで回してフル加速しても、60km/h出る前に5速まで到達できるため、大型バイクだとサーキットでしか体験できないようなフル加速を、公道でも危なげなく経験することができる。6500回転から7000回転くらいまではちょっとだけフラット気味のパワーカーブを感じるものの、大きな谷はなく、8000回転から上で本領を発揮する。そこから上はレッドゾーンの入り口である10000回転までしっかりと加速を感じることができた。
そんな高回転型のエンジンだから、ちょっと斜度のある峠の登りコーナーとかでシフトチェンジをサボってしまうと、全く走らない。250cc以上だとシフトダウンしなくてもなんとなく走れてしまうようなところで、サボれない。だからこそ上達するのだ。
そしてWPサスペンションが優秀すぎる。初期の動きが驚くほどスムーズで、古くなったアスファルトの凸凹などに乗っかっても、車体が跳ねたり嫌なボトムを感じることは一切なく、異常なまでの路面追従性を発揮してくれる。おかげで路面から伝わってくるインフォメーションが途切れることがなく、コーナーで安心して寝かせていくことができる。峠道にスピード超過防止のために意図的に設置された凸凹でも同様なのは、さすがと言うしかない。
一般的に市販モデルのサスペンションというのはコストダウンを意識しているものが多く、このように初動の動きが良いと奥まで柔らかく、ちょっとフロントブレーキを強くかけただけで大きくボトムして、ピッチングする車体に振り回されることがある。しかしRC125はこの動きがほとんど無く、どんなタイミングでも安心してブレーキ操作ができるというのが、とてもつもない安定感に貢献しているのだ。
また、初心者にありがちなのが峠の登りは楽しめても、下り坂が怖いこと。登りはブレーキ操作をしなくてもアクセル操作だけである程度走ることができるが、下りはそうもいかないからだ。そしてスピードが出過ぎるのが怖くてアクセルを開けられず、ジャイロ効果を失ってバイクが安定しないという負の連鎖に陥ってしまう。
特にスーパースポーツのような前傾で乗るモデルの場合は、目が地面に近いことで恐怖を感じやすい。その点、RC125は車両重量が約147kgとまるでオフロードバイクのように軽量なため、下り坂で少しくらい速度が出てもマシンを制御できるという安心感がある。それには今回のモデルチェンジで行われたフレーム、ホイールをはじめとした軽量化が大きく影響していると感じられた。
上級者、中級者が乗ればその性能をしっかり引き出してスポーツライディングを楽しむことができ、初心者が乗れば恐怖心を感じずにどんどん上達する、この新型RC125はそんなバイクなのではないだろうか。
兄弟モデルであるRC390を踏襲したヘッドライト周り。もちろんフルLEDで、ウインカーはカウルのサイドにレイアウトされてスタイリッシュ。ミラーはガレージなどにしまうときに、折り畳んでコンパクトに収納可能。
TFT液晶メーターには速度計、回転数、燃料、エンジン温、シフトポジションなどが表示されている。なお、ライディングモードはROADとSUPERMOTOを選ぶことができ、SUPERMOTOにすることでリアのABSがカットできる。
エンジンは水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒の124.7cc。モデルチェンジでマッピングが変更され、トルクが向上。ボア×ストロークは58×47.2mmのショートストローク。最高出力は15PS/10000rpmなので、レッドゾーンギリギリまでパワーを発揮する。
サイレンサーは今回のモデルチェンジで大きく形状を変更され、円筒状に。エンドキャップはメッシュ状になっており、静音性は高い。
フレームは新設計され、旧モデルから1.5kgの軽量化を実現。KTMオレンジに塗装されたトレリスフレームがむき出しになっており、レーシーな印象を与えてくれる。
シートは分割型。5時間座り続けてもお尻が痛くならない快適性を持っている。また、コーナーでバイクを寝かせた時に、お尻の片側をシートに乗せてトラクションをかけていくのだが、そのコントロールがすこぶるやりやすい印象を受けた。
燃料タンクは13.7L。大容量の割に車体全体でも主張しすぎず、適度なサイズ感だ。高速道路に乗れない125ccにとってこのタンク容量は嬉しい限り。
ステップはスーパースポーツらしく、かなりバックステップ。乗るとかなり本気の前傾フォームとなり、125ccだからといって手を抜かないマシン作りからKTMの心意気が伝わってくる。
KTMのマシンに乗るたびに感動してしまう、WPサスペンション。ブレーキキャリパーはBYBRE製。大胆に肉抜きされたキャストホイールにブレーキディスクを直接マウントしているのも軽量化に影響している。フロントディスク径は320mmでRC390と同径を採用。
ホイールサイズは前後17インチで、純正タイヤにはミシュランのロード5を採用。ラジアルタイヤでありながら、バイアスっぽさも感じられるトレッドパターンが特徴的で、ウェット性能も高い。
空力特性を考慮したカウルデザインもまたレーシー。さらにラジエーター左側には電動ファンも装着されており、エンジン温度計が半分を超えると自動で作動した。
セパレートハンドルは10mmの高さ調整が可能。スポーツライディングではなく、ツーリングするときはリラックスして乗ることもできるようになっている。
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