ヤマハ SPORT HS1(1969)のレストア その1

掲載日:2017年01月26日 特集記事    

写真・文/モトメンテナンス編集部

リトルツインはベースコンディションが重要
キャブOHで始動したエンジンは望外に好調かも♪

ツーリングに出かけたい原2バイクとして、コンテナから出してきたヤマハHS1。入手から長い時間を経たことで劣化が進み、今ではエンジンが掛かるかどうかも怪しい。メジャーな絶版ミニ比べて部品の入手が難しいことで知られるリトルツインモデルにとって、ピストンの焼き付きやクランクベアリングの異音は復活にとって致命傷となる。そもそも始動するのか? 変な音が出ないか? を確認して、2台のうちより状態の良い方を活用するため、キャブをOHして再始動を行ってみた。

外付けバッテリーで電気を供給して混合ガソリンをキャブに流してキック数十発の後、少し湿った排気音で再始動したリトルツイン。こちらはサフェーサー仕様のタンクが載ったHS1後期モデル。AT 90よりエンジンの弾け感があってスポーティだ。

YAMAHA SPORT HS1 1969

キャブ内部のピストンバルブが完全に固着して、スロットルがまったく動かないサフェーサー仕様。一方、青タンク号のキャブはスムーズに動いたが、結果的にこちらのキャブの方が基本的なコンディションは良好だった。

並み居るライバルとの販売競争に打ち勝つために、デザインでもメカニズムでも他車との差別化を図った1960年代生まれのヤマハHS1の最大の特徴が「90ccの2気筒エンジン」だ。その小気味よさは、以前このコーナーで取り上げたAT 90で実際に体感しており、最高出力もトルクもアップして5速ミッションとなったHS1ではスポーティな魅力はさらに引き上げられた。

リトルツインと呼ばれる小さくて可愛らしく、それでいてスポーツバイクとして作り込まれたHS1を今の時代に楽しむには、エンジン部品の入手が大きな問題となる。製造から半世紀近くも経過した絶版車なら、多かれ少なかれ部品に関する悩みはあるが、AT 90からHX 90に至るリトルツインシリーズではピストン、ピストンリングの確保からして相当高いハードルとなる。もちろん、ヤマハマニアやリトルツインフリークの中には一生分!?の純正部品を抱え込んでいる人もいるかもしれないが、そうでなければ他機種からの転用可能性が絶望的なボアφ36.5mmのピストンやリングがNGだった時点で終了~となりかねない。

10年以上前にネットオークションで落札した2台のHS1も、もちろんこの点が最大の関心事である。前号で触れたように、入手当時は2台ともエンジンが掛かったが今はどうか。前号で触れたとおり今もキックペダルは踏み降ろすことができるが、ピストンやリング、ベアリングから音が出ていたかどうかなど、まったく覚えてはいない。始動が先か分解が先か、エンジンの扱いには人によってやり方があるようだが、キックによってクランクシャフトがスムーズに回る今回は始動優先で作業を行ってみる。

弁当箱形状のエアクリーナーを外して2個のキャブとご対面。プレスフレームが接近しているAT 90より後方の隙間が大きく整備性は悪くない。新車当時のエアベントチューブが残っており、過去に外された形跡はない。

手元にある2台のうち、サフェーサータンク仕様のキャブは、本体がガソリンやオイルでコーティングされたかような状態で、ピストンバルブが完全に固着してスロットルはピクリとも回らない。

上部のリングナットを外してもピストンバルブは動かないので、固着したガソリンを溶解するためにキャブボディを均等にヒーターで加熱する。抜けないスタータープランジャにも有効だ。

キャブ内部に残ったガソリンがワニス状に変質して固化するとこうなることが多く、キャブクリーナーを浸透させて汚れを軟化させるのが効果的。

ヒーター加熱だけでは効かなければ、泡タイプのキャブクリーナーを併用する。キャブ本体に熱が行き渡っていれば、クリーナーは細部まで浸透して作用する。エアクリーナー側とシリンダー側からまんべんなくスプレーしよう。

ピストンが抜けないからといって、メインボアとピストン下部の隙間にマイナスドライバーを突っ込んでこじると内部を傷つける原因となるから、固着した成分が柔らかくなってスムーズに抜けるまで焦らずじっくり構えよう。

負圧キャブだとピストンダイヤフラムゴムへの影響が懸念されるが、ピストンバルブキャブなら大胆に加熱してもOKだ。それでも抜けない場合、過去に無理な力を加えたことで変形していることも考えられる。

フロートやジェットなどをすべて取り外したら、泡タイプのキャブクリーナーをガンガンスプレーして汚れを溶かす。再使用を期待したフロートチャンバーガスケットはパリパリに割れてしまった。

ピストンが抜けてフロートやジェットなどすべてのパーツを外したら、キャブクリーナーに漬け込もう。この際に自信を持ってオススメできるのが、ガソリンで希釈して用いるヤマルーブのキャブレタークリーナーだ。アルミや真鍮など素材を問わず、部品表面に付着した汚れを完璧に除去できる。フロートビスやスターターレバーなど鉄部品のサビまでは落ちないが、キャブボディ内部の細かなエアー通路にはびこるワニスも強力に溶解する能力がある。

外観やフロートチャンバーに付着した汚れを泡クリーナーで落としたら、漬け込みタイプのキャブクリーナーで追い打ちをかける。ガソリン70:クリーナー30の混合比で希釈するヤマルーブは細かい通路にも行き渡る。

見た目はどうしようもなく汚れきっていたサフェーサータンク号のキャブは、泡タイプ→キャブクリーナーへの漬け込みで新品同様!?の輝きがよみがえった。フロート内部の状態も良く、旧車特有のあばた状の腐食も皆無だった。逆に外観は勝っていた青タンク号のフロートの方が、過去に内部を腐らせてガリガリと削ったような痕跡を確認できた。

クリーナー液に1時間ほど漬け込むことで、アルミのキャブボディもジェットやフロートの輝きがよみがえった。左のセットがサフェーサータンク用で右が青タンク用。青タンク用のフロートチャンバーはクレーター状の腐食を擦った痕がある。過去に腐らせたか?

燃調キットでお馴染みのキースターがその昔、限られたルートで流通させていたリペアキット。車体と同時期だから10年ほど前に買っておいたものを発掘。ジェット類は純正が使えそうなので、ガスケット類を利用する。

純正キャブのガスケットはゴム系を使用していたが、当時もののリペアキットのガスケットはペーパー系。実は現在でもヤマハ純正パーツが入手できるが、それを注文しても紙系のガスケットが納品されるらしい。

始動時に濃いガソリンを供給するスタータープランジャーも、キースター製に交換。先端の黒いゴムが通路を開閉するフタになるが、古いゴムは通路形状の痕がつき硬化して、通路を閉じてもガソリンが流れる原因となる。

すべての通路をエアブローした上で復元したキャブは、経年劣化を感じさせないほど輝いている。汚れでコーティングされた表面をワイヤーブラシなど物理的手段で擦られなかったのが幸いしたのだろう。

シリンダーからキャブを外したら、久方ぶりの始動時にピストンやクランクベアリングを保護するために金属改質剤のゾイルスプレーを注入しておこう。

キックペダルはスムーズに下りたが、プラグ穴と吸気ポートから改めてスーパーゾイルスプレーを吹き込みながらピストンとクランクシャフトを動かしておく。混合ガソリンを送るとはいえ、数十年ぶりの始動なら各部の表面を保護しておきたい。

またスパークプラグをシリンダーヘッドに当ててバッテリーを積んでキックペダルを踏んだ際に、元気よく火花が飛ぶか否かも確認しておく。この時点でどちらか一方しか飛ばなければ、エンジン左側のカバーを外してコンタクトポイントの接点やコンデンサーの状態をチェックする。

汚れたエンジンにピカピカに輝くキャブを装着して、混合ガソリンを入れてキックを繰り返すこと十数回。弾けるような排気音と共にエンジンが息を吹き返した。キャブ頂部のスロットルストップスクリューとケーブルアジャスターでアイドリング回転と同調を合わせて、しばらくエンジンを掛けっぱなしにしてみたが、十分に暖機した後もピストンやリング、クランクジャーナルベアリングから気になる異音は発生せず、4,800kmあまりを指すメーターの走行距離を信じてもいいかな?という印象。

洗浄前はオイルやガソリンでコテコテに汚れたクランクケース上面と同様の汚さだったキャブが、そこだけピカピカに輝いていて違和感満点だが、始動と異音確認が目的なのでこれでいい。始動後にすぐに安定アイドリングに移行できたのも、キャブの基本性能が良いおかげだろう。

ただ、クランクケース上面で外れたブリーザーチューブの穴から、赤く錆びたシフトドラムが覗き見えたのにはガックリ。だからシフトペダルが動かないんだなぁ……。う~ん、青タンク号とどちらを生かしたらいいのか再考しなきゃ。

エアクリーナーを外した時点で判明した悪いニュースは、外れたブリーザーキャップ穴から見えたシフトドラムの赤サビ。おそらくかなり以前からキャップは外れていて、湿気が入っていたのだろう。取りあえずは油分をたっぷり注ぎ、クランクケースカバーを外してシフトドラムを直接回してみたい。





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