公道用タイヤ史上最強のグリップ力を獲得した、ダンロップ・スポーツマックスQ5

掲載日/2022年7月21日
取材協力/住友ゴム工業株式会社
写真/井上 演
取材、文/中村友彦
構成/バイクブロス・マガジンズ
タイヤウォーマーやトランポは所有していないけれど、サーキット走行を思いっ切り楽しみたい。USダンロップがレースで培った技術を転用して開発したスポーツマックスQ5は、そんなユーザーの期待に応えるタイヤだ。

アメリカで独自の進化を続けたQシリーズ

近年のダンロップは、サーキット走行を視野に入れたハイグリップスポーツラジアルに関して、地域の趣向に応じた開発を行っている。具体的な製品名を記すと、日本ではαシリーズ、北米ではQシリーズ、欧州ではスポーツスマートシリーズを販売しているのだが、Qシリーズの秀逸な資質に注目した日本のダンロップは、2019年にスポーツマックスQ4の導入を開始。2022年7月からはその後継として、スポーツマックスQ5の発売が始まることとなった。

Qシリーズの原点は、2005年に登場したグローバルモデルのクオリファイヤーで、当初は日欧での販売も行われていた。ただし、2013年のQ3からは北米が主要市場となり、以後はAMAスーパーバイク/Moto Americaで培った技術を転用する形で進化。ちなみに、現在の日本におけるQ5の位置づけは、レース用のD213GPと、ワインディングロードを重視したα-14のほぼ中間で、広報資料の2ページ目には太字で、“サーキットに生息するストリートタイヤ。”と記されている。


今回試乗に使用した車両はSUZUKI GSX-R1000R。リッタースーパースポーツの中では街乗りからサーキットまで幅広く使い勝手の良いエンジン特性とライディングポジションを有しており、タイヤの特性もわかりやすい。

先代とは異なり、ミドルや250cc用も設定



フロントタイヤは従来モデルのQ4に比べセンター外径を拡大し、幅を少し狭めることでよりエッジの傾斜がついたプロファイルに。Q4では縦方向の剛性が高すぎることからブレーキング時にタイヤが潰れにくかった点を改善するため、アラミドのコード層をクロスして重ねた2CUTベルト構造をチューニング。旋回時の素早いレスポンスを実現しつつ、柔軟性も向上している。

スリックタイヤに必要最低限の溝を加えただけ……と言いたくなる、アグレッシブなトレッドパターンを見ればわかるように、Q5はサーキットでの運動性能を重視したタイヤだ。もっとも、そのスタンスは既存のQシリーズも同様だったのだけれど、カーボンブラックの含量増加によるドライグリップ強化、プロファイルの刷新で実現した接地面積拡大と接地圧力分布の最適化、剛性バランスの調整を主因とする扱いやすさの向上など、Q5は多岐に渡る改良を実施。USダンロップのテストコースにおけるベストタイムは、Q4の1分5秒83に対して、Q5では1秒以上の短縮となる1分4秒57を記録している。



リアタイヤは従来モデルのQ4に比べセンター外径を拡大、トレッドエッジの位置を下げることでよりエッジの傾斜がついたプロファイルに。フルバンク時の接地面積を向上させ、設置圧力分布を最適化。深いバンク角でも安定したグリップを発揮する。軽量なアラミドを採用したベルト構造で、高速安定性と接地感の向上を両立している。

ただし、Q5はサーキット専用タイヤではない。開発陣が想定したターゲットユーザーは、タイヤウォーマーやトランポを所有していない、自走でサーキット走行会に参加するライダーで、ストリートでの扱いやすさも考慮しているのだ。もちろんサーキットとストリートでは、求められる要素が異なるのだけれど、サーキットに軸足を置きつつも、ストリートで不具合を感じないことが、最新のQ5を含めた歴代Qシリーズの特徴なのである。

先代のQ4がリッタークラスのスポーツモデルを主な対象としていたのに対して、Q5はミドルクラスや250ccなどに適合する細身のサイズも設定している。この対応機種の拡大は、Q4をあらゆる面で凌駕したQ5に対する、ダンロップの自信の表れと言っていいだろう。

Q5はフロント2サイズ、リア8サイズをラインナップ(Q4はフロント1サイズ、リア5サイズ)。250ccからミドルクラス、リッタークラスまで幅広くカバーしている。

サーキットだけではなく、ツーリングも楽しめる

走行距離は300kmに満たなかったものの、ツーリング+自走でサーキット走行を1日で行った今回の試乗は、普通に考えればなかなかハードである。とはいえ、途中で撮影や食事を挟みつつ、朝7時から夕方5時までバイクに乗り続けたこの日の僕は、心身の疲労が意外に少なかった。

もちろんそういう使い方なら、α-14かロードスポーツ2のほうがさらに快適だろう。ただし、サーキットの運動性能に特化したハイグリップタイヤは、十分な熱と荷重が得られない状況では硬さや重ったるさ、悪い意味での手強さを感じることが珍しくないというのに、Q5には乗り手に負荷をかける要素がほとんど見当たらなかったのだ。

その理由は、走り始めて数分でトレッド面がかなり暖まることや、ハンドリングがヒラヒラと表現したくなるほど軽快なこと、ブレーキやサスの感触が至ってナチュラルなこと、路面の凹凸の吸収性が悪くないことなど。この特性ならおそらく、ハイグリップタイヤ未経験のライダーでも、違和感を抱かないんじゃないだろうか。いずれにしても、広報資料を見てピンポイントなイメージを抱いていた僕は、Q5の守備範囲の広さに大いに感心することとなった。

では肝心のサーキットはどうかと言うと、グリップ力は圧巻のひと言。普段のスーパースポーツのサーキット試乗と同じ感覚で走ると、ブレーキングではスピードが落ちすぎるし、コーナーではあっさりとインにつきすぎてしまうのである。そしてその事実を把握した時点で、ブレーキ入力を少しずつ弱め、コーナーへの進入速度を徐々に上げてみたところ、今度はバンク中の前後輪の接地面から路面に向かって根っこが生えているかのような、絶大な安定感にビックリ。タイヤのほうから“まだまだイケる‼”と訴えかけて来るのだ。このグリップ力と安定感ならどんなライダーでも、周回を重ねるごとにタイムが短縮できるに違いない。

なおストリートで感じた暖まりの早さは、サーキットでも実感できた。と言っても試乗日の気温は30℃以上だったので、どんなタイヤでもすぐに暖まるのだが、練習走行に来ていた他のライダーのほとんどがタイヤウォーマーを使用する中、Q5を履いたGSX-R1000Rを駆る僕は、序盤から他のライダーと同等のペースで走れたのだ。念のために数分ほど走った段階でピットに戻って確認したら、今からレースが始まってもOKと言いたくなるほど、前後とも暖まりを通り越して、トレッド面がしっかり熱くなっていた。

サーキットランが存分に楽しめるストリートタイヤと言うと、従来のダンロップの場合は、α-13SP、α-14、Q4の三択で、これまでの僕は守備範囲が広いα-14を推奨することが多かった。とはいえ今後は、実際の用途を詳しく聞いてからだが、Q5をオススメする機会が増えそうだ。

サーキット走行20分×2本を終えた直後のリアタイヤ。高いグリップ性能のおかげで端までしっかり使えている。コンパウンドにレース用微粒子カーボンを採用したことで発熱効率がアップしており、路面にしっかりとグリップしていることが、よくわかる。

INFORMATION

住所/東京都江東区豊洲3-3-3豊洲センタービル
電話/03-5546-0114
営業時間/10:00~18:00

1889年、イギリスにて設立されたダンロップ社。今や、誰もが知る“ダンロップ”というこのブランドは、創立者の息子が「自転車をもっと楽に走れるようになるにはどうしたらいいのか?」という素朴な質問を父に投げ掛けたことから、その歴史をスタートしています。四輪は勿論、現在では国内外でのモータースポーツシーンでも活躍し、SUPER GT(元 全日本GT選手権)を中心にタイヤを提供。以前は全日本スポーツプロトタイプカー耐久選手権(JSPC)、全日本F3000選手権等にもタイヤ供給を行っていました。二輪車用としてはSPORTMAX・GP・ARROWMAX・KABUKI・TRAILMAX・BURORO・GEOMAXをラインアップ。また純正として同社のタイヤを採用するメーカーも多数存在し、いつの時代も、その時々の環境に対応し、性能にも一切妥協をしないその作り込みは一流ブランドならではのものです。

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