取材協力/ヨシムラジャパン  取材・文/中村 友彦  撮影/大屋 雄一(タイトルカット)、富樫 秀明
掲載日/2013年12月24日


マフラーを交換するだけで、こんなにもルックスと乗り味が変わるものなのか…。『R-11サイクロン』を装着したマシンを体験すれば、誰もがそんな印象を抱くはずだ。ヨシムラが2012年から発売を開始したR-11は、もともとはレース用として開発されたマフラーだが、その技術を反映したストリート用を手がけるにあたって、同社は質感の高さと音質の心地よさを徹底追及。こうした姿勢が世界中のスポーツバイクユーザーから評価され、2012年春の発売以来、R-11は好調なセールスを記録している。

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テーパー角が異なる3つの逆3角形パーツを組み合わせた造形は
もはや芸術の域に達していると言っても過言ではない

1990年代後半に『トライオーバルサイクロン』を発表して以来、逆3角形のストレートタイプをレース/スポーツ用マフラーの主軸としてきたヨシムラ。そんな同社が次世代を見据えたニューモデルとして、R-11サイクロン(意匠登録済)の開発に着手したのは、今から数年前のことだった。当初はスーパーバイクレーサーのGSX-R1000用として誕生したR-11は、逆3角形というヨシムラ独自のスタイルを維持していたものの、ボディをテーパータイプに変更すると同時に全長を大胆に短縮。以後は自社チームで参戦したワールドスーパーバイクレースで試行錯誤を繰り返し、市販モデルの正式販売が始まった2012年以降は、ヨシムラ自身のJSBレーサーとワールドスーパーバイクを戦うFIXIクレセントスズキのGSX-R1000に、R-11の細部を変更したR仕様が採用されるようになった。

アフターマーケット製マフラーの命題と言うべき出力特性の改善に加えて、軽量化やマスの集中化、低重心化、バンク角の確保、空力性能の向上、ステップ装着位置の自由度など、R-11はスポーツ性能を重視して開発されたモデルである。ただし、実際に製品を手に取って驚くのは…、マフラー業界の老舗ならではと思える質感の高さだ。サイレンサーカバーの素材が4種から選べることは(チタン/チタンブルー/ステンレス/メタルマジック)、既存のヨシムラ製マフラーに通ずる要素だが、極限まで薄く伸ばしたステンレス素材を“ツライチ”で溶接した入り口部分の構成や、ドライカーボンを用いたエンドピースの高級感、そして異なるテーパー角を持つ3つの逆3角形パーツを巧みに組み合わせた全体の造形は、もはや芸術の域に達していると言っても過言ではない。ライディング中はもちろん、マシンを停めて眺めても充実感が得られる。R-11サイクロンはそんなマフラーなのだ。

  • ステンレス製の導入部とドライカーボンのエンドピースは、R-11全モデルに共通する装備だが、中央のサイレンサーカバーは4種の素材から選択することが可能。写真のチタンカバーは、最もレーサーに近いイメージでありながら、マットで落ち着いた雰囲気を獲得している。

  • 一見するとカーボンに見えるものの、メタルマジックカバーの素材は耐久性に優れるステンレス。表面にエッチング加工を施したうえで、ブラックのペイントを施すという凝った手法で製作されている。なおR-11のエンブレムは専用デザインだ。

  • 現在販売されているR-11の主力は1エンドだが、GSX-R600やZX-10R、S1000RRなど、一部のスーパースポーツには2エンドが採用されている。内部にY字型パイプを配置する2エンド仕様は、1エンドより生産にかなりの手間がかかるようだ。

  • 驚くほど小ぶりなボディでありながら、現在の日本の厳しい音量規制をクリアする技術はヨシムラならでは。ほとんどのモデル用は排気口に、溶接固定されたインナーバッフルを装備する(ヨシムラのロゴが刻まれたエンド部はアルミ削り出しで製作)。

  • 3つのボディパーツを結合するステンレスバンドは、筒形マフラーなら汎用品が使えるものの、複雑な3次元形状のR-11の場合、汎用品ではきちんとした結合ができないため、立体成型した専用品を使用(板材からレーザーカットで製作)。リベットもヨシムラオリジナルのディンプルリベットだ。

  • 写真はないものの、R-11にはテールパイプが付属し、サイレンサーとの接続部には2本のスプリングを使用。写真はこれを保持するためのフックで、美しさと強固さを両立した溶接痕に、ヨシムラの技術力の高さが伺える。

  • ねじれに対する強さと長期使用時の耐久性を考慮して、マフラースプリングは本体とフック部分が別体式となっている(両端のフックが自由自在に回転できる)。ヨシムラのロゴが入ったラバースリーブは、耐熱性と耐油性に配慮した素材である。

  • 裏面からR-11を見ると、3つのボディパーツに異なるテーパー角が与えられていることがよくわかる。このテーパー角と逆三角形断面を巧みに融合させるため、内部の板材の一部はスリバチ状に加工して使用。中央のカバー下部にリベット留めされるのは政府認証プレート。

PICKUP SERIES※表示価格はすべて税込(2013年11月現在)

主な対応機種はスーパースポーツとストリートファイター
モデルによってはフルエキゾースト仕様やサーキット専用品も準備する

R-11サイクロンの主な対応機種は、純正が右側1本出しマフラーを採用している近年のスーパースポーツとストリートファイター。2012年春に第1弾として販売されたのは、GSX-R600(2011年~)、ZX-6R(2009年~)、ZX-10R(2011年~)、BMW S1000RR(2010年~)の4機種用だったものの、現在ではNinja250/R(2008年~)やZ250、CBR250R(2011年~)、GSR750、Z800用などがラインアップに加わっている。なお、上記モデル用がいずれも2年間の品質保証付きで販売される車検対応/政府認証スリップオンマフラーであるのに対して、ヨシムラはサーキットでの使用を前提としたフルエキ仕様のR-11レーシングサイクロンも準備。こちらもGSX-R1000(2012年~)/600(2011年~)やCBR1000RR(2008年~)、YZF-R6(2006年~)、ZX-6R(2009年~)、Ninja250/R、CBR250Rなど、幅広いモデルに対応する製品が開発されている。

  • GSX-R1000
    2012~2013年

    2012年型以降のGSX-R1000用R-11は、サーキットでの使用を前提としたフルエキのレーシングサイクロンのみが設定されており、エキゾーストパイプはステンレスとチタンの2種から選択できる。(ストリート用としては、スリップオンのR-77Jとヘプタフォー スを設定)

  • GSX-R600
    2011~2013年

    現行GSX-R600に対応するR-11は、大別すると3種。サーキットを前提としたステンレス/チタンエキパイのレーシングサイクロンが販売されているのは兄貴分のGSX-R1000と同様だが、このモデルにはストリート仕様=政府認証マフラーのスリップオンモデルも存在する。

  • GSR750
    2011年~/2013年~

    ライダーのスポーツマインドを呼び起こすことを目指して開発されたGSR750用は、2011年にデビューしたEU仕様と、2013年から発売が始まった日本仕様の両モデルに対応する。ヨシムラによる実測重量は、ノーマルが4.5kgに対してR-11は2.3~2.5kg。

  • Z800
    2013年~

    ノーマルと同等の扱い易さを維持しながら、中高回転域でパワフルな加速を実現するZ800用は、日本市場に正規輸入される東南アジア仕様への対応を前提に開発。最も軽量なチタンカバー仕様(2.5kg)は、ノーマル(6.4kg)に対して約61%の軽量化を実現。

  • ZX-10R
    2011年~

    現行ZX-10R用の開発ベースは日本に正規輸入されている東南アジア仕様で、スタンダードに加えてABSモデルにも装着することが可能。排気口は伝統のトライオーバルサイクロンと同様の2エンドを採用している。近接排気騒音は93db/5000rpm。

  • ZX-6R
    2009~2012年

    ZX-6R用R-11の開発は2012年型以前をベースに行われたものの、現在は2013年型以降にも対応。政府認証マフラーであるスリップオンタイプに加えて、USヨシムラ製エキゾーストパイプを組み合わせたサーキット専用のレーシングサイクロンも併売されている。

  • Ninja250/Z250
    2013年~

    現行Ninja250用はフルエキタイプとスリップオンタイプに加えて、オプションのステンレスエキパイや、サーキット専用のレーシングサイクロンも販売されている。基本設計を共有するZ250にも装着することが可能で、ABS仕様にも対応。

  • Ninja250R
    2008~2012年

    2013年型で全面刷新を受けたものの、現在でも市場で根強い人気を誇る初代Ninja250R。このモデルに対応するR-11は、政府認証マフラーであるストリート用のスリップオンタイプと、大幅なパワーアップと軽量化を実現するサーキット用フルエキの2種。さらに、スリップオン用にオプションのステンレスエキパイも設定されている。

  • CBR1000RR
    2008~2010年/2011年~

    近年のCBR1000RRに対応するR-11はサーキット専用のレーシングサイクロンのみで、スリップオンとフルエキ仕様を併売。両仕様に付属するエキゾーストパイプは、USヨシムラ製がベースとなっている。専用設計のアルミ製ヒートシールドは別売りとなる。

  • CBR250R
    2011年~

    2013年から発売が始まったCBR250R用のR-11は、ストリートで多用する低中速域のトルクを増強する一方で、ヨシムラならではのレーシーなサウンドとパワー特性を獲得している。重量は純正フラー(6.9kg)の約65%減となる2.4~2.6kg。

  • YZF-R6
    2006年~

    ヨシムラジャパンが開発したR-11と、USヨシムラ製エキゾーストパイプを組み合わせた、サーキット専用ネオハイブリッドモデルの第3弾。CBR1000RR用やZX-6R用と同じく、中高回転域のパワーが向上。エンジン本体と排気系の接合部にはスプリングを使用する。

  • S1000RR
    2010~2012年

    昔から日本の4メーカーに対応するマフラーを主軸としてきたヨシムラだが、コンセプトの合う車種は外車でも今後積極的に手がけるという。BMWを代表するスーパースポーツモデルのS1000RR用として開発されたR-11は、手の込んだ2エンド仕様を選択。

BRAND INFORMATION

ヨシムラジャパン

1954年に活動を開始したヨシムラは、日本を代表するレーシングコンストラクターであると同時に、マフラーやカムシャフトといったチューニングパーツを数多く手がけるアフターマーケットメーカー。ホンダやカワサキに力を注いだ時代を経て、1970年代後半からはスズキ車を主軸にレース活動を行うようになったものの、パーツ開発はメーカーを問わずに行われており、4ストミニからメガスポーツまで、幅広いモデルに対応する製品を販売している。

 

住所/神奈川県愛甲郡愛川町中津6748
電話/0570-00-1954
営業/9:00-17:00
定休/土曜、日曜、祝日