取材協力/株式会社寺本自動車商会 取材・撮影・文/淺倉 恵介  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部掲載日/2013年7月17日

T-REV αシステム ZRX1200DAEG
メーカー希望小売価格 4万9,350円(税込)

FEATURE

注目のエンジンパーツ
T-REV αシステム

エンジニアリングの世界は日進月歩、常に新しい技術が生み出されている。そんな中、今注目を集めているのがクランクケースの内圧コントロール技術。モトGPなど、トップカテゴリーのレースでは当たり前のように導入されており、レーシングマシンだけでなく、市販モデルにも採用例が増えてきていることは知っておくべきだろう。そのクランクケース内圧コントロールを、アフターパーツで気軽に機能追加できるデバイスがある。それが 『T-REV αシステム』 だ。

● スムーズなエンジンブレーキ
● スロットル開度ON/OFFによるギクシャク低減
● ポンピングロス低減、スムーズな回転上昇

T-REV の心臓部とも言えるワンウェイバルブ。逆止弁はリードバルブ構造を採用し、確実な気密性と安定した作動性を確保。三角錐形状は、大きなバルブ面積と、ブローバイガスの流れに瞬時に反応する軽い動き両立するために採用。T-REV の心臓部とも言えるワンウェイバルブ。逆止弁はリードバルブ構造を採用し、確実な気密性と安定した作動性を確保。三角錐形状は、大きなバルブ面積と、ブローバイガスの流れに瞬時に反応する軽い動き両立するために採用。画像はシングル、ツインエンジン用レース専用ドライカーボンシム仕様。通常製品のリードバルブはステンレス製。

T-REV αシステムの構造とは?

エンジン内部では様々なパーツが、絶えず往復運動と回転運動を行っている。ピストンが往復する動き、発熱による空気の膨張などにより、クランクケース内の空気は圧縮が繰り返され気圧が高まってしまう。高まった圧力が抵抗になっているのが、いわゆる “ポンピングロス” だ。その圧力を逃がすためにブローバイガスのブリーザー経路が設けられているのだが、それだけでは気圧を開放しきれず、クランクケース内圧は大気圧より高い値になっているのが普通だ。

そこで登場するのが 『T-REV』。T-REV は、一般的に「クランクケース内圧コントロールバルブ」と呼ばれる機構。ブリーザー経路にワンウェイバルブを設け、吐き出されたブローバイガスをクランクケース内に戻さないことで、クランクケース内を減圧し、負圧状態に保つ。では、クランクケース内圧を負圧にすると、どのようなメリットが得られるのか? 負圧の状態は気圧が低い、つまり空気が薄い状態だ。空気は流体だから、密度が高ければそれだけ粘度が上がり、エンジンが回転する上で抵抗になる。逆に、密度が下がれば抵抗が弱まるので、エンジンパワーのロスが少なくなり、スムーズに回るということだ。具体的には、バックトルクが弱まりエンジンブレーキがスムーズになる、スロットルのオン/オフ時のギクシャク感の低減、回転上昇が軽くなる等の効果が得られる。

だが、内圧コントロールバルブも万能ではない。減圧の度合いが押し出されるブローバイガス任せの自然減圧のため、1気筒あたりの排気量が小さく爆発間隔も短いマルチエンジンでは減圧効果が働き難いのだ。そこで開発されたのが 『T-REV αシステム』 だ。最近のバイクは、排気ガス浄化装置の二次エア導入システム(AIS)を装備しているものがほとんど。AIS は排気ガスに新気(エアクリーナーから吸いだされる空気)を加えて再燃焼させ、有害成分を減少させるもの。排気ポート内への新気の引き込みは、排気ガスの流れが生み出す負圧を利用している。T-REV αシステムはこの構造に着目。AIS の経路に T-REV を接続することで、強制的にブローバイガスを吸い出し、自然減圧では実現不可能なクランクケース内に強負圧状態を作り出している。また、減圧経路の調整でブローバイガスの引き出し量をコントロール、クランクケース内圧を理想の状態に保つことに成功しているのだ。

T-REV αシステムの効果とは?

下のグラフは、T-REV αシステムの効果を実際に計測したものだ。テストはモリワキエンジニアリングの協力のもと、鈴鹿サーキットを舞台に行われている。テスト車両は、モリワキエンジニアリングが製作する、モトGPのモト2クラス用マシン MD600 を使用。データの記録には、レースと同様に 2D 社製のデータロガーを用いている。

①と②は、クランクケースの内圧を計測したもの。①は T-REV αシステムを装着して走行したデータ、②は未装着状態のデータだ。未装着車は 1,050mbar 付近で推移しているが、対して T-REV αシステム装着車は大体 900mbar から 950mbar の範囲で推移している。1標準気圧は 1,013.25mbar なので、未装着車は常に正圧状態でクランクケース内は大気より圧力が高い。T-REV αシステム装着車のクランクケース内圧は常時負圧状態だ。T-REV αシステムが、狙い通りの性能を持つことを実証している。また、④はスロットル開度。スロットルが大きく開かれエンジンが加速状態にある時に、より高い減圧効果が発揮されていることが解る。

③はエアクリーナーボックスの内圧を計測したもの。T-REV αシステムを装着車と、未装着車の走行データなのだが、両車のデータを重ねると、ほとんどの部分が重複していて違いが確認できない。吸気にラムエアシステムを採用した車両に内圧コントロールバルブを装着すると、スロットルオフ時にエアクリーナーボックスの内圧が急激に高まり、ボックスの破損を招くとする考えがある。だが、T-REV αシステムの場合、装着してもエアクリーナーボックス内圧に変化は無い。ラムエア車にも安心して装着できるというわけだ。

グラフ

DEVELOPMENT

徹底したテストを行い詰めに詰めたセッティング

T-REV の開発は、ストリートだけでなくサーキットでも行われる。

バイクメーカーでの開発ライダーの経験を持つ、寺本幸司氏が自ら徹底的に走り込み、仕様を煮詰めて行くのだ。

  • T-REV の開発は、ストリートだけでなくサーキットでも行われる。バイクメーカーでの開発ライダーの経験を持つ、寺本幸司氏が自ら徹底的に走り込み、仕様を煮詰めて行くのだ。

    T-REV の開発は、ストリートだけでなくサーキットでも行われる。バイクメーカーでの開発ライダーの経験を持つ、寺本幸司氏が自ら徹底的に走り込み、仕様を煮詰めて行くのだ。

  • これは ZRX1200DAEG 用の T-REV αシステム。オプション設定の SP キットを使用して取付けられている。SPキットは、ブローバイガス取り出し口を増やして更に効率アップ。T-REV 本体がエンジンの外側にマウントされるので、視覚的効果も高い。

    これは ZRX1200DAEG 用の T-REV αシステム。オプション設定の SP キットを使用して取付けられている。SPキットは、ブローバイガス取り出し口を増やして更に効率アップ。T-REV 本体がエンジンの外側にマウントされるので、視覚的効果も高い。

  • αシステムの要であるパイピング。AISに接続する経路や、使用するホースの径などを変更することにより、T-REVの効き具合を調整することが可能。当然、車種別専用設計で、これはZX-14R用のもの。

    αシステムの要であるパイピング。AISに接続する経路や、使用するホースの径などを変更することにより、T-REVの効き具合を調整することが可能。当然、車種別専用設計で、これはZX-14R用のもの。

  • パイピングは T-REV αシステムにとって重要なセッティングパーツ。パイピングの設計次第で、乗り味は大きく変わってくる。理想のセッティングを実現するため、様々な形状、様々な径を持ったパイプをオリジナルで製作している。

    パイピングは T-REV αシステムにとって重要なセッティングパーツ。パイピングの設計次第で、乗り味は大きく変わってくる。理想のセッティングを実現するため、様々な形状、様々な径を持ったパイプをオリジナルで製作している。

  • これはパイプ内に装着されるプラグ。パイプの径だけでは、空気の流れる量が調整しきれない場合に使用する。中央に開けられた穴の径により、流れる空気の量を規制する。当然、T-REV αシステムのために独自開発された専用品だ。

    これはパイプ内に装着されるプラグ。パイプの径だけでは、空気の流れる量が調整しきれない場合に使用する。中央に開けられた穴の径により、流れる空気の量を規制する。当然、T-REV αシステムのために独自開発された専用品だ。

  • プラグはこのようにパイプの内部に組み込んで使用する。穴の径はもちろん、装着する位置によっても特性が変化するため、ノウハウが必要な部分。

    プラグはこのようにパイプの内部に組み込んで使用する。穴の径はもちろん、装着する位置によっても特性が変化するため、ノウハウが必要な部分。

  • 実走テストを行う寺本氏。エンジンのキャラクターは様々、T-REV αシステムの構造も一つとして同じものはない。理想の特性を求めて、開発には膨大な時間が費やされている。

    実走テストを行う寺本氏。エンジンのキャラクターは様々、T-REV αシステムの構造も一つとして同じものはない。理想の特性を求めて、開発には膨大な時間が費やされている。

  • T-REV αシステムを装着して、クランクケース内圧を計測しているところ。内圧は-15kPa 付近で推移。kPa 換算での1標準気圧は 101.325kPa。1標準気圧とは海抜 0m での大気圧で、平地での大気圧の基準。T-REV αシステムにより、クランクケース内はしっかりと減圧されている。

    T-REV αシステムを装着して、クランクケース内圧を計測しているところ。内圧は-15kPa 付近で推移。kPa 換算での1標準気圧は 101.325kPa。1標準気圧とは海抜 0m での大気圧で、平地での大気圧の基準。T-REV αシステムにより、クランクケース内はしっかりと減圧されている。

  • T-REV αシステムは AIS に接続されているが、排気ガスの成分に悪影響を及ぼさない。一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)共に、基準値をはるかに下回っている。数値的にはノーマル車両と同等なので、車検も安心して受けられる。

    T-REV αシステムは AIS に接続されているが、排気ガスの成分に悪影響を及ぼさない。一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)共に、基準値をはるかに下回っている。数値的にはノーマル車両と同等なので、車検も安心して受けられる。

  • 右が T-REV 開発者である寺本孝司氏、左はスタッフの大西さん。2人とも国際ライセンスを所有するレーシングライダーで走りにもメカニックにも精通している。T-REV は、この2人の手によって開発されているのだ。

    右が T-REV 開発者である寺本孝司氏、左はスタッフの大西さん。2人とも国際ライセンスを所有するレーシングライダーで走りにもメカニックにも精通している。T-REV は、この2人の手によって開発されているのだ。

IMPRESSION

取材スタッフがT-REV αシステムを体験!!

「これほど変わるものなのか!?」 T-REV αシステムを装着した ZRX1200DAEG に試乗してのインプレッションは、その一言に尽きる。走りはじめて、すぐに気付くのは回転上昇が軽いこと。ノーマルと同じだけスロットルを開いても、回転の上がり方が速い。「高回転が違う」とは事前に聞いていたのだが、日常使用で多用する 4,000 回転付近ですら違いが感じられる。それだけでも十分に驚かされたのだが、やはり一番如実に効果を感じられた部分はシフトチェンジだろう。シフトダウン時のショックが明らかに軽減されているし、同様にシフトアップもスムーズだ。ミッションが上質になったかのようである。

例えば、シフトダウン時のショックは、一旦クラッチを切ることでエンジンの回転と駆動系の回転に齟齬が生じることで起きる。車体は慣性により前に進み、車速はすぐには落ちない。だが、エンジンはスロットルを閉じることで、クランクケース内の抵抗に負けて容易く回転数をドロップさせる。そこでクラッチを繋ぐために、エンジンと駆動系の回転が合わずにリアタイヤがホッピングを起こしたりするわけだ。そのため、シフトダウン時にはスロットルを煽り、一時的に回転数を上げてからクラッチを繋ぐ必要があるのだが、T-REV αシステム装着車ならその手間はほとんど必要ない。スロットルを閉じても回転数の低下が穏やかなので、スロットルを煽らずともシフトダウンがスムーズに行える。シフトアップ時も同様だ。これならコーナー進入時のシフトダウンにも気を遣わずに済むし、走っていて疲れない。

当たり前だと思っていたシフトショックが軽減されることで、これほどライディングがラクになるのかと気付かされた。実は、クランクケース内圧コントロールバルブというパーツには、良い印象が無かった。エンジンブレーキが軽くなるのは事実なのだが、そのフィーリングが不自然で好きになれなかったのだ。その点、T-REV αシステムはエンジンブレーキの効き加減が絶妙だ。効き過ぎず、かといって全く効かないわけではない、まさに “丁度いい感じ” にバックトルクがかかる。これこそクランクケース内圧を任意に設定できる、αシステムのメリットだろう。実際に走り込んで、マシンに合った特性に仕上げているからこその特性だ。エンジンブレーキのフィーリングが変化することで、違和感を感じるライダーもいるだろうが、個人的には気になるレベルではなかった。是非、装着してみたい。そう感じさせるパーツだ。これは面白い。

PROFESSIONAL COMMENT

寺本 幸司
レーシングライダー

1971年生まれ。全日本 ST600 などで活躍、近年は海外でのレース活動を活発に行っており、世界耐久選手権やアジア圏のレースに積極的に参戦している。バイクメーカーでの開発ライダーを務めた経験を活かし、クランクケース内圧コントロールバルブT-REVを開発。

スポーツライディングだけでなくツーリングにも

クランクケース内圧コントロールバルブと出会ったのは、メーカーでテストライダーをやっていた時でした。“コレは素晴らしい、世の中に広めたい” と考えたのが、T-REV を作った理由ですね。おかげ様で高い評価を頂いたのですが「シングルやツインのエンジンに比べてマルチエンジンは効きが弱い」という声が上がってきました。それをなんとかしたいと強制減圧システムを採用したのが、『T-REV αシステム』 なんです。強制減圧システムはレースでは常識の装備なのですが、最新モデルでは市販車にも純正採用されてきていますね。ドゥカティのパニガーレや、市販レーサーの NSF250R も装備しています。レースでは2013年から追加装着が禁止されてしまいましたが、それほど効果の高いパーツであることを証明しているとも言えます。

T-REV αシステムは狙った特性を作れますが、その分セッティングが大変なんです。自分がサーキットやストリートで走り込んで仕上げています。ありがたいことに多くの方から高い評価を頂いています。当初は、スポーツライディングで活用したいというライダーがほとんどでしたが、最近はツーリングや街乗り中心のライダーからも支持していただいていますね。エンジンの回り方がスムーズになりますし、シフトチェンジのショックが小さいので乗っていて疲れ難いんです。チューニングパーツとしてだけでなく、快適に走るための道具としても使っていただきたいですね。

LINE UP

あなたの愛車に合ったT-REV αシステムをチェック

既にT-REVを装着している場合でも、αシステムキットを追加購入すれば、T-REV αシステムへのグレードアップが可能。スタンダード T-REV ユーザーは要チェックだ。※表示はすべて税込価格 (2013年7月17日現在の価格です。)

  • ホンダ
    CBR1000RR(2008-)

    メーカー希望小売価格:4万9,350円

    販売価格はこちら

  • ホンダ
    CB1300 SF/SB(2003-)

    メーカー希望小売価格:4万9,350円

    販売価格はこちら

  • ホンダ
    CBR250R

    メーカー希望小売価格:4万9,350円

    販売価格はこちら

  • スズキ
    GSX1300R ハヤブサ(2008-)

    メーカー希望小売価格:4万9,350円

    販売価格はこちら

  • スズキ
    GSX-R1000(2009-)

    メーカー希望小売価格:4万9,350円

    販売価格はこちら

  • BMW
    S1000RR

    メーカー希望小売価格:4万9,350円

    販売価格はこちら

  • カワサキ
    ニンジャ ZX-14R

    メーカー希望小売価格:4万3,050円

    販売価格はこちら

  • カワサキ
    Z1000/ニンジャ1000(2010-)

    メーカー希望小売価格:4万9,350円

    販売価格はこちら

  • カワサキ
    ニンジャ250R(2012-)

    メーカー希望小売価格:4万3,050円

    販売価格はこちら

  • ヤマハ
    YZF-R1(2009-)

    メーカー希望小売価格:4万3,050円

    販売価格はこちら

  • ヤマハ
    YZF-R6(2006-)

    メーカー希望小売価格:4万3,050円

    販売価格はこちら

  • トライアンフ
    DAYTONA675

    メーカー希望小売価格:4万3,050円

    販売価格はこちら

メーカー別装着イメージを見てみよう!【2輪専用 T-REV 取り付けガイド】

  • ホンダ
  • ヤマハ
  • スズキ
  • カワサキ
  • 輸入車

それぞれのメーカー名のボタンをクリックすると装着イメージのPDFが別ウインドウで開きます。

SHOP INFORMATION

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電話/072-875-8088
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