取材協力/テックサーフ  取材・撮影・文/木村 圭吾  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2013年12月24日
手曲げ用の“曲げ治具”を用いて生み出される『テックサーフ』のエキゾーストパイプは、妖艶としか形容できないアールを描いている。設立当時から手掛けているステンレスエキゾーストシステムは、これまで培われてきたノウハウによって、0.8mmという肉厚の薄いパイプを機械で曲げている。

FEATURE

曲げ治具で作られる手曲げマフラー
マシンベンドでは0.8mm厚のステンレスパイプを曲げる

2輪用マフラーを専門に手掛けている『テックサーフ』は、レーサーレプリカ全盛期の1988年に『テクニカルサービスフクシマ』として設立。代表の福嶋孝治氏が、かつて目にした4輪のフォーミュラーマシンのエキゾーストのフォルムの美しさや格好良さに感銘を受けたのが、マフラー作りの原点ともなっている。ちなみに現在のブランド名は、設立時の「テクニカル」「サービス」「フクシマ」の略である。

 

マルチエンジン用マフラーとして製品の主体となっているのは、4-1の集合形式を持つエキゾーストシステムだ。集合部までのエキゾーストパイプは可能な限り等長とされており、その最大の魅力は、奏でられるサウンドにある。重低音の効いたい官能的な、いわゆる“集合管”らしい音となるのだ。

 

4-1の集合形式だと「中低速域のパワーが無い」と思われるかもしれないが、それは必ずしも正しくはない。4-2-1の方が、開発時の排気レイアウトのセッティングの幅が広いため、中低速域のパワーを出しやすいというだけのことだ。テックサーフのマフラーは、開発時の“煮詰め作業”を徹底的に行っており、集合部内のピラミッド部分の高さを変えたり、あるいは絞りを設けるなどの手法が採られている。

 

テックサーフ製マフラーの特長として、“エキパイの造形美”がある。その独特の形状は「妖艶な曲げ」や、平易に記せば「曲げがエロいなぁ」という表現(評価)がされる。そこに惚れ込んだユーザーも多く、バイクを乗り換えても“指名買い”するファンも少なくない。その魅力は設立以来続く“手曲げ”によって表現されるものだ。文字通りパイプを1本1本バーナーで炙り、人力で曲げていく手法である。通常では万力にパイプを挟んで曲げ、最後にゲージを当てて形状の確認を行う。テックサーフでは万力の代わりに、車種ごとに用意された“曲げ治具”が用いられている。曲げの工程が終わると、1番から4番まで、1台分のエキパイが出来上がっており、最後にゲージを当てる必要性が無いのだ(エキパイ以外のパーツと組み合わせて最終的なチェックをする治具は存在する)。

 

と、記すと簡単にできてしまうようだが、豊富な経験や素材そのものの知識、理解が必要な世界である。例えば、「Uの字」にパイプを曲げる場合、冷えた時に元へ戻ろうとする量を計算して曲げなければならない。つまり、直線部分が平行になるようにするには、熱して曲げる時に僅かに口の部分が閉じた形状にしておく必要性がり、それは素材によっても異なるのだ。こういったノウハウによって造られ、ユーザーへ送り出される製品は、精度が高く車体への取り付けもピタッと決まる。

 

同社製品の特長は“機械曲げ(マシンベンド)”にも現れている。それはステンレスパイプを用いた『ZEEX(ジークス)』や『ZEEX-R』シリーズだ。これらはエキゾーストに厚み0.8mmのパイプ(規格品が存在しないためテックサーフの特注品)が用いられている。通常のステンレス製エキゾーストに用いられているパイプは1.2mm厚だ。それが3分の2の厚さになるのだから自ずと軽量化となり、さらに価格が抑えられるのも特筆すべき点だろう。

 

0.8mmという薄さのステンレスパイプを機械で曲げ、量産するには高い技術を要する。中でもベンダーへのセッティング能力が必要だ。素材の伸びしろ、縮みしろが少ないため、1.2mm厚のパイプと同様にセットすると、曲がり部分にシワが発生してしまうのである。

 

テックサーフで産み出されるマフラーは、そのパーツのほとんどが社内で一貫生産されている。サイレンサー内部に用いられるパンチングパイプは、板材をローラーで筒状にして溶接、サイレンサー前後の蓋になる部分も型を作り、プレスで打ち出されている。そのため量産品ばかりでなくワンオフ製作の依頼、中でも“ややこしい”車両が頻繁に持ち込まれるのも、同社の高い技術力と製作能力を買われてのことだと言えるだろう。

『テクニカルサービスフクシマ』として始まった1988年には『レーシングチームプロフェット』として鈴鹿8時間耐久レースに参戦し、それ以降も鈴鹿8耐に参戦するチームのマフラーをサポート。

手曲げのワンシーン。パイプ内には砂が詰められており、素材が真っ赤になるまでバーナーで炙られている。素材がチタンの場合には、この工程であの独特の焼け色となるのだ。

妖艶なアールを描き、エンジン下部で集合するエキゾーストパイプ。ネイキッド系であれば、そのフォルムも重要な要素のひとつとなる。

MAKING

必要なパーツは社内で一貫生産
別体式の口金やフランジも製品のポイント

テックサーフで設立当時から行われているのが、ステンレスパイプを1本1本バーナーで炙って形にしていく手曲げだ。時代と共にチタン材も加わり、いずれも独特のアールを持った美しさとなっている。機械によるマシンベンドでは、肉厚0.8mmのステンレスパイプを用いての量産を可能にし、また必要なパーツは、スプリングなどを除いたほとんどが社内で一貫して作られている。

 

曲げ治具にパイプをセット。変な焼け跡が残らないよう脱脂し、その後水分を飛ばすために低温で炙り、乾燥させた上で本格的な曲げの作業が始まる。画像では既に3本のエキパイが曲げ終わっており、最後の1本をセットしている状態。

パイプが真っ赤になるまでバーナーで炙り、曲げていく。この工程で、チタンパイプの場合は独特の焼け色が付く。

4本のエキパイを曲げ終えた状態。パイプがセットされているのが“曲げ治具”であり、車種ごとに用意されている。

手曲げではパイプの内部に砂が詰められている。内部が空洞だと、曲げる際にシワが発生してしまうため、その防止に用いられている。

こちらはベンダーで曲げられているエキパイの様子。手曲げのように砂を詰める必要性が無く、また炙る必要性もない。この機械で0.8mm厚のステンレスパイプをシワが発生しないように曲げるにはセッティングが重要であり、その技術力がテックサーフの強みだ。

曲げと共にマフラー作りで欠かせないのが、溶接の工程だ。その仕上げの美しさにもテックサーフの製品は定評がある。

もちろんパイプを曲げるだけではなく、ほとんどのパーツを自社で製作しており、旋盤でパーツを削り出す工程も。

サイレンサー内部に用いられるパンチングパイプも自社で製作。板材をローラーで巻いてパイプ状に仕上げる。

サイレンサーの前後部分に使われるパーツなどは金型を起こし、打ち抜いた円盤からプレスで製作している。

100.8mm厚のエキパイ1本分の重さを量ってみると683.5グラムだった。1.2mm厚で同様のものを手に持って比べてみると、明らかに軽い。

11同じ車種のエキパイでチタン材の重さは321.5gなので、ステンレス材でもチタンのほぼ倍くらいまで軽量化できている。

12テックサーフのマフラーは、エンジン取り付け部の口金やフランジが別体式になっている。コストの掛かる方式だが、取り付けや取り外す際の作業が容易であることから採用されている。

13マフラー取り付けの際は、口金やフランジを先にエンジンへ装着し、そこにエキパイを差し込む。取り外す際もこの部分はエンジン側に残る。メンテナンスなどの際に便利なのがよくわかる。

14集合部分には出口側に絞りを設けるなどして、4-1の形式であっても中低速域でのパワーを向上させている(番号シールは取り付けの際に何番のパイプをどこに挿入するのかを示すもの)。

15現在では廃盤となっている、当時の最新技術を投入したカワサキZRX1100用のステンレス製フルエキゾーストマフラーは、1.2mm厚の手曲げパイプで重量は6.8kgだった。

16ZRX1100用の現在ラインナップされているZEEXは、0.8mm厚のステンレスパイプで重量は5.8kgとなっており、1.2mm厚と比較して単純に1kg軽量化。価格は11万3,000円(税別)で、これがチタンだと重量4.5kgの17万8,000円(税別)となる。

BRAND INFORMATION

テックサーフ

住所/大阪府高石市綾園4丁目9番7号
電話/072-266-1768
FAX/072-266-2849
営業時間/9:00?18:00
定休日/日曜、祝日、第2土曜日

二輪用マフラーの専門メーカー。車体に組み付けるときの精度の高さやエキパイのフォルムからファンも多く、指名買いされることも少なくない。車種ごとに開発された量産品の他にもワンオフを受け付けており、その豊富なノウハウや知識に加えて、社内で必要なパーツを揃えられる環境から、一筋縄ではいかない、手強い車種が持ち込まれることも多い。