取材協力/アールズギア  取材・文/淺倉恵介  写真/木村圭吾  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2015年8月26日

高性能であることはもちろん、美術工芸品的な仕上げの美しさでも知られているアフターパーツメーカーのアールズギア。そのアールズギアの、主力パーツといえるマフラーのトップグレードであるワイバンに、ヤマハMT-09&トレーサー用のフルエキゾーストが新たにラインナップ。2台のマシンにワイバンを装着し実走インプレッション、その魅力に迫る。

FEATURES

マシンの個性はそのままに全域パワーアップ
自由自在の走りには驚きの秘密があった

元GP500ライダーにして、腕利きのマフラー職人である樋渡 治さんが率いるアールズギア。同社製マフラーのトップグレードに位置するワイバンに、大人気のスポーツネイキッドMT-09と、スポーツツアラーMT-09トレーサー用のフルエキゾーストマフラーが、新たにラインナップに加わった。その名はワイバン・リアルスペック。ワイバンは全域でのパワーアップ&トルクアップがセールスポイント。速く、乗りやすく、楽しいという三拍子揃った、欲張りな性能のマフラーだ。

 

MT-09とトレーサーは、兄弟車でありながらかなり性格が異なるマシン。その2台のマシンに対し、どう味付けして仕上げたマフラーなのか? 大きな期待と興味を抱いて試乗に望んだ。まずはMT-09のインプレッション、発進から4,000回転付近まではとても従順、これがあの暴れ馬のMT-09なのか? と首を傾げるほどだ。だが、それはあくまで意識せず“普通”にスロットル操作をしている場合のこと。スロットルをガバッと開けてやると、エンジンは即座にレスポンスし、モノ凄い勢いで加速を始める。だが、その加速感に唐突さが無い。スロットルを開ける早さに合わせてレスポンスし、開けた分だけ速度が乗る。つまり、ライダーが欲しいだけのパワーが、スロットルの動きに連動して発生する。なんともリニア、驚異的にスムーズだ。パワーカーブ自体はフラットなはずだ、だがレスポンスの良さとトルク感が半端ではないのだ。

 

スリリングな乗り味はMT-09の大きな魅力。だが、ワイバン・リアルスペックを装着して走ってしまうと、ノーマルマフラーは躾がなっていないと感じてしまう。それほどワイバンは自由自在にパワーを引き出せるのだ。どうして、これほど乗りやすく、かつパワフルなのか? その秘密を樋渡さんに訊ねてみた。

 

「ノーマルマフラーには、アイドリングから少し上の領域にパワーの谷があるんです。そこから先のトルクの立ち上がりが急激なので、刺激的ではありますが繋がりの悪さを生み出しています。低回転域でギクシャクしやすいのも、そのせいです。ワイバンは、そのトルクの谷を消してフラットなパワー特性を持たせています。もちろん、パワーは全域で上乗せしています」

 

アールズギア代表 樋渡 治さん

全日本GP250クラスを経て、GP500クラスで活躍。スズキワークスチーム所属時代には500ccワークスマシンRGV-Γのマシン開発も担当。1998年にアールズギアを設立。高性能マフラー「ワイバン」をはじめ、数々の高品質なスペシャルパーツを送り出している。

MT-09の高回転域は、とにかくパワフル。慣れないうちは、低速ギヤでのワイドオープンは勧められないほど。

それだけで、と言うのは簡単だが、ここまで仕上げるには幾度となくトライ&エラーが繰り返されたに違いない。さすがワイバン、これがワイバンと言うべきマフラーだ。

 

次にトレーサーに乗り換えると、これまたイイ! スムーズで乗り手を急かさないパワー特性は、ツアラーたるトレーサーに相応しい。それでいて、スロットルを開ければ開けただけ加速してくれる。レスポンスは控えめだが、けっして鈍いわけではない。回転上昇に合わせてキレイに車速が乗り、速いのだけれど唐突さは皆無。トレーサーのジェントルな乗り味はそのままなのだが、速さと操る楽しさは確実に一枚上手だ。Aモード、Bモードも試してみたのだが、正直なところワイバンを装着すればBモードは不要だと感じた。STDモードのままで、何のストレスも感じない。Aモードは、是非味わって欲しい乗り味。全域でレスポンスが増し、よりキビキビと走れるのでアグレッシブに走るのがなんとも快感! ツーリングの途中でワインディングに出会ったら、Aモードに切り替えて思い切りスポーツライディングを楽しみたい。そんなキャラクターなのだ。

 

2台のマシンを乗り比べ、それぞれのマシンに合った作り分けの見事さに驚いた。そう樋渡さんに伝えたところ、驚きの言葉が返ってきた。

 

「この2台に取り付けているワイバン・リアルスペックは全く同じマフラーなんです。実際にMT-09 & トレーサーの共用品として販売していますから」

 

なんと、MT-09 & トレーサー用のワイバン・リアルスペックは、1本で2車種に対応するマフラーなのだ。MT-09からトレーサーに乗り換えた場合でも、マフラーはそのまま使用できるし、逆の場合も当然使用可能というわけだ。それにしても2台の乗り味の違いには驚かされた。全く同じマフラーを装着していたとは、にわかには信じ難いほどだった。確かに、MT-09とトレーサーは、基本設計の多くを共有する兄弟車ではある。物理的に両方のマシンに装着可能にすることは、難しくはないかもしれない。だが、大きく異なる走りのキャラクターの違いを内包したまま、どちらのマシンに装着しても速く楽しいマフラーを作り上げることは、どれほど困難かは想像するに難くない。しかも両車共に車検対応、アールズギアの技術力恐るべしである。

トレーサーは、全域でフラットなトルク特性が好印象。乗り手を疲れさせないパワーフィーリングだ。

PICKUP PRODUCTS

所有感を満たす美しい仕上げは
まさにトップオブ・ザ・マフラー

2車種に装着可能としている構造は実にシンプル。一次サイレンサーの出口とテールパイプがジョイントする部分に90度の角度が付けられているため、テールパイプを回転させるだけでサイレンサーの角度は自由自在に設定可能なのだ。サイレンサーステーはMT-09用のアップマウント用、トレーサー用のセミアップマウント用、トレーサーに純正パニアケースを装着した時用のスタンダードマウント用の3種類が同梱されているので、3タイプのサイレンサー角度を自由に選ぶことができる。MT-09とトレーサー、両モデルに対して政府認証を取得しているので車検も安心だ。

WYVERN REAL SPEC Single Type MT09/MT-09 TRACER 価格/19万3000円(チタン)/19万8000円(ドラッグブルー) 政府認証マフラー/車検対応/JMCA認定品 ※写真はドラッグブルーサイレンサー仕様 価格はいずれも税抜き

フルチタン製で超軽量。装着状態でオイル/オイルフィルター交換可能。トレーサーはセンタースタンドと純正パニアケースが装着可能。※写真はチタンサイレンサー仕様

同じアングルでサイレンサーの角度を比較。こちらはトレーサーに、純正パニア対応ステーで取り付けた状態

こちらはMT-09に、専用ステーを使用して装着した状態。テールアップスタイルが、MT-09のスポーティなイメージを強調する

トレーサーで、純正パニアケースを使用する場合でも、ケースとサイレンサーの間には十分なクリアランスが確保されている

サイレンサーとタンデムステップステーを繋いでいる、マフラーステーを交換することでサイレンサーの角度を変更できる

エキゾーストパイプは超軽量なチタン製、虹色に輝く焼け色が美しい。バイパスパイプはスタイルにこだわり、3本のヘダーズパイプを一直線に繋ぐ。バイパスパイプを同一線上に置いて、性能を確保するのは難しい作業だったとのこと

エンジン下に一次サイレンサーを設け、十分な消音性能を確保している。キャタライザーを内蔵しており、排気ガス規制に対応する

トレーサーに標準装備するセンタースタンドにも対応。何かと便利なセンタースタンドなので、制約無しに使用可能なのは嬉しい

10サイレンサーは新型の「リアルスペックシリーズ」を採用。チタン製の異径ひし形断面を持つテーパードシェルは、コンパクトでスリムなMT09とトレーサーのスタイリングに見事にマッチ。写真はドラッグブルー仕様

11テールエンドはドライカーボン製。エッジの効いた個性的なフォルムは、カスタムフリークの心をくすぐる。写真はチタン仕様

12MT-07用マフラーも、ワイバン・リアルスペックとして発売が決定。8月末には発売開始予定とのことなので、オーナーは期待して待っていて欲しい。もちろん、超軽量なフルチタン製で、政府認証とJMCA認定を取得した車検対応品だ。価格は検討中とのことだが、当然MT-09/トレーサーよりは安価になるとのことだ。

13複雑なカーブを描くヘダーズパイプは、惚れ惚れとする美しさ。もちろんルックスだけでなく性能面にも抜かりはない。全域パワーアップで、速さと乗りやすさを兼ね備えたマフラーだ

BRAND INFORMATION

アールズギア

住所/三重県亀山市のぼの62-9
TEL/0595-85-8778

ワイバンに代表される高性能マフラーをはじめ、抜群の居住性を誇るシートのワイバン・コンフォート、ツーリングを快適にするアクティブ・コンフォートシリーズなど、数多くの高性能パーツをラインナップ。そのどれもが質感と品質に優れ、ユーザーの所有感を満たしてくれる逸品揃いだ。本物を求める、成熟した大人のライダーが選ぶパーツ、それがアールズギアのプロダクトなのだ。