プロが解説!絶版車を救うキャブリペアパーツ キースター「燃調キット」の実力
取材協力/岸田精密工業株式会社AREA  取材・文・写真/モリヤン  構成/バイクブロス・マガジンズ編集部
掲載日/2015年02月25日

経年劣化の激しいキャブレターの内部を徹底的にリペアするキットが、岸田精密工業製のキースター「燃調キット」である。その内容は、メインジェットやスロージェットだけに留まらず、ニードル系やフロートバルブなども含む細かい内容で、対応車種は500にも及ぶという。今回は、リペアを実施しているショップからの生の声をお届けしよう。

カワサキのZやスズキの刀を再生させる「AREA」

避けては通れないキャブレターパーツの経年劣化

お邪魔したショップは、東大阪市長田町にあるエリア。1994年のオープンからずっとカワサキのZシリーズやスズキの刀という人気絶版車を扱い続けているスペシャルショップである。店長の竹本さんはオープンから5年後にメカニックとして入社。以降様々な国産絶版車を扱い、数多くの旧車を再生させてきた人である。その竹本さんが最も苦労してきた作業が、キャブレターのリペアだった。

 

「Zも刀も、以前は普通の中古車として扱えるバイクだったんですよ。基本的に仕入れはアメリカからが多いですが、人気車種だから、パーツも他のモデルに比べればずっと長く作り続けられていましたからね。でもだんだんと事情が変わってきた。メーカー欠品が増えてくると、やはり完全な再生は難しくなります」

 

キャブレターの経年劣化は、その扱い方にも大きく左右される。車両放置が長かったものは、まずキャブの内部は全滅。また派手に乗られていたバイクも細かいパーツの減りが顕著で、そのままクリーニングしても使えない場合が多いというのだ。

 

以前の竹本さんはその対策として、手に入りにくいジェットニードルやニードルジェットなどを単品製作してもらうことで対応してきたという。キャブ再生を完璧に行わなければ、好調な旧車として蘇らせることは絶対に不可能なのだ。

 

 

AREAの店長として7年目となる竹本貴裕さん。高校卒業と同時に同店のメカニックとして腕を磨いた人である。AREAは、基本的にZと刀をメインに扱うスペシャルショップ。現在、スタッフは3人でフル稼働中。

キャブレターパーツそれぞれの役割を知る

キャブレターは、燃料(ガソリン)と空気の混合気をエンジン内に送り込む気化器であり、本体はアルミ製が一般的で、内部を構成するのは、まず燃料をフロート室に供給するためのフロートバルブとそのホルダー。フロート。そして、アクセル全開時の燃調を左右するメインジェット。低速域の燃料を噴出させるスロージェット。その中間域の混合気を作り出す、ジェットニードルと呼ばれる針とその受けであるニードルジェット。ジェットニードルホルダー。そしてアイドリング時の混合気を調整するためのエアースクリューやミクスチュアスクリュー。アクセルの開度を調節するスロットルバルブ。冷間時の始動に必要なチョークバルブやスターターバルブ。基本的な構成パーツはこんなところで、高性能なキャブレターには、エアージェットや加速ポンプなども追加される。そのどれもが繊細なパーツであり、徐々に劣化する運命であるのはしかたがないことでもあるのだ。

キースター「燃調キット」の特徴は、劣化するであろう各パーツのリペアだけでなく、混合気の割合を、ノーマル中心に上下できる燃調システムとなっていることが大きなメリットである。メインジェットやスロージェット、ジェットニードルも選んで使用できるのだ。

新旧チェック!

新品との比較で分かる、キャブレターパーツの劣化

キャブレター内部のパーツは、どれもみな本当に小さく繊細なものばかりである。そのほとんどがガソリンの通路であり、空気と混合されて霧吹きの状態でエンジン内部に運ばれる。アクセルの開度とぴったり連動したキャブレターの性能を維持するためには、そのすべてがクリーンな状態で機能していることが大きな条件なのだ。

摩耗が顕著なジェットニードルホルダー

アクセルの中間域に最も影響のある部分の減りや痩せはやはり顕著である。メインジェットを通過したガソリンは、ジェットニードルホルダー(①・②)を経て、その上にあるニードルジェット(③・④)から霧状になってエンジン内部に空気と共に吸い込まれる。そのニードルジェットの真ん中には針状のジェットニードル(⑤・⑥)が差し込まれていて、アクセルの開度に応じて上下しているが、その部分の凄まじい混合気の流速により、徐々にお互いが摩耗してしまう。

 

ニードルジェットの磨耗は、主に穴の部分が楕円状に変形していくことが多い。同時に、ニードルジェットに差し込まれたニードルも痩せていくことで、ニードルジェットとニードルのクリアランスが乱れ、混合気が濃い状態になってしまうのだ。

 

アイドリング回転域や全開域では問題がないのに、走行中のアクセリングや加速状態でエンジンの回転上昇にスムーズさがない、いわゆる「ツキが悪い」状態は、このジェットニードルホルダー・ニードルジェット・ジェットニードルの部分の磨耗によって生じた混合気が濃い症状が原因のことが大半だ。

 

汚れやキズが顕著で、明らかな劣化が見られる場合は、ジェットニードルとニードルジェット、ジェットニードルホルダーもセットで交換しないと本来の性能は発揮できない。日常走行で最も働いているパーツであるだけに、この部分のリペアは大きな効果が期待できるのだ。

メインジェットやスロージェットも経年変化する

アクセルの開度に応じて実際に稼働することで痩せていってしまうジェットニードルやニードルジェットに比べると、変化の度合いが少ないはずのメインジェットやスロージェットの劣化原因は、やはりバイクそのものの保管状態によることが大きい。ガソリンは放っておけば品質に変化が及び、放置が長くなると燃料としての性質をどんどん失っていく。すると小さな穴の開けられたジェットは、変質したガソリンのアカで詰まってしまうのだ。ガソリンタンク内の環境もジェットの劣化に大きな影響を及ぼす。水分の混入やタンク内のサビ、ゴミといった異物がジェットの穴を傷つけたり塞いだりしてしまうのだ。すると、同じ番手のジェットでも、正確な燃料を供給できなくなり、エンジン不調を起こす。特にスロージェットの穴などは極細なので、詰まってしまう時期は早い。メインジェットも古いものはその正確性に不具合を生じて、エンジン不調の大きな原因になってしまうのだ。

広がるキースター「燃調キット」の世界

国内生産の高品質と信頼性、そして多彩なバリエーションがキースター「燃調キット」の魅力

岸田精密工業の営業部長である藤原広基さん。キースター「燃調キット」の魅力はやはり単なるリペアキットではなく、燃調キットであることだと語る。以前は、ジェット類が生産の中心だったが、金型やマシンニングを導入して、ゴム製のOリングやガスケットの生産にも力を入れているということである。

キースター「燃調キット」を製造する岸田精密工業は1941年創業。一貫してキャブレター内部のパーツを製造販売してきた実績を持つ会社である。元々はクルマがメインのキャブレターパーツメーカーで、そのほとんどを輸出していた。クルマ用のリペアパーツとしての実績も長く、このキースターは初めて国産絶版車への対応パーツとして開発されたものである。

 

営業部長の藤原さんは、求められる車種への対応は今後もどんどんと増やしていく方針であると話してくれた。現在の対応は500車種に及ぶが、今後も増えていく行く予定ということなのだ。

 

「現在は70年代から80年代のモデルが中心ですが、そろそろ90年代の国産車も対応させる時期だと考えています。もちろん人気のあるモデルが中心ですが、マイナーモデルへの対応もできるだけしたいと考えています」

取材協力店

AREA

大阪府東大阪市長田3-9-11
TEL/06-6785-3796

創業は1994年。オープン当時からカワサキのZシリーズとスズキの刀を得意とするスペシャルショップとして活動。完全オリジナルのオーバーホールからフルカスタムまで、柔軟性のあるリペアショップとしてノウハウを積み上げている。車種に拘るのは、徹底的に得意分野を極めていきたいという骨のあるショップである。

BRAND INFORMATION

岸田精密工業株式会社

兵庫県尼崎市元浜町4-85-1
TEL/06-6411-4001

創業は1941年。70年以上に渡りキャブレターの内部パーツを作り続けているが、従来はクルマ用の輸出パーツがメインだった。バイク用のキースター「燃調キット」を販売開始したのは2010年から。多くの旧車愛好家からの声に答える形として、燃調のできるリペアパーツとして100モデルを発表。その数は現在5倍に増えて、500モデル分を生産している。