【スズキ GSX-8R 試乗記】心地よさをもたらすカギは人間味の強さだ

掲載日:2024年05月02日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文・写真/小松 男

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SUZUKI GSX-8R

待望のフルカウルスポーツモデル、「GSX-8R」がついに登場した。軽量コンパクトなボディワークと扱いやすくもエキサイティングなキャラクターはミドルスポーツバイクの新たな指標となる高い完成度を誇る。

マーケットで求められているものを
しっかりと落とし込んだパッケージ

2024年1月、スズキから新たなフルカウルスポーツバイク、GSX-8Rが発売された。アンダーリッターのいわゆるミドルクラスに位置づけられるモデルであり、このセグメントは戦国時代と呼べるほど数多くのライバルが存在する。だからこそ他車と比較検討された上で選ばれる存在とならなくてはならず、失敗は許されない。

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そのような中、開発陣がこだわり注力したのは、進化したスズキスポーツバイクを表現するスタイリング、スポーツ性及びツーリング性の向上、”走る、曲がる、止まる”という基本性能の追求とその性能を最大限に活かす電子制御という3点だった。

これらを要約すると、GSX-8Rはカッコ良く、どんなステージでも楽しめる高性能スポーツモデルということだ。実はこれは現在のマーケットに求められているものが強く反映されている。ひと昔前のスポーツバイクは、とにかくスペックと速さが求められていたのだが、もはやスピードなどは二の次であるということなのだ。

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だからGSX-R600の新型ではなく、新たなミドルクラススポーツを担うためにGSX-8Rが誕生したのである。80年代、90年代のフルカウルスポーツ、いわゆるレーサーレプリカ時代を知る我々世代は「4気筒ではなく、なぜ2気筒なんだ!?」と口から出てしまうこともあるかもしれない(当時からツインのフルカウルモデルはあったが)。しかしそれは実際に乗ってみることで見えてくる真実もあるのではないだろうかと思いつつ、GSX-8Rのテストインプレッションをお送りしていきたい。

スズキ GSX-8R 特徴

過剰ではないところに
親しみやすさを感じさせる

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まずはGSX-8Rが登場するまでの流れをおさらいしていこう。GSX-8Rに搭載される新型パラレルツインエンジンと同様のエンジンを採用した兄弟モデル、Vストローム800DEとGSX-8Sが発表されたのは今から一昨年前の2022年11月のEICMA(ミラノショー)だった。それから約4か月後の昨年3月に両車の国内販売が開始(その後10月にVストローム800が追加される)。当時からフルカウルモデルの追加は噂されており、昨年のEICMAに合わせてGSX-8Rは発表された。それから間もなく、今年1月に国内販売が始まった。

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以前はフルカウルモデルが登場し、その後カウルレスのストリートファイターモデルが追加されるという流れが主流だったが、最近ではその逆でネイキッド(8S)を先行させフルカウル(8R)を追加するのがトレンドとなっているように思える。そして海外ブランドのみならず、国内メーカーでさえ日本市場よりも先に欧州やアジア圏のマーケットで先行販売する傾向がある昨今、発表から登場までスピーディに進めてくるあたりは、スズキというメーカーの良心が感じられるところだ。

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さて、そんなGSX-8Rだが先述したようにエンジンはVストローム800DEとGSX-8Sと共通の新型パラレルツインエンジンが使われている。このエンジンは270°位相クランクとされ、2軸1次バランサー「スズキクロスバランサー」を採用している。これは1次振動と偶力振動を抑えるふたつのバランサーを内蔵しているのだが、通常2バランサーだと180°位相クランクとすることがほとんどだ。

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”Vツインのような力強いトラクションを得て、心地よい鼓動感を残しつつ不快な振動を防ぎ、しかもコンパクトに収める”、これが狙いなのだ。私はVストローム800DEで初めてこのエンジンに触れたのだが、その時の印象がとても良かった。そしてフルカウルモデルの登場を心待ちにしていたのだ。それではGSX-8Rに実際に乗り、得た感触をお伝えしていこう。

スズキ GSX-8R 試乗インプレッション

意のままに操ることができてしまう
スズキがこだわった「人機一体感」

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スズキが開催したメディア向け製品説明会やモーターサイクルショー会場で見た時も感じたのだが、GSX-8Rは400ccクラスかと思うほどかなりコンパクトだ。車重も205キロと軽い。だから取り回しも容易である。シート高は810mmだが軽量コンパクトな車体なので足つきに不安がある方でも、乗ってみると意外にいけるはずだ。

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スズキイージースタートシステムによりワンプッシュでエンジンを始動させると、やや低めのパラレルツインサウンドが響き渡る。タッチの軽いクラッチレバーを操作し発進する。振動は無いのに鼓動感はある。これがこのエンジンのキャラクターだ。270°位相クランクであることに加えてボア・ストロークは84×70mmと、長めのストローク量としていることが大きな要因であり、だから低回転域でのパンチ力がある。

セパレートハンドルではあるが、トップブリッジの上にセットされていることもあるので、さほど前傾はきつくない。だから街中やワインディングでは車体を振り回しやすく、ロングツーリングにおいては疲れにくい。レバー操作なしでアップ/ダウン双方向のシフトチェンジを行えるクイックシフトシステムを装備しているのだが、シフトチェンジはクラッチレバーを操作して行いたいと言うライダーの要望にも応え、システムをオフにすることもできる上、クイックシフトシステム作動時でもあえてシフトフィールを固めにセッティングしている。

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なお、GSX-8Sとの違いはカウル、ハンドルだけでなく、前後のサスペンションがKYBからSHOWAに変更されている。両者のキャラクターの方向性を考えた上での適正化として変更しているということである。

ストリートでの扱いやすさをしっかりと確かめた後、高速道路へとステージを移した。ライディングモードはA、B、Cと用意されており、Aが最もハードなスポーツ志向となっている。大排気量モデルを年中乗り回している私のような立場では、ひっくり返るような強烈さとまでは書かないが、それでもパラレルツインエンジンでありながら7000回転から上の伸びは結構なものであり、もしオーナーになっても乗り慣れるまでは、やや優し目の味付けがされたBモードにセットしておくと良いだろう。それと電子制御スロットルでありながらも全閉状態からのチョイ開け時に過剰に反応するいわゆるドンツキを軽減するために、あえて機械的に遊びを持たせているということで、低速走行時のギクシャク感はない。 

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足まわりのセッティングは秀逸であり、交差点ひとつからフルバンクを楽しめ、延々と続くようなワインディングロードを走りたいと思わせるほど、自由自在、意のままに操ることができる。だから家に戻り、バイクを降りても、またすぐに乗りたくなってしまう。もはやGSX-8Rには中毒性すら感じてしまう。

ただひとつ、気になった点を挙げるとするならば、わずかだがステップバーから振動が伝わってくる回転域がある。特殊なバランサー機構を用いて振動を軽減したエンジンだからこそ、むしろもったいないと思ってしまう部分であるが、それ以外は非の打ち所がない。

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最初の話に戻るが、昔からバイクに親しんできたようなライダーだと、ミドルクラスの国産フルカウルスポーツバイクというとWSS(スーパースポーツ世界選手権)に参戦していた600cc4気筒のレーサーレプリカを連想してしまうこともあるが、GSX-8Rを走らせると、あれほどスパルタンな乗り味が今の時代では求められてないということが分かる(年式やモデルにもよるが1000ccモデルと比べトルクが少なく、速く走らせるには技術が必要だった)。もちろんエキサイティングでないということではない。扱いやすく、気持ちいい、なおかつスポーティでセーフティ、これらが凝縮されているのである。

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GSX-8Rは毎日楽しく乗れて、週末はロングツーリング、時々サーキット走行も楽しむ。そんな欲張りな使い方ができる一台に仕上がっている。これならば普通自動二輪クラスからのステップアップだけでなく、リッタースポーツからのステップダウンを考えているライダーにもお薦めしたい。

スズキ GSX-8R 詳細写真

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排気量775ccDOHC4バルブ並列2気筒エンジンを搭載。スズキクロスバランサーを採用しておりツインエンジン特有の力強いトルク感をそのままに振動を軽減している。現在アドベンチャーモデル、ロードモデル合わせ4機種目の採用となる。

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SHOWA製SFF-BP(セパレート・ファンクション・フォーク-ビッグ・ピストン)に120/70ZR17サイズのタイヤをセット。ブレーキはダブルディスクにニッシンのラジアルマウントキャリパーを組み合わせている。良く動く足という印象。

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剛性力と強度を備えた両持ちのアルミスイングアームを採用し、180/55ZR17サイズのリアタイヤを合わせている。スタンダードタイヤはグリップ力とライフのバランスに定評があるダンロップのスポーツマックス ロードスポーツ2。

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2into1レイアウトのエキゾーストシステムを採用しており、サイレンサー部分は極端に短くスポーティな印象。国内の規制が欧州レギュレーションに沿うようになり、かなり攻めたデザインが可能になった。

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センター縦置きとしたヘッドライトと、その左右のインテークホールの組み合わせに、スズキ・GSX-RシリーズのDNAをしっかりと受け継いでいることが伝わってくるフロントマスク。スクリーンの防風性能は高く、ヘッドライトの照射角は広く明るい。

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シート高は810mmで、兄弟モデルのGSX-8Sと同数値。車体そのものがコンパクトでスリムなので足つき性は悪くない。タンデムシートを取り外すキーシリンダーが上面についている点は、雨水などで内部が腐食しないか気になる。

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テールランプはカウルの後端ではなく、そこから延長したステー(フェンダー部)にセットされている。コンパクトでスポーティなリアビューをもたらすとともに、後方からの視認性も高い。

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5インチカラーTFT液晶ディスプレイは、ライダーに様々なインフォメーションを伝える。なお回転計はシフトタイミングを知らせるインジケーター機能も備えており、4000~9000回転で250回転刻みで任意に設定することができる。

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スポーティなセパレートハンドルを採用。ただライディングポジション的にはさほどきついものではなく、むしろ車体を抑え込んで操るのに具合の良い位置に備わっている印象を受けた。スイッチボックスの操作も直感的に行うことができた。

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クラッチレバーやスロットル操作をせずともシフトアップ/ダウンが可能な双方向クイックシフトシステムを標準装備。システムをオフにすることができることや、あえて硬めのシフトフィールとするなど、操作性にもこだわった。

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燃料タンク容量は14リットル。エアクリーナーボックスをシート下にレイアウトすることで、たっぷりとした容量を確保している。フロントカウルから流れるようなレイヤードデザインが効いている。

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リアサスペンションはプリロード調整機構を備えたモノショックをリンクを介してスイングアームにセットしている。トラクションやタイヤと路面の接地状況などのインフォメーションが良く、バンクさせることが気持ちいい。

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パッセンジャーシート裏には最小限の車載工具が備わっている。ユーティリティスペースはそこそこの容量があり、ETC車載器+書類程度は問題なく収めることができそうだ。

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