ホンダ VF400F(1982)

掲載日:2014年02月19日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

HONDA VF400F(1982)
楕円ピストンNRの技術還元で生まれたV4は、直4のホンダと呼ばれた自らへの
新たな挑戦でもあった。その先駆者がVF400Fだ。

世界初の中型V4スポーツ

ありそうでなかったもの、というのは世の中には色々とあるが、今回ご紹介するVF400Fもその典型的なバイク。その最大の特徴といえば、ミドル車クラスとして世界初となる水冷V4エンジンを搭載したことだ。

ホンダが’70年代末期に楕円ピストンのレーシングマシンで世界GPに復帰して、’80年代に入ると、その技術還元として市販車にもV4技術を次々と投入していった。それはライバルたちが並列4気筒モデルを投入してきたことへの対抗措置であり、本流の4気筒モデルでの充実を図りながら、4ストのホンダとしては新しい路線を打ち出して、他社との差別化を図りたかったためだ。

ことの背景はともかく、V4は基本的に直4よりもクランク幅が狭くできるのでバンク角の確保が一般的に行いやすい。しかし、エンジンの前後長が長くなりやすいことと吸排気系の取り回しが複雑になりやすいという、デメリットもあった。

デザイン的にも当時人気のCBX400Fとは別のテイストを打ち出すための、試行錯誤に直面することになる。保守的なデザインを好むファンにはCBXを、そして新しいスタイルを求める人にはエンジンも含めてVF400Fを、というホンダからの提案であったと解釈していい。その背景には国内バイク市場が活性化していて、積極的に新規モデル投入がやりやすかった市場背景もある。

エンジンサウンドも直4とはまったく異なる世界があった。官能的な響きの直4に対して、野太く荒々しいサウンドと鼓動がVFで楽しめた。しかも、エンジン特性も異なっていた。ホンダといえばアイドル回転付近からトルクが充実している上になかなかエンストしない粘りが魅力であったが、VFはホンダ流を保ちながら、中速回転域での充実したトルクが実感しやすかった。

面白いことにVFは後にVFR400R、VFR400R(プロアーム)、RVFへと進化していくが、55×42mmのボア・ストロークはそのままであり、実はCBX400Fの直4系も同じボア・ストロークを採用していた。しかもギヤレシオも同じ、というおまけ付き。

同じ会社の同じボア・ストロークのバイクで、エンジン形状の違いによるクランク角と吸排気レイアウトの差をメインに、乗り味の違いが同時に楽しめるという、希なケースであったともいえる。

当時のホンダの調査によると、CBXなどの直4系はスタイルやムード優先。対するV4系は性能優先のパフォーマンス重視型が多いと分析していたそうだ。

ともあれ、エンジンデータの同スペック以外にも共通点があった。分かりやすいところでは、インボードディスク式ブレーキシステムとブーメラン型コムスターホイールの採用が筆頭に挙げられる。前輪16インチ、後輪18インチとアンチノーズダイブメカとプロリンク式のリヤサスも当時のホンダの定番メニューとして採用されていた。

ビキニカウルはVT250Fと同じくハンドルマウント。ちなみに、カウルの認可が下りなくてメーターバイザーという申請で認可を得たとも言われ、オイルクーラーもオイルリザーバータンクという表現で認可をパス。その後にカウル先端が前輪軸より前へ出ても大丈夫になるなど、数多くの規制がデザインや技術進化を阻んでいたというように、今では信じられないことがたくさんある。

さらにクルマの例で言えば、ドアミラーの解禁が、その典型といえるだろう。なにせ、それまではフェンダーミラーだけだったのだからデザインは台なしだった。

ともあれ、この頃のホンダは縦置きクランクを持つGL400系の後継車CXユーロ、CXカスタム、横置きクランクのNV400SP、NV400カスタム、そして本命のVF400Fにはフルカウル装備のVF400Fインテグラ。そして直4系ではCBX400F、CBR400F、CBX400Fインテグラ、CBX400カスタム、さらに単気筒のFT400と400だけで5機種のエンジンと11機種という超ワイドバリエーションを誇っていた。

過去のそんな栄華を羨んでも仕方がないことだが、バイクファンとしては豊富なバリエーションがあれば、選ぶこと自体が楽しい。バイクの数だけ、走る味わいが違う、というのは真実であり続けるのだから。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

基本フォルムは、ほぼ同じ時期に登場した4スト250ccの革命児・VT250Fの流れを汲む。リッターあたり130馬力を超えるパフォーマンスはスペックだけではなく、実際に乗れば直4にはないトルクの太さを実感。ホンダ社内では直4とV4派が、良い意味で完成度を競い合っていたとも言われる。VFはレーシーなVFR系スタイルになって一気にレーサーレプリカ時代のヒーローになった

フルカウルが認可された’80年代初頭。ホンダは各クラスにインテグラの名を用意して、シリーズの充実強化を図った。理論上1次振動ゼロという滑らかな回転フィールと、V4エンジンの鼓動の共存がたまらなく魅力的だった。ただし、当時は直4の強さが圧倒的でデビューしたてのVF400Fの人気は高くはなかった

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