Wheelie / 750SS(H2) カスタム写真
Wheelie / 750SS(H2) カスタム写真

カワサキ 750SS(H2)

掲載日:2010年11月08日 プロが造るカスタム    

豪快で繊細なステージ=公道を走るためのバランスを考える

Wheelie / 750SS(H2) カスタム写真カスタムはメーカーが膨大なテストと試行錯誤を重ねた上に認可を取り、市販を行った車両に対して行う行為だ。だからメーカーの設定した万人向け、多彩なシチュエーション向けで完成しているバランスを、ある意味で崩す行為にもなる。“万人向け”の部分を個人個人に合わせ込んでいくという考えはもちろん間違いではない。それに、既にメーカーが市販を終了し、古くなったバイクをアップデートしたいという考えも湧いてくるだろう。ひとりひとりがバイクを作るには費用も期間も、発想も想像以上のモノが必要だ。そこに、カスタムの意義が出てくる。ただそのためにはやはりその個人(ライダー)、あるいは作り手がきちんとしたノウハウや、伝達能力=ライダー側の要求を正しく盛り込んでいくなど=を持つことが欠かせなくなってくる。また目的によってもその考えは多少変わる(公道とレースでもそうだ)から、カスタムによって何をするのかという目的も大事だ。それらを元のバイクにどうバランスさせていくか。これがカスタムの完成度に大きく関わるのだ。

 

この750SS(H2)は、宮崎県のウイリーが、1990年代初頭に手がけたカスタムだ。ウイリーは代表の富永さんがモトクロスライダーを経て興したショップで、1980年代中盤にはオリジナルアルミフレームの4ストエンデューロレーサーを製作、6時間EDでの優勝を飾ったり、1990年代に入るとアルムフレームによる公道走行認可取得車両を作ったり、オリジナル目の字断面アルミ材を主としたスイングアーム製作・販売を行ったりと、アルミを軸にしたフレーム/シャシー系パーツに関しては全国的に知られている。今では製作・開発が業務の大半で、カスタム車両作りはほとんど行っていないのだが、この車両は1972年生まれの750SSから、製作当時でさえ20年近くが経っていたのだから、そうした車体まわりの剛性や強度のバランスをどう考えてきたかということが分かる作例と言える。

 

フレーム自体も当時既にワンオフしても良かったとのことだったが、ここでは補強を各部に追加。STDの丸型鋼管スイングアームは、右側をへの字、左側をストレート形状+ブレースとしたガルウイングタイプスイングアームに変更。このアームは4mm厚の7N01アルミ材による自社製で、長さや垂れ角はSTDの寸法を踏襲する。さらにエンドピース、ショックマウントなど精度を要求されるパーツも、富永さんがきちんと寸法を取って強度が出されている。これは現在のウイリー製スイングアーム(主部材はウイリー特注、各ピースはNC削り出し)のルーツと行っていいだろう。そしてショックは、STDの不等ピッチスプリング式からオーリンズ製に換装した上で、プログレッシブ効果を狙ってレイダウン。作動性やリヤ全体の強度を考慮した位置に設定する。

 

一方、フロントにはフォルセラ・イタリア製GPφ42mmフォークが装着されるが、上下のフォークブラケットはワンオフで起こされてブロックでの剛性を上げるが、この考えも現在の同店製NC削り出しトリプルツリーにつながってくる。ホイールはSTDの1.85-19/2.15-18からマービック製前後18インチに換わり、サイズは前2.75/後3.00インチ。これはむやみにリム幅を広げず、軽量な車体の切れを生かすための設定とのことだ。

 

これに積まれるエンジンはファインチューニングにとどめられるが、スイングアーム形状に合わせて作られた“KEY-GAS-MAN”チャンバーが見逃せない。これはRSS原口製のワンオフ品で、高回転域重視のマッハに不足している低速トルクを稼ぎ、さらにバンク角も両立するという逸品で、車体同様に公道でのバランス感を重視している。

 

このようにオーナーの「走り、よく曲がり、止まる」という要望を、九州の豪快かつ繊細なワインディングロードを走るために高次元で叶えた背景は何だろうか。それはやはり、チューナーの基本に忠実な姿勢だと言えそうだ。外観の変化が大胆なため、そこに目を奪われがちだが、必要以上にしすぎないことも含めて、高いトータルバランスを持つこと。崩れたバランスを確実に再構築していく。そこが見た目からも分かるのではないだろうか。

ウイリー(Wheelie) 750SSの詳細写真は次のページにて

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