掲載日:2025年04月15日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
KAWASAKI KLX230SM
2000年代の初頭頃までは、各国内メーカーがオフロードマシンをベースに足回りをオンロード仕様にした、いわゆるモタードマシンをラインナップしていた。しかしそれ以降、オフロードタイプのマシン自体がカタログ落ちする中で、モタードマシンも次第に姿を消していった。カワサキも、2016年にD-TRACKER Xのファイナルエディションを発売して以降、しばらくの間モタードモデルは売られていなかった。その後復活したのは2023年、ベースとなったのはKLX230のローダウン仕様となるKLX230Sだ。カワサキでは“スーパーモト仕様”と呼ぶKLX230SMは、一時国内のラインナップから外れていたが、このほど細部をリファインし、2025年モデルが登場した。
エンジンやフレームなどはベースモデルと共通で、違いはKLX230Sが前21、後ろ18インチのホイールにオフロードタイヤを採用しているのに対し、前後17インチとしてオンロードタイヤを採用。シート高はKLX230Sより5mm低い840mmだ。ブレーキのディスク径も大型化し、フロントフォークは倒立式となっている。また、エンジンやフレーム、フロントフォークのアウターチューブやカバー、エキパイガード、ホイールリムなどをブラックアウトし、カワサキのイメージカラーであるライムグリーンを入れない落ち着いたカラーリングなど、トータルで精悍さを強調したスタイリングとなっている。
2023年モデルから変更された点は、FIのセッティング見直しによる低中回転域のパフォーマンス向上、キャスター角/トレール量の変更によるハンドリングの軽快性向上、ハンドルやステップ位置の見直しによる扱いやすさの向上、前後サスペンションのホイールトラベル量の最適化(F:204mm→188mm、R:168mm→223mm)、リヤサブフレーム(シートレール)の形状と位置の見直しでシート高を5mmダウンし、同時にウレタン厚を増加させて快適性もアップさせるなど、多岐にわたっている。また、液晶メーターにはスマートフォン接続機能がプラスされたほか、シュラウドやサイドカバー、ヘッドライトカバーなどのボディワークも変更されている。
ここへ来てスズキからもDR-Z4SMが登場するなど、国内メーカーが再びモタードモデルに力を注ぐ兆しが見え始めた。KLX230SMには、その先鋒としてぜひともモタード人気をけん引してもらいたい。
KLX230SMの外観はシュッとしてスリムで、いかにも俊敏そうに見える。戦闘的なイメージもあってカッコいいのだが、17インチのオンロードタイヤを履いていることと、シート高も高くはないので、オフロード車のような腰高感はない。押し歩きでの取り回しはもちろん、跨ってみてもスリムで軽めなので、初心者や体力に自信のないライダーでも扱いやすいだろう。
エンジンをかけると、250ccクラスの単気筒にしてはかなり野太く迫力のある排気音が響く。走り出してもそのサウンドは耳に届くので、流しているだけでも楽しくなってくる。走り自体も、低速からトルクフルで力強い加速を見せてくれるし、安定感もあるのですこぶる扱いやすい。それでいてハンドリングはとてもクイックなため、都市部の混雑した道路でも実用的で戦闘力が高い。細めの路地への曲がり角などでも気負うことなくスムーズに入って行けるため、通勤や通学で使ってもストレスのない走りが可能なはずだ。
郊外のちょっとしたワインディングでは、マシンを操る楽しさをさらに実感することができる。エンジンを回し気味にして軽い車体をヒラヒラとリーンアウト気味にバンクさせながらコーナーを駆け抜けるのは、ビッグバイクのパワーあふれる走りとは全く違う気持ちよさと爽快感がある。オンロード用にチューニングされ、ストローク量を204→188mmに変更されたフロントフォークは、ハードなブレーキングをしてもオフロードマシンのように過度に沈み込むことはなく、剛性感と安定性は高い。リヤサスの路面追従性もよく、オンロードタイヤを装着していることと相まって、安心して車体を振り回すことができるのだ。232ccの空冷単気筒エンジンが絞り出す最高出力は13kW(18PS)と高くはないが、その分スロットルを大胆に開けることができ、マシンの性能を使い切るという喜びと満足感が得られ、とにかく走らせて楽しい。
高速道路でも100km/hで安定して巡航できるし、車体バランスを考えれば(今回は乗り入れていないが)よっぽどガレた路面でなければダート走行もこなしてくれるだろう。そう考えると、通勤通学の足から峠道でのスポーティラン、ちょっとした林道走行やキャンプツーリングなど、さまざまな場面で活躍してくれる懐の深さを持っている。ハザードやABSキャンセル機能、ギアポジションインジケーターなどが省かれているのは惜しいものの、オーナーになればバイクの楽しみをグンと広げてくれる、オールマイティなマシンであることは間違いない。
ヘッドライトにはLEDを採用。カバーは新しくデザインされた。ウインカーはバルブタイプだ。
左側のハンドルスイッチはヘッドライト上下切り替え、ウインカー、ホーンとごく一般的なもの。ベースモデルにあるABSキャンセルスイッチは省かれている。
右側のハンドルスイッチはスターターボタンとキルスイッチのみ。高速を走れる車両なので、ぜひハザードは搭載してもらいたい。
時計や燃料計を備えた液晶ディスプレイメーターは、スマホと接続することで車両状態を確認できるよう進化した。スピード表示の右側はギアポジションと思いきや、バッテリーの電圧警告インジケーターとなっている。
空冷4ストローク単気筒232ccエンジンはフレームなどと共にブラックアウトされ、精悍な印象を強調している。
なだらかな傾斜を持つシートはウレタン厚が増やされ、座り心地が向上している。ポジションの自由度も高い。
左側サイドカバーの後ろ側にはコの字ピンタイプのヘルメットホルダーを装備している。
ステップとシフトペダルにはラバーを備えており、オンロードマシン風となっている。
ブレーキペダルの方はラバーを装着せず、ベースマシンと同様のオフロード仕様となっている。
リンク式のリヤショックはアジャスティングナットを回すことでプリロードの調整が可能だ。
フロントブレーキはセミフローティングシングルペタルディスクを採用。ディスク径は300mmとベースマシンより大型化されている。タイヤサイズは110/70-17M/C 54P。
リヤブレーキのディスク径は220mm。タイヤサイズは120/70-17M/C 58Pで、銘柄はIRCのRX-01だ。スイングアームは専用で、角断面のスチール製となっている。
マフラーは後端近くまでガードでカバーされており、サイドバッグを装着しても熱の影響は少なそうだ。
リヤの灯火類はスタンダードな雰囲気のデザイン。テール/ブレーキランプ、ウインカーともにバルブタイプとなっている。
テスターの身長は170cmで足は短め。KLX230SMのシート高は840mmで、片足、両足ともに母指球までしっかりと接地する。車両重量も137kgと軽めなので、立ちゴケなどの不安はなかった。
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