掲載日:2023年12月09日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
KTM 790DUKE
KTMのネイキッドバイク、DUKEシリーズは125、250、390、790、890、1290と原付2種から大型まで幅広いラインナップを展開しており、390以下のモデルは単気筒エンジン、790、890はパラレルツインエンジン、1290にはVツインエンジンを搭載している。今回ピックアップしている790は2017年に欧州で初登場、2020年に890DUKEが発売されたことで一度日本のラインナップから姿を消すも、2023モデルで再投入された。その間、大きなモデルチェンジは行われていなかったが、エンジンはブラッシュアップされており、さらにハイパフォーマンスなマシンへと進化を遂げている。
790DUKE最大の特徴はKTM初となるパラレルツイン、LC8cエンジンを搭載していることにある。790DUKEが登場する以前にラインナップされていた690DUKEは単気筒のLC4エンジンを採用していたが、ミドルレンジの最適解としてKTMが出した答えが、このLC8cエンジンだったというわけだ。DOHC4バルブを採用しており、最高出力77kW、最大トルク87Nmを実現している。2気筒でありながらエンジン自体のサイズはコンパクトにまとめられており、車体設計にも余裕が感じられる。
また、外見で強く目を引くのはリアフェンダーに沿うように跳ね上げられたサイレンサーだ。全体的にコンパクトで、先端に向かって細くなっており、非常にスタイリッシュ。また、新設計の排気バルブが内蔵されており、扱いやすいトルク特性にも貢献している。
「READY TO RACE」をコンセプトに掲げるKTMだが、790DUKEは初心者でも扱いやすく上級者も飽きさせず、フィールドに関してもツーリングからサーキット走行まで幅広く楽しめるマシンに仕上がっていると言えるだろう。
跨ってエンジンを始動し、その音を聞いた瞬間から、とにかく早くスロットルを開けたくなる。そんなバイクはなかなかない。走り出してみると案の定、スロットル操作に対するエンジンのレスポンスが恐ろしく良い。スロットルバルブの開閉をワイヤーではなく電子制御で行うスロットルバイワイヤを採用しているのだが、その味付けが絶妙なのだと感じた。
ライドモードが「スポーツ」「ストリート」「レイン」「トラック(オプション)」と用意されており、今回は基本スポーツモードで試乗していたのだが、高速道路に乗って「さぁ開けるぞ」と思っても6速だと3,750回転でもう100km/hに到達してしまい、120km/h制限の区間でも4,500回転までしか上がらない。移動時間を短縮するための手段として高速道路を使う場合には、6速で流して走れば疲れることなく目的地に到着できるだろう。
せっかくの試乗なので高回転域を堪能すべくギヤを落としてレブ域まで回してみたが、9,500回転までスロットルレスポンスは変わらず良好で、十分なパワーを感じることができた。
逆に低回転域の扱いやすさはというと、1,500〜2,000回転のアイドリング少し上あたり、ストップ&ゴーで多用する回転域ではドコドコドコ……といったまるで単気筒エンジンのような鼓動感で、エンストしそうな気配は皆無。マイルドとは言い難いが、クラッチ操作を誤ると飛んでいってしまいそうな暴力的な加速ではなく、都内からツーリングまで実にちょうど良いパワー感だ。
サスペンションはネイキッドバイクとしては前後ともに少し柔らかい印象を受けるが、よくあるブレーキング時の嫌なピッチングは起きにくく、コーナリングでは容易にバイクを寝かせて曲がっていくことができる。また、リアブレーキのタッチが繊細で、コーナリング中にも微調整に使いやすく、だからこそストレートでは遠慮なく突っ込むことができ、まるで自分のスキルが上達したかのような気分を味わうことができた。
また、車体がコンパクトなことにも好感を持った。まるで390ccかと思うくらいのサイズ感、かつ軽量な車体はステップ荷重でヒラヒラと切り返しができ、いつまでもワインディングを走っていたくなる。僕は年間何台ものバイクを試乗する機会があるのだが、これほど別れが惜しいと思ったバイクは、かつてなかった。