掲載日:2023年11月13日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/伊井 覚 写真/井上 演、伊井 覚
KAWASAKI Z900RS
2018年モデルとして初登場したZ900RSは、2023年モデルで排気ガス規制に対応する仕様変更はあったものの、大きなモデルチェンジのないまま継続販売されている人気モデルだ。Z1やZ2という名前を、今の若いライダーも聞いたことはあるだろう。それくらいカワサキのZシリーズは偉大な名車として日本のモーターサイクル史に色褪せない名を刻んでいる。そんなZの名を受け継ぐ最新モデルの一つであるZ900RSは、扱いやすいだけでなく実にスポーティなバイクだった。
ジャンルとしてはスポーツネイキッドということになるだろう。Z1のオマージュということで、レトロスポーツネイキッドなどと呼ばれることもある。しかしそんなクラシックな外見とは裏腹にLEDヘッドライトやABS、トラクションコントロールなど最新装備を備えており、まさにZの名を現代に受け継ぐに相応しい一台となっている。
搭載される948cc水冷4ストローク並列4気筒エンジンには、Z1の空冷エンジンに似せたシリンダーフィンも刻まれている。排気量の割に車体はコンパクトで扱いやすく、それでいて高回転まで回すとビッグバイクなりのパワーを発揮する。
現在は今回試乗したZ900RSのスタンダードモデルの他、ビキニカウルを装着したZ900RS CAFE、タンクにヘリテージな「KAWASAKI」エンブレムを配置した特別カラー仕様Z900RS Yellow Ball Edition、そしてフロントブレーキにブレンボを、リアショックにオーリンズを採用したZ900RS SEがラインナップしている。
一日しっかりZ900RSに乗ってみた素直な感想は「とにかくアクセルを開けるのが楽しい」というものだった。まず並列4気筒エンジンとマフラーが奏でる排気音が、とてつもなく気持ちいい。このサウンドを堪能したくてついついアクセルを回してしまう。かと言って決して音量が大きいわけではない。さらにエンジンも実に素直な回り方をするため、簡単に10,000回転付近まで回すことができるし、パワーバンドが広いためよくある一部回転域でのパワーの落ち込みなども感じない。低回転でのトルクには少し不足を感じるものの、それも都市部の渋滞時だけで、ツーリングやワインディングで乗る分には申し分ないものだった。重心バランスが良いのか、コーナリングでバイクを寝かし込む時も、安定感があり、不安を感じることもない。ハンドリングもニュートラルで、実に自然な乗り味を実現している。試乗中に「このバイクを教習車にすればいいのに」と思ったくらいだ。
クセのあるバイクは乗っていて面白い。それは確かにその通りなのだが、初めて乗ると乗りにくさを感じるし、それを受け入れられるまではなかなか自由に扱うことができない。その点、Z900RSはものすごくニュートラルで、誰でも自分のスキルに応じたスポーツライディングを楽しむことができるだろう。
そういったスポーツライディングが楽しめる一方、ツーリングでの利便性も高い。ポジションが実に素直で、ゆったりとした姿勢で流すこともできる。また、今回の試乗ではタンデムをする機会もあったのだが、パッセンジャーの重さも感じにくく、バランスを崩すこともなかった。シートには荷掛けフックも用意されているため、大きい荷物を積載したキャンプツーリングなどにも対応できるだろう。
スポーツライディングの時とツーリングの時、さらにはパッセンジャーや荷物を載せる時ではサスペンションに求める動きも微妙に変わってくるのだが、サスペンションにはプリロード、圧側、伸側のダンピング調整機能(リアショックは伸側のみ)が備わっているため、出先でも簡単にセッティングを変更することができる。標準セッティングだとちょっとした加速時やブレーキング時に少しフロントが柔らかい印象を受けたのだが、どんなスピードでコーナーに進入しても実に寝かしこみやすく、マシン自体のスポーツ特性の高さを感じた。
レトロな見た目で、おとなしいイメージが先行しがちなZ900RSだが、しっかりスポーツライディングを楽しみたいというライダーにもオススメできるマシンだと確信した一日だった。
レトロな雰囲気の丸型LEDヘッドライトを採用。レンズ内は6室に分割されており、4室がロービーム、2室がハイビーム時に点灯する。ハイビーム室にはポジションランプが内蔵されているため、ロービーム時でも全体が発光しているように見える。
クロームメッキ仕上げのハンドルバー。幅広でゆったりとしたポジションを実現させている。22.2mmのスタンダードな太さで、ハンドルアクセサリーを装着するのにも利便性が高い。ハンドル切れ角は左右それぞれ35°となっている。
往年のライダーにとっては懐かしいレトロスタイルのメーター。アナログ式のタコ/スピードメーターのバイクに乗ったのは久しぶりだったので、思わず嬉しくなってしまった。中央の液晶パネルにはギヤポジションや燃料計、走行距離などが表示される。
エンジンは水冷4ストローク並列4気筒の948cc。サブスロットルバルブを搭載することでスムーズかつ緻密なスロットルコントロールを実現しており、2次バランサーで振動を低減。心地よいエンジンフィーリングを感じることができる。最高出力は82kW(111PS)/8,500rpm。
4気筒エンジンの魅力といえば、エキパイの取り回しの芸術的な美しさ。Z900RSのエキパイはステンレス鋼をバフ仕上げし、まるで鏡のような美しさとなっている。また、サウンドチューニングを施すことで低く厚みのある排気音を実現している。
スイングアームはアルミ製で3.9kgという軽さ。コーナリングでの寝かし込みやすさや軽快なハンドリングなどに貢献している。見た目も特別感があって所有満足度が高い。
燃料タンク容量は17L。Z1を彷彿とさせるティアドロップ形状で、Z900RSのレトロスタイルの要とも言えるのが、このタンクだ。スリムでニーグリップがしやすく、スポーツライディングの妨げにもならない。
シートは一体式で、タックロール加工がレトロな雰囲気を作り上げているだけでなく、お尻のグリップを助けてくれる。上面と側面とで表皮に使用するレザーを変更しており、ダブルステッチで高級感を演出している。
リアシート周りの前後左右4箇所には荷掛けフックを装備しており、大きな荷物の積載時にも利便性が高い。また、純正アクセサリーとしてグラブバーも用意されている。
フロントサスペンションはφ41mmの倒立フォークを備えている。標準セッティングでもスポーツからツーリングまで様々な走りを快適にこなせるが、好みや体重、用途に合わせてプリロードと圧側/伸側ダンピングのセッティング変更が可能だ。
リアショックにはホリゾンタルバックリンクリヤサスペンションを採用。プリロードと伸側のダンピング調整が可能。マフラーから遠い位置にあることでオイルが熱の影響を受けにくくなっている。
フロントホイールは17インチでタイヤサイズは120/70ZR17M/C(58W)。ブレーキディスクは300mmのダブルディスクで、キャリパーには対向4ピストンラジアルマウントのモノブロックキャリパーを装備している。
リアホイールも17インチで、タイヤサイズは180/55ZR17M/C(73W)。ブレーキディスクサイズは250mm。前後ともスポークホイールに似せて専用に開発されたキャストホイールを採用している。
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