掲載日:2023年03月13日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
SUZUKI SV650X
1970年代後半から2000年代にかけて国産4メーカーで数多く採用されてきたVツインエンジンも、今やスズキでしか見ることができなくなった。SV650Xに搭載されている650ccエンジンも1998年に登場し、25年の歳月をかけて熟成を重ねてきたものだ。2022年には年々厳しくなる排出ガス規制に適合するためマイナーチェンジが施されたものの、650ccVツインならではの不等間隔爆発がもたらすサウンドと鼓動感は健在。それでいてスムーズな出力特性を備えており、「ついアクセルを開けたくなる」マシンに仕上がっていた。
高速道路では6速4800回転で100km/hに到達。敢えてギヤを下げて高回転域を使ってみると、最高出力の8500回転まで実にスムーズに回ることが確認できた。いわゆる「トルクの谷」のようなパワーダウンする瞬間もなく、気持ちよくスロットルが開けられる。ボア×ストロークは81.0×62.6mmということで、かなりショートストローク型、つまり高回転型のエンジンなので、気持ちよく回せることはとても大事な要素と言える。
さらにSV650XのTI-ISC内蔵スロットルボディにはローRPMアシスト機能が搭載されている。これはスタートする時のような極低回転使用時においてトルクを補ってくれる機能で、これが実に優秀だった。おかげでスタート時に半クラッチを多用したりすることもなく、渋滞時に車の流れに合わせてノロノロと進むのが苦痛ではなく、高回転型エンジンだとどうしても犠牲になりがちな低回転域をうまくフォローできていると感じた。
おかげでスタート時にクラッチをスパッと繋ぐのが苦手な僕でも、まるで加速中にシフトアップする時のような素早い操作で発進することができ、フロントタイヤが浮いているかのような(実際には1mmも浮いていないが)錯覚を味わうと共に、バイクに乗るのが上手くなった気分を味わうことができた。
正直なことを言うと、試乗するまで僕はこのバイクを少し侮っていた。アップハンドルを装備したネイキッドモデルのSV650をセパレートハンドルに変更し、ロケットカウル風のヘッドライトカバーを装着したSV650Xだけに、元から前傾姿勢を前提として設計されたスーパースポーツに比べると、ライディングフォームが取りづらいのではないか、と思っていたのだ。ところが実際に乗ってみると全くそんなことはなく、むしろ良い。特に前傾になった時のお尻の収まりが最高に良いのだ。まるでタンクからシートまでフルフラットになって、うつ伏せで寝ているかのような錯覚すら覚える。ぜひバックステップカスタムも試してみたい。
コーナリングについてだが、ハングオンでの高速コーナーがとても楽しい分、逆に低速で交差点を曲がる時などは少し不安定さを感じた。装備重量は199kgと排気量なりなのだが、ハンドル切角が狭いのと、前後長が長いVツインエンジンの前側シリンダーが張り出しているため、ハンドリングに重さが残ってしまうのかもしれない。
サスペンションについて言及すると、もう少し初動での吸収性が欲しいと感じた。「カフェレーサー風」という意味では正立フォークによるデザイン効果は大きいのだが、加速時の浮き上がりや路面の凹凸を拾った時などは少し硬さを感じてしまう場面があった。対して減速時の沈み込みはしっかり粘ってくれてブレーキの安定性はとても高い。フロントに290mmのダブルディスク、リアに240mmのシングルディスクを備えているため、特にフロントブレーキをかけた時の制動力は非常に高い。ブレーキがガツンと効いて、サスが動きすぎて嫌なピッチングがあるかとも思ったのだが、それもなく、ちょうど良い沈み込みでジワッと確実に制動力を発揮してくれた。
SV650XはネイキッドでありながらSSのようにスポーティにも乗れて、Vツインエンジンの高回転域を堪能することができるマシンだ。正面から見るとカフェレーサー、サイドから見るとネイキッドスポーツで、どこかクラシックな印象が残る実にオリジナリティに溢れたデザインのSV650Xは、現在の国内ラインナップでは唯一無二の存在と言えるのかもしれない。