掲載日:2023年03月09日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/中村 友彦 写真/富樫 秀明
HONDA CBR250RR
エッ、もうモデルチェンジするの? 2022年秋にホンダが第3世代のCBR250RRを公開したとき、僕はそう感じた。と言うのも、2017年に初代が登場した250ccパラレルツインのCBR-RRは、2020年に第2世代に進化したばかりなのである。市場でライバルとなる2台、カワサキ・ニンジャ250/RとヤマハYZF-R25が5年スパンで世代交代を行っていることを考えると(ニンジャ250/Rは、初代が2008年、第2世代が2013年、第3世代が2018年にデビュー。YZF-R25の第3世代はまだ存在しないが、初代は2014年、第2世代は2019年に登場)、このモデルはかなりのハイペースで進化しているのだ。
そういった時期的な事情に加えてもうひとつ、僕が“もう”と感じた背景には、既存のCBR250RRがすでに十分以上の運動性能を備えていたという理由もある。最高出力こそ並列4気筒のカワサキZX-25Rに及ばないものの、初代と第2世代のトータルでの運動性能は間違いなくクラストップで、事実、近年の全日本選手権JP250クラスは、ほぼCBR250RRワンメイクレースの様相を呈していた(その状況を打破するため、主催者は250ccツインという既存のレギュレーションに合致しない、ZX-25RやYZF-R3、KTM RC390、BMW G310Rの参戦を認可)。
まあでも、アジア選手権のAP250ではそこまでの優位は築けていないし、販売台数でライバル勢を圧倒しているわけでもない。そう考えるとCBR250RRの第3世代への進化は、ホンダにとっては“もう”ではないのだろう。
2023年型CBR250RRの主な特徴は、レイヤー構造を取り入れて形状を一新したフェアリング+テールカウル、シリンダーヘッドを中心とした改革で最高出力を41→42psに高めたエンジン、ギアレシオを全面刷新したミッション、新規導入のトラクションコントーロール(3段階調整式でオフも選択可能)とハザードランプ(エマージェンシーストップシグナルとしても機能)、SSFからSSF-BPにグレードアップしたフロントフォークなど。基本的なスタイルやフレームが変わってないため、門外漢にはわかりづらいかもしれないが、第3世代はマイナーチェンジというレベルでは収まらない変更を受けているのだ。
中でも僕が注目したいのはエンジン。ユーロ5に相当する厳しい平成32年排出ガス規制をクリアしながら馬力を落とさなかったこと、と言うか、1ps上げてきたことは賞賛に値するし、最高出力発生回転数が13000→13500rpmに上がったことも(ちなみに初代は12500rpm)、超高回転域を多用するサーキットでは嬉しい要素になるはずだ。いずれにしても同じエンジン形式を採用するライバル勢の最高出力と発生回転数、ニンジャ250:37ps/12500rpm、YZF-R25:35ps/12000rpmという数値を知れば、CBR250RRの戦闘力の高さが理解できるだろう。
サーキットで第2世代と勝負したら、確実に勝てるんじゃないか。今回の試乗の舞台はストリートだったものの、2023年型CBR250RRを初めて体験した僕は、素直にそう思った。その一番の理由はエンジンの伸びに磨きがかかっていることだが、SSF-BPのおかげでコーナー進入時の自由度が上がっていること、トラクションコントロールを信頼してフルバンク状態から思い切ってアクセルが開けられること、新作フェアリング+スクリーンの効果で走行風の抵抗が減っている……ように思えることも、第3世代ならではの特徴。明らかにパワフルとか明らかによく曲がるわけではないけれど、この特性なら、サーキットでは第2世代をジワジワ引き離せるに違いない。
もっともそのことと同等以上に僕が感心したのは、既存のCBR250RRに備わっていた日常域の楽しさが、まったく失われていないことだった。この件については補足が必要で、まず既存のCBR250RRは、ライバル勢と比べると高回転高出力&サーキット指向の特性でありながら、ストリートが楽しかったのだ。具体的な話をするなら、エンジンは本領発揮のはるか手前の中回転域でもツインならではのパンチと刺激を感じさせてくれるし、車体はどんな場面でもヒラヒラ感を味わわせてくれるので、目を三角にして飛ばすのではなく、常識的な速度で走っていても、なかなかの充実感が得られた。そして第3世代も、その資質をしっかり継承していたのである。
このあたりは判断が難しいところで、開発陣の中にはもっとレーシーな進化、CBR1000RR-Rのようにサーキットに割り切った特性を実現したかった人もいると思う。とはいえ僕自身は、戦闘力を大幅に高めながらも扱いやすさを犠牲にしなかった第3世代のキャラクターに、既存のCBR250RRと同様の好感を抱いたのだ。
そんなCBR250RRにあえて異論を述べるとしたら、デザインの好き嫌いが分かれそうなこと……だろうか。と言っても、アニメのエヴァンゲリオンを思わせる現状のルックスは、コレはコレで大いにアリなのだけれど、例えばMVアグスタ・スーパーヴェローチェのようなネオクラシック仕様、ホンダで言うなら1960年代のCB72/77クラブマンレーサーやRCシリーズを思わせる仕様が存在したら、グラッと来る人は大勢いそうな気がする。
形状を刷新したスクリーンは、従来型より5mm高くなっている。ライン発光ランプの下に備わるヘッドライトはLED式で、左右それぞれにロー/ハイ切り替え機構が備わる。
セパレートハンドルの装着位置はトップブリッジ下。スロットルは電子制御式で、左スイッチボックスにはエンジンモードとトラクションコントロールの設定切り替えボタンを設置。
ラップタイマー機能を備えるコンパクトな液晶メーターは、先代以前と同様の構成。ただし右上には、トラクションコントロールの表示を追加。
空力性能を意識したレイヤー構造のフェアリングは全面新設計。インナーにはウイングレットを思わせる膨らみが存在する。
ガソリンタンク容量はニンジャ250やYZF-R25と同じ14ℓ。左右に備わる樹脂製のコブは、コーナリング中のホールド感に貢献。
テールカウルも新作。近年のスーパースポーツのトレンドを取り入れる形で、左右には通風口が設けられている。
テールランプの前方には、近年のスポーツモデルでは珍しい荷かけフック×2を装備。
ステップはサーキットとストリートの両方を意識した……と思える設定。純正アクセサリーパーツの両方向対応型クイックシフターは、ストリートでも有効な武器になる。
並列2気筒エンジンはカムシャフトやバルブ、ポート形状、ピストンリングなどを変更。初代の11.5:1、第2世代の12.1:1に対して、第3世代の圧縮比は12.5:1。
φ37mm倒立フォークはショーワのSSF-BP。ダンパー発生機構が片側のみであることは先代と同様だが、第3世代はビッグピストンを導入している。
フロント:φ310mmディスク+片押し式2ピストンキャリパー/リア:φ220mmディスク+片押し式1ピストンのブレーキは、先代の構成をそのまま踏襲。
リアサスはボトムリンク式で、ショックユニットはフロントと同様のショーワ。タイヤはダンロップGPR-300。このあたりの構成も先代と同様だ。
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