掲載日:2022年11月14日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
GASGAS SM700
GASGASはトライアルやエンデューロなどのオフロード界を主戦場とし、世界タイトルを手にしたこともあるスペインの名門ブランドだ。その名前の由来は「もっとスロットルを開けてガソリンを送り込め!」というアグレッシブなものだという。2019年からはKTMグループ傘下となっており、そこで初のストリートモデルとして登場したのが、KTMの690SMC R/690エンデューロRをベースとしたスーパーモタードのSM700と、エンデューロモデルのES700だ。両者は同じKTMのLC4エンジンと共通のフレームを持つ兄弟車だが、SM700は前後17インチのキャストホイール&オンロードタイヤを装着したモタードモデル、ES700はフロント21/リア18インチのスポークホイール&ブロックタイヤを履くオフロードモデルという、はっきりとしたキャラクター分けがされている。
SM700の外観でまず目を引くのは、大きくブランドロゴが入ったボディだ。よく見ると通常フューエルタンクがある位置からライダーが座るあたりにかけてのラインがやけに細くなめらかで、後部が蜂の腹部のように太くなっているという、少々変わった形状をしている。実はこのマシン、サブフレームを兼ねたポリアミド樹脂製のフューエルタンクをシート下に配しており、給油口もリアにあるという独特の構造を持っているのだ。
パワーソースはKTMの690シリーズに搭載される692.7cc水冷SOHC4バルブ単気筒のLC4エンジンで、最高出力は55kw(約75PS)という、単気筒にしては非常にパワフルなもの。それを包み込むのは軽量で高剛性な鋼管トレリスフレームで、そこにブレンボ製ブレーキやコンチネンタル製のハイグリップタイヤ、前後WP製サスペンションなどの高性能パーツが組み合わされ、トータルで148kgという250ccクラスのオフ車並みのパッケージングを実現している。
データを見ただけでもこのマシンがとてつもない実力を秘めているのがわかるが、さらに2種類のライディングモードやリーンアングルセンサー付きのABS、トラクションコントロール、APTCスリッパークラッチ、上下対応クイックシフターなど、走りの質をさらに高める各種の電子制御も充実している。
SM700はフューエルタンクが後方シート下にあるためボディが細身でホイールが前後17インチということもあり、遠くから見ると小柄に見える。しかし、近寄るとスリムなのは確かだが、実際にはシート高が898mmもあって、かなりの存在感だ。スターターボタンを押すと力強いアイドリングでエンジンが目覚め、そのままスロットルを軽くスナップすれば、LC4エンジンは「スパパパッ」という特有の乾いた歯切れのいい排気音を奏でてくれる。
898mmというシート高は、身長170cmで足が短めの筆者が跨るとお尻をずらして片足のつま先が着く程度で、停め場所によっては跨ったままでスタンドの出し入れがツラい。しかし、走り出してしまえば着座位置の高さからくる良好な視界は清々しく、開放感がある。
いわゆるストリートモードである「モード1」にセットして走っていても、スロットルをガバと開けるとビッグシングルらしいトルクフルでガツンとした加速によって、1~2速ではフロントがすぐに浮きそうになる。直線でこの鋭い加速を味わうだけでもスカッとするが、さらに楽しいのはコーナーリングだ。もともとオフロードバイクの車体なので軽く、バンク角が深いのに加え、ハイグリップタイヤと高性能なサスペンション&ブレーキを装備しているので、安心してマシンに身をゆだねられる。コーナー手前でスピードに乗ったマシンをグッと減速してスパッと寝かせて曲がり、ガバとパワーを掛けて立ち上がるという一連の走りが、スリッパークラッチとクイックシフターのおかげもあって、とてもスムーズに行えるのだ。タイトなコーナーが連続するワインディングではこれがとても小気味よく、フューエルタンクが下にあるので腰高感もなく車体挙動がとても安定しているので、コーナーリングジャンキーになりそうなぐらい走るのが楽しくて仕方がない。
さらに上級者になれば、スーパーモトモードと呼ばれる「モード2」にセットすれば、エンジンの出力特性がよりスポーティな味付けとなり、リアのABSが解除可能になるなど、タイヤをスライドさせるモタードならではの走りも楽しめる仕様となっている。
モタードモデルといえば一時国産車にもあった、250ccクラスのトレール車にオンロードタイヤを履かせたマシンを思い浮かべたり、どことなく中途半端なイメージを持っている人もいるかもしれないが、このSM700はそれらとは一線を画す本格的なスポーツバイクだ。パワフルで伸びのあるエンジンとバランスの取れた足周りの組み合わせは、峠道でスーパースポーツと肩を並べて張り合えるぐらいの実力を備えている。もちろん、足つき性が気にならなければ、通勤通学などのシティランで日常的に使ってもかなりの戦闘力を発揮するはずだ。そのルックスと走りは他に類を見ないもので、個性的で刺激的なバイクライフを求めている人には、うってつけの1台といえるだろう。
フロントマスクはKTMの690SMC Rなどと共通のもの。ヘッドライトはハロゲン、ウインカーはLEDを採用している。
メーターは小ぶりでシンプルだが、スピードやギアポジション、回転数の目安表示、時計、トリップ、平均速度や走行時間など、意外と多くの情報を切り替えて表示できる。左の三角はABSの作動状況を示すインジケーターだ。
左ハンドルのスイッチボックスはヤマハのセローなどに近いオーソドックスなもの。内側にあるのはトラコンとライディングモードの切り替えスイッチだ。
ハンドル右側のスイッチボックスはスターター&キルスイッチのみとシンプルなもの。
トラクションコントロールとライディングモードを切り替えるコンビネーションスイッチ。1はストリートモード、2はスポーツモードで、リアのABSをオフにするスーパーモトモードも設定できる。
メインキーの鍵穴はフレーム前端に位置する。赤黒のキーは車体と統一感のあるデザインだ。
前後サスペンションはWP製。SM700はオンロード向けの「APEX」を採用している。フロントフォークは伸び側/圧側のダンパー調整が可能だ。
水冷SOHC4バルブ単気筒692.7ccのエンジンは、KTMの690SMC Rと同様。最高出力55kw(約75ps)/8000rpmを叩き出すパワフルなもの。
リアサスペンションもWP製で、フルアジャスタブルのボトムリンク式モノショックとなっている。
標準装備のハンドガードは剛性の高いクローズドタイプを採用。スリムでエッジの効いたデザインだ。
シートは一体型のロングタイプで、ライディングポジションの自由度は高い。表皮は滑りにくいタイプのものとなっている。
ガソリン給油口はリアにある。フューエルタンクはポリアミド樹脂製でサブフレームを兼ねており、シート下に設置されている。容量は13.5Lだ。
ラバーの張られたステップと軽量化されたブレーキペダル。いずれも剛性感の高いものだ。
車体奥から伸びるチェンジペダルは可倒式でラバーを備えている。曲げ加工されたサイドスタンドはかけるとかなり車体が傾くが、安定感はある。
大排気量シングルの排気音はかなり迫力があり、それを受け止めるサイレンサーも大型のものとなっている。
フロントブレーキはブレンボ製の4ポットラジアルマウントキャリパーを採用、ディスク径は320mmだ。タイヤはコンチネンタル製のContiAttack SM EVOを履く。
リアブレーキはブレンボ製1ポットフローティングキャリパーを採用、ディスク径は240mmとなっている。スイングアームは溶接のないアルミダイキャストとなっている。
コンパクトなテールランプはLEDを採用。写真はブレーキランプも点灯した状態だ。なお、ウインカーもLEDとなっている。
テスターの身長は170cmで足は短め。SM700のシート高は898mmで、両足だと地面に着かない。片足でもお尻をずらすことで、かろうじてつま先が接地する程度だ。
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