掲載日:2022年10月14日 試乗インプレ・レビュー
取材協力/KTM JAPAN 取材・文/佐川 健太郎 写真/星野 耕作
KTM 1290 SUPER DUKE R EVO
KTMのスポーツネイキッド、DUKEシリーズの最高峰モデル「1290 SUPER DUKE R」をベースに電子制御サスペンションを採用した上級バージョンがEVOである。ベースとなった現行の「1290 SUPER DUKE R」についても少しふれておきたい。
2020年にフルモデルチェンジされていて、水冷75度VツインDOHC4バルブ1301ccエンジンには鍛造ピストンやラムエアシステムを導入し、最高出力は従来比6psアップの180psを発揮。ミッションも改良されエンジン自体も軽量化されている。また、シャーシも従来はアドベンチャー由来の鋼管トレリスフレームだったが、最新版ではエンジンを剛性メンバーとして利用する鋼管スペースフレームに刷新。リンク式リアショックやロングスイングアームの採用、ピボット位置変更などにより車体ディメンションも最新化されている。
EVOが「R」と異なるのはWP製セミアクティブサスペンションを新たに搭載したこと。基本となる3種類のダンピングモード(コンフォート、ストリート、スポーツ)の他、オプションの「SUSPENSION PRO」パッケージにより、さらに3つ(トラック、アドバンスド、オート)のモードが追加される。また、リア側サスペンションはプリロードに関しても10段階20mmの範囲で調整可能。さらに自動レベリング機能も搭載することでライダーの体重に合わせて3段階(ハイ、ミドル、ロー)でプリロードを自動調整してくれる。そして、これらのセッティングはすべてTFTディスプレイを通じて手元のスイッチで行うことができるなど、まさに最新テクノロジーを詰め込んだ“足まわり”が投入された。その他の電子制御については「R」と共通で5種類のライディングモード(レイン、ストリート、スポーツ、およびオプションのトラック、パフォーマンス)や5インチTFTディスプレイ、スーパーモトモード搭載のコーナリングABSやMTC(トラコン)、MSR(モータースリップ制御)、クルコンなども標準装備となっている。
マスが集中した筋骨隆々のフォルム、突き刺さりそうにエッジが立った攻撃的な見た目は「R」とまったく同じ。“ビースト(野獣)”の呼称は健在だ。違いを探すならフォークトップを見るのが早い。減衰力調整アジャスターの代わりに電気の配線が目に入るはずだ。それがまさしく電子制御サスペンションの証である。
見た目に反して乗り味は滑らかでエンジンの鼓動もマイルド。上体が起きたアップライトなライポジも含め普通に流していると快適でさえある。クラッチも軽く極低速からトルクもしっかり出ているので発進もスムーズ。初代の頃のガウガウ唸り声をあげて暴力的に加速する“ビースト”のイメージは薄まり、よりジェントルに成熟した。
エンジンのフィーリングは当たり前だが「R」と同じである。ただし、いくら調教されていても本質は猛獣。ひとたびムチを入れればカタパルトで打ち出された戦闘機のような猛烈な加速Gに脳が置いていかれる感覚に襲われる。そこがスーパーデュークRシリーズの速さの秘訣であり1300ccVツインを誇るLC8エンジンの神髄である。ちなみに200psを超える最新の4気筒1000ccスーパースポーツでも最大トルクは110Nm程度だが、対する「R」(EVOも同じ)のそれは140Nmとほぼ3割増しの図太さだ。つまり、アクセルを開けたときの前に押し出す力がハンパないのである。
ちなみに「EVO」の車重は電制サスに伴う補器の関係で「R」から2kg増の200kgとなっているが、それでもこのクラスとしては異様なほど軽いことは言うまでもない。
では「EVO」の走りは「R」とどう違うのか。「EVO」に搭載されるWP製セミアクティブサスペンションは自分好みにセッティングを細かく調整することができるが、そんな難しいことを考えずとも「AUTO」にセットしておけば、路面や速度に応じて最適なセッティングを提供してくれる。ひと口で言うと、より「しなやか」で「リッチ」な乗り味なのだ。
実際のところ、マニュアル式サスペンションを採用する「R」と比べても乗り心地の差は歴然。とりわけ路面の舗装の継ぎ目などでありがちな内臓を突き上げられるような不快なショックがほとんど感じないほどに緩和されているのが凄い。従来の高性能サスペンションは高速&高荷重域向けにセッティングされたものが多く、一方で低速域では乗りづらい場合もあったが、電制化によって街乗りレベルからサーキット走行までより幅広いレンジに対応しているのが魅力だ。制御を担当するボッシュ社のスタッフにも聞いたところ、SAT(WPセミアクティブテクノロジー)が1000分の数秒という瞬時に路面や車体の状況をセンシングしてリアルタイムで減衰力を調整し続けてくれるため、ライダーはごく自然なフィーリングで快適な走りを楽しむことができるという。
そして、特筆すべきはエンジンとサスペンションそれぞれの特性を別個に調整できること。パワーの出方を変えるライドモードとサスペンションの動き方を変えるダンピングモードの組み合わせにより、幅広い走りのフィーリングを作り出せる。たとえば、サーキットなど路面がフラットでグリップも良い場合はダンピングモードを「TRACK」にして車体の余分なピッチングを抑えつつ、ライドモードはパワーの立ち上がりが穏やかな「RAIN」から始めて怒涛の強烈パワーに慣れることもできる。また、路面が荒れたワインディングで快適に走りたい場合などは逆にダンピングモードは柔らかめの「COMFORT」にして路面の凹凸をいなしながら、ライドモードは「SPORT」のままメリハリの効いたパワフルな走りを楽しむことも可能だ。最新のビーストは最高の走りをより扱いやすく快適に味わえるマシンへと進化したのだ。