掲載日:2022年05月17日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA NT1100
年々強化される排ガス規制の影響から、様々な名機が生産終了を余儀なくされている昨今だが、これからの時代を感じさせる新しいモデルも多く発表されている。その中でも注目の一台として期待されているのが、今年ホンダから登場したニューモデル、NT1100だ。鋭く光るデイライトを備えた有機的なラインを描くフロントカウルからは海の王者シャチを連想させるボリューミーなスポーツツアラーといった様相。実はこのNT1100、大ヒットアドベンチャーモデルとして確固たる地位を築いたアフリカツインのフレームやエンジンをベースとして作られており、パフォーマンスの高さは折り紙付きなのだ。今回はそんな話題のニューモデル、NT1100にフォーカスを当ててテストを行う。
NT1100のイニシャルはニュー・ツーリングを意味しており、まさしく新しい時代を切り開くツーリングモデルとして期待されている。実はNTという名称はこれまでも使用されており、最近ではNT700Vドゥービルがそれに当てはまる。国内での認知度は高いとは言えないものの、欧州を中心にツーリング愛好家に親しまれている隠れた名車だ。ただし今回のNT1100はそれとはまったく違う素性となっている。採用しているフレームやエンジンのベースとなっているのはCRF1100Lアフリカツインで、エンジン的にはレブル1100とも同系統ということになる。ビッグツインならではのパルス感と、スムーズ且つトルクフルなキャラクターで定評がある。そしてもう一点注目したいのは、マニュアルミッションモデルを用意することなく、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)仕様のみとなっていることだ。
これまでもX-ADVなどDCT仕様だけのモデルも存在したが、スタイリングから思うにどちらかというとスクーターに近い雰囲気なので分からなくもない。しかし今回は見た目からしてビッグツアラーであり、思い切った選択をしてきたと感じずにはいられなかった。スポーツモデルを中心に電子制御スロットル車が増えてきたこともあり、クラッチレバー操作をせずにアップ/ダウンを行えるシフトアシスト機能が増えてきており、それは良い傾向だと思っているが、DCTの場合はその話とも違う。シフトレバー操作の要らないDCTのみのNT1100の使い勝手は如何に。
NT1100は2022年3月17日にデビューしており、他のモデルを借りるためにホンダへ行った際に何度か実車を見かけていたのだが、デザイン的にも私の好みであり、早く乗ってみたいと思っていた。アフリカツインの旧モデルにあたるCRF1000Lや同系統エンジンを搭載するレブル1100のテストライドも行ったことがあり、それらとのキャラクターの違いをどう纏めているかという点も気になるところだった。
諸元の数値では820mmとされているシートに腰を下ろすと、割と大柄な外観からイメージしていたよりも足つき性が良く好印象。車両重量は248kgとそこそこあり、乗り出してしまえば何ということはないのだが、取り回しには若干気を使う。このテキストを書く1時間ほど前に街中で見かけたNT1100は、トップケースとサイドケースを装着したフルドレスで走らせていた。購入する多くのオーナーがそうすると思うが、その分重くなることはあらかじめ理解しておきたい。
エンジンを始動しDレンジで走り出す。ビッグツインのドコドコ感が心地良く体に伝わってくる。ライディングモードはツアー、アーバン、レイン、そして好みを設定できる2モードが用意されている。街中を走らせていて感じたのは、ツアーとレインモードでは、低回転域でハイギアへと変速してゆくので、2000回転前後でさらにスロットル開度が少ないと、ガシャガシャした走りとなってしまう。それに対応するために、左スイッチボックスに備わるシフトダウンボタンを使いこなせるように自然となっていったが、やはり市街地ではアーバンモードが適しているということになる。それとストップ&ゴーを繰り返すようなステージではリアブレーキを上手く使うことが、よりスムーズな動きをするための肝となった。
高速道路やワインディングでは水を得た魚だ。どの回転域からもしっかりとしたトルクを得ることができ、DTCの作動もまるでライダーの脳内を覗かれているのかと思うほど的確なシフトチェンジを行ってくれる。もちろんマニュアルシフトモードで任意のギアを選んで走らせることもできる。視界が広く車体を振り回すことができるライディングポジションなので、そこいらのスーパースポーツを相手にすることができてしまう。
キャラクター的にタンデムツーリングも想定していると考え、ソロライドだけでなくタンデムライドでのテストも行うことにした。もちろんパッセンジャーを気遣って走らせるわけだが、それでもソロでの運動性能をほぼスポイルすることなくワインディングロードも走り抜けることができるし、市街地でもふらつくようなことが無い。ベースとなっているシャシーのバランスが良いことが分かる。今回は荷物も無くケース類を装着していなかったことで、プリロードは触らなかったが、それでも足まわりの動きはしっかりとしたものであったし、何よりもパッセンジャーは終始快適だったと話してくれ、NT1100の真価を垣間見ることできたという結果となった。
そして今回は試すことができなかったが、スマートフォンと車体をUSBケーブルで接続することでApple CarPlayやAndroid Autoなどのアプリケーションの利用ができ、さらにブルートゥースでヘッドセットなどとの接続も可能となっている。電脳派も納得の装備であり、これらはツーリングだけでなく普段使いでも活躍してくれることになるだろう。
DCTというミッションを未だ経験したことが無いライダーも多いと思うが、NT1100はいわゆるスクーター的なものではなく、しっかりとモーターサイクルライフを楽しめるものであり、EVバイクをはじめ、これからのモーターサイクル業界が進む道のひとつのあり方として個性が持たされている。税込み168万3000円というプライス設定はなかなか魅力的だと思えるものだった。
搭載される1082cc並列2気筒エンジンはアフリカツインやレブル1100と同系統のもの。溢れんばかりのトルクを制御するため、後輪スリップ制御とウイリー挙動緩和制御の同調制御をするHonda セレクタブル トルク コントロール(HSTC)を採用している。
フロントサスペンションはΦ43mmのショーワ製SFF-BP倒立フロントフォークを採用。ストローク量は150mmと多めで乗り心地が良い。プリロード調整が可能なので、加減速時の前後ピッチングを適宜合わせて乗りたい。
デイタイムランニングライトを備える個性的なフロントマスクは空力に優れる上、ウインドスクリーンは可動式(手動)で、ライダーの好みに合わせ高さと角度を5段階に調整することができる。
DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)モデルなので、シフトチェンジレバーを持たない。せっかくならば、ステップボードとするか、大型のステップバーに変更してもらえると、なお快適だと思った。
6.5インチタッチパネル式TFTフルカラー液晶のマルチインフォメーションディスプレイを採用。表示スタイルが多彩なのは遊び心があって良いと思えるが、どれが一番見やすいか自分で選択しなければならないのは、なんとも迷ってしまうという贅沢な悩みを抱かせる。
左手のスイッチボックス。ボタンが多く、直感的に操れる、と言ってもやはり慣れは必要だった。オーナーになった暁には、手元を見ずとも操作できるようになりたい。なお、親指(手前側)と人差し指(裏側)にあるボタンで任意にシフトチェンジもできる。
アルミ鋳造製スイングアームにストローク量150mmのモノショックサスペンションを、リンクを介してセットする。ダイヤル式プリロードアジャスター機能も備わっており、フロントフォークと合わせて適宜調整したい。
シート高は820mmだが、左右がシェイプされており足つき性は良い。タンデムグリップも握りやすい形状となっている上、後方部分はリアキャリアもかねている。オプションのトップケースも用意したいところ。
右側のスイッチボックスでは、DCTをマニュアルモードやニュートラルにするコントロールボタンや、オートクルーズセットの他、パーキングブレーキレバーも備えている。
サイレンサーからはビッグツインエンジンならではの太く歯切れのよいサウンドを発する。リア周りもデザイン性が高いが、ここにパニアケースを装着しても似合うスタイリングとなっている。
燃料タンク容量は20リットルと十分であるうえ、過度なスロットル操作をしない限り燃費も良いため、給油インターバルも長め。ロングツーリングなどでもストレスなく楽しめる。
フェンダーやライセンスプレートが移設されている車両が多くみられるようになった昨今。テールカウルからライセンスステー兼リアフェンダーが延長されたスタイルは、安心感を覚える。
タンデムシートを外すと、標準装備のETC車載器が置かれており、さらにハンドツールや書類などを入れておくことができるユーティリティスペースが確保されている。
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