【ホンダ CBR600RR 試乗記】自由自在にして、安心感抜群の4代目

掲載日:2020年12月21日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦 写真/伊勢 悟

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HONDA CBR600RR

先代の販売終了から約4年の歳月を経て
電撃的な復活を果たした、伝統のミドルSS

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改めて振り返ると、ミドルCBRシリーズの歴史は相当に長い。その原点は1987年に登場したCBR600Fで、以後は1991年型F2→1995年型F3→1999年型F4→2001年型F4iへと発展。そして2003年になると、SS/ST600レースを念頭に置いたモデルとして、運動性能に大幅に磨きをかけたCBR600RRがデビュー。2007年には2代目、2013年には3代目へと進化したのだが、ミドルスーパースポーツ市場の急速な縮小と排出ガス・騒音規制の強化に伴い、北米市場を除くCBR600RRの販売は、2016年で終了した。ただしホンダは、2014年から原点に戻ったと言うべきCBR650Fの発売を開始し、2019年にはその進化型となるCBR650Rが登場しているので、このシリーズのトータルでの歴史は30年以上に及ぶのだ。

言ってみればミドルCBRシリーズは、F→RR→F→Rという変遷を辿って来たわけだが、2020年8月にRRが電撃的な復活を果たしたことには、意外な印象を持った人が多いのではないだろうか。前述したように、ミドルスーパースポーツ市場はすでに縮小しているのだから。

ではどうして、ホンダが4代目CBR600RRを世に送り出したかと言うと、一番の理由はARRC=アジアロードレース選手権へのテコ入れだ。と言うのも、近年のARRCではヤマハYZF-R6が大人気を獲得し、CBR600RRは苦戦を強いられているのである。もちろんその他にも、若手レーサーの育成や、兄貴分に当たるCBR1000RR-Rの高額化という事情があるのかもしれないが、ARRCでの苦戦がなければ、4代目CBR600RRは生まれなかっただろう。

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ちなみに4代目CBR600RRは、2021年から施行される排出ガス規制のユーロ5をクリアしていないため、販売地域は東南アジアと日本、オーストラリアなどに限定され、ヨーロッパへの出荷予定はない(北米市場は2021年も3代目を継続販売)。その事実をどう捉えるかは人それぞれで、日本人としてはラッキーな気がするけれど、今後の排出ガス規制の強化を考えると、このモデルの生産期間はあまり長くはないのではないか……と思う。

ホンダ CBR600RR 特徴

最先端の電子制御をイッキに導入すると同時に
シリンダーヘッドを中心とした大改革を敢行

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アルミツインスパーフレームと並列4気筒エンジンの基本構成は不変で、特徴的なユニットプロリンク式リアサスとセンターアップマフラーも維持。その事実を知ると、少々ガッカリする人がいるかもしれない。とはいえ4代目の開発には、既存のCBR600RRに勝るとも劣らないレベルの気合いが入っているのだ。何と言ってもこのバイクには、2015年に登場したMotoGPレーサーレプリカのRC213V-Sや、2010~2018年のMoto2へのエンジン供給で培った技術が、惜しみなく投入されているのだから。

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中でも最も注目するべき要素は、最先端の電子制御だろう。3代目でそれに該当するのがコンバインドABSのみだったのに対して、4代目はライドバイワイヤ、3+2種のライディングモード、トラクション/ウイリー/エンブレコントロール、5軸IMUなどを採用。純正アクセサリーという扱いではあるけれど、クイックシフターも導入された。また、空力性能という面でも4代目は飛躍的な進化を実現し、フェアリングの左右には高速域でダウンフォースを発生するウイングレットを装備している。

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もっとも個人的には、それら以上の驚きだったのが、シリンダーヘッドを中心にして、大幅刷新を受けたパワーユニットである。吸気ポート形状、バルブタイミング、バルブスプリング、ウォータージャケットなどを見直し、スロットルボディをφ40→44mmに拡大した4代目のパワーユニットは、先代+2psとなる121psの最高出力を、先代より1400rpmも高い14000rpmで発揮するのだ。

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なおパワーユニットと比べると、車体の変更はやや地味で、大きな変更点は、前後独立式のスーパースポーツ用ABSを導入したことくらい。とはいえ、スイングアームは板厚変更と構造の見直しで150gの軽量化を実現しているし、倒立フォークはセッティングの自由度を意識して全長を延長。細かい話をするなら、軸間距離は先代-5mmの1375mmで、キャスター/トレールは先代よりやや安定指向の24度06分/100mmになった。おそらくその他にも、改良の手は多岐に及んでいるのだろう。

ホンダ CBR600RR 試乗インプレッション

レース仕様を前提に開発されたものの
初代~3代目と同様にストリートが楽しめる

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今だから言うわけじゃないけれど、既存のCBR600RRは、スポーツライディングとツーリングの両方が楽しめる、名車だったと思う。僕は過去に数多くのCBR600RRオーナーと話をしているのだが、このバイクに異論を述べる人、他のミドルスーパースポーツへの買い替えを検討している人には、出会った記憶がほとんどない。ただし4代目のCBR600RRは、レース仕様の開発が先行し、レース仕様をベースにしてストリート仕様として最適化が図られたそうである。となれば一般公道では、初代~3代目のような好印象は得られないような気がしたのだが……。

まったくそんなことはなかった。相変わらずCBR600RRは、いや、今まで以上にCBR600RRは、一般公道でスポーツライディングが楽しめるうえに、ツーリングにも使えそうなモデルだったのだ。このキャラクターについては、市販レーサーと言うべき方向に舵を切った、兄貴分のCBR1000RR-Rとは異なる道を選んだのだと思う。

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4代目CBR600RRで、僕が最初に感心したのは排気音だ。もっとも排気系に関して、ホンダが公表した先代との相違点はエキゾーストパイプのみだが、重厚にして抑揚に富んだ排気音は、良質なアフターマーケット製を思わせる。もしかしたら、シリンダーヘッドの刷新が排気音に影響を及ぼしているのだろうか。ちなみに、最も素晴らしい音が聞けるのは、絞り出すようなクォーッという音が響き渡る高回転域だが、空吹かしをしたときのズヴァッ、コーナーの立ち上がりで徐々にアクセルを開けた際のクアァァッ……という音も、相当に気持ちがよかった。

音に続いて感心したのは電子制御である。トラクション/ウイリーコントロールを導入した4代目は、どんな場面でも思い切ってアクセルを開けられるし、ライディングモードを一番穏やかな3にすれば、ウェット路面でも臆することなくスポーツライディングが楽しめる。さらに言うなら、スーパースポーツ用ABSの出来は秀逸で、常に理想的な制動力を安心して引き出せるし、個人的にはエンブレの利き具合を弱くすることで、コーナー進入時の往年の2スト的な気軽さが得られたことが収穫だった。いずれにしても4代目の自由自在さと安心感を知ると、ハイテク至上主義ではない僕でも、電子制御の恩恵を認めざるを得ない、という気分になってしまうのだ。

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外観上の特徴であるウイングレットの効能は、残念ながら今回の試乗では把握できなかったものの、高速道路では空力性能の向上を実感。と言ってもその最大の恩恵は、伏せ姿勢で走ったときに発揮されるのだが、一般的な姿勢で走った際も、走行風が程よく外に散ってくれるので、ツーリングでは先代より疲労が軽減できそうである。

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開発陣の意図とは異なるのかもしれないが、僕は4代目CBR600RRに、速い……と言うより、官能的な高級車という印象を抱いた。ちなみに、試乗中に頭に浮かんだライバルは、YZF-R6やZX-6R、CBR650Rなどではなく、MVアグスタF3 675/800やドゥカティ・パニガーレV2である。そのせいだろうか、先代+約30万円となる160万6000円の価格が、僕には高いとは思えなかった。

ホンダ CBR600RR 詳細写真

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センターラムエアダクトは先代の意匠を継承するものの、軽量化を念頭に置いて、ヘッドライトは2灯式ハロゲン→4灯式LEDに変更。また、先代ではミドルカウル側面だったフロントウインカーは、ハンドルのやや下に移設。

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フェアリングの左右には、高速域でダウンフォースを生み出すウイングレットを装備。兄貴分のCB1000RR-Rがボックス構造だったのに対して、CBR600RRにはモロに翼という印象である。先端は渦の抑制を意識した形状。

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フロントフェンダーとミドル/ロアカウルのデザインは、走行風の流れと圧力配分に加えて、ラジエターの冷却効率を意識して決定。空気抵抗係数を示すCD値は、現代のミドル並列4気筒で最も低い0.555。

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メーターはシリーズ初のフルカラーTFT液晶。画面表示は、写真のストリート、サーキット、メカニックの3種で、サーキットモードではラップタイムを大きく表示。上部にはシフトアップインジケーターが備わっている。

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セパレートハンドルの高さや角度は先代と同様で、この種のバイクに慣れ親しんだライダーなら、市街地走行やツーリングでも不満を感じることはなさそう。電子制御の設定変更は、左側スイッチボックスのセレクターで行う。

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右側スイッチボックスの内部には、電子制御式スロットルのポジションセンサーを設置。ショーワのφ41mmBPF:ビッグピストンフロントフォークは、全長を伸ばし、突き出し量を増やすことで、セッティングの自由度を高めている。

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ガソリンタンクカバーは、上面を先代より10mm低く設定。ライダーが伏せ姿勢になった際に、ヘルメットのアゴの収まりをよくするため、上面には凹みが設けられている。ウイングマークのエンブレムはCBR1000RR-Rと共通。

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シートカウル+タンデムシートは先代と同じ。タンデムシートの下には車載工具とU字ロックに加えて、ETCユニットが設置できるスペースが設けられている。この写真では見えないが、荷かけフックは片側2点ずつ。

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最高出力発生回転数は先代+1400rpmの14000rpmで、レッドゾーンは15000rpmからだが、エンジン内部パーツはMoto2レーサーに匹敵する16500rpmを念頭に置いて開発。クラッチはシリーズ初のアシスト&スリッパー式。

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3.50×17/5.50×17のキャストホイールと、φ310mmフローティングディスク+ラジアルマウント式4ピストンキャリパーのフロントブレーキは、先代の構成をそのまま継承。

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リアブレーキはφ220mmディスク+片押し式1ピストン。スイングアームは先代と同様の形状だが、150gの軽化を図ると同時に、エンドピースの構造を刷新することで、リアアクスルまわりの剛性を高めている。

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純正指定タイヤは、ワインディングロードでの楽しさを重視したダンロップ・ロードスポーツ2。抜群の運動性能を考えると、もっとサーキット&ハイグリップ指向の製品を選ぶべき?……という気がしないでもない。

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