掲載日:2020年12月23日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/中村 友彦 写真/伊勢 悟
MUTT AKITA250
スーパーXRやスーパーリアルナックルを生み出したサンダンス、ロードホッパーを世に送り出したゼロエンジニアリングのように、ハーレーの世界では、一般的なカスタムの領域を超えた、コンプリートマシンを手がけるショップ/ビルダーが世界中に数多く存在する。イギリスのボーンシェーカーチョッパーズも、そういったショップの1つだが、同社の代表を務めるベニー・トーマスは、高価なハーレーとは異なる路線として、誰もが気軽にカスタムを楽しめるアイデアを模索していた。それを実現する手法として、2013年に友人のリック・ウィルと共に創設したのが、125/250cc単気筒車を主軸とする新たなメーカー、MUTTモーターサイクルズだ。
もっとも近年のヨーロッパの2輪業界を振り返ると、MUTTに通じる姿勢で活動を開始しつつも、数年で消えたモーターサイクルメーカーが珍しくはない。とはいえMUTTは、母国のイギリスだけではなく、ヨーロッパ各国やアメリカ、オーストラリアなどでも支持を集め、2019年にはついに日本に上陸。ライバルと言うべきモデルが存在しない中で、着実に支持層を増やしているようだ。
現在のMUTTモーターサイクルズのラインナップには、19台ものモデルが並んでいる。ただし、フレームはスチール製ダイヤモンドタイプの1種で、空冷単気筒エンジンは125ccと250ccの2種。少ない骨格と心臓で車両の数を増やす手法は、昔のハーレーに通じるところがあるけれど、ガソリンタンクやシート、ハンドル、ホイール、マフラーなどの違いによって、各車各様の雰囲気を作り上げるのは、カスタムビルダーならではと言えるだろう。
当記事で取り上げるAKITA250の特徴は、1970年代のカフェレーサーを思わせるスクエアスタイルのガソリンタンクや、ブラウンのレザーを用いたショートタイプのシート、リザーバータンク付きリアショック、ブラッシュ仕上げのアルミ製マッドガードなど。なお最高出力21ps、乾燥重量130kgという数値や、気化器が電子制御式インジェクションで、2チャンネル式ABSを採用することは、同社が販売する250cc全モデルに共通である。
シートに跨ってハンドルに手を添えようとした瞬間、上手いなあ……と思ったのは、視界に入るパーツの質感の高さ。硬質なラバーとアルミを組み合わせた左右グリップは、いかにもカスタムパーツ然とした雰囲気だし、CNC加工が施されたアルミ製ステムナットやフォークトップキャップ、グリップエンドなども、特別感に大いに貢献する要素。液晶メーターが主力になった昨今の事情を考えると、昔ながらのシンプルなアナログ式速度計に好感を抱く人、あるいは新鮮と感じるもいるだろう。
では実際に走っての印象はどうかと言うと、最初に感心したのはエンジンの威勢のよさ。今どきの250cc単気筒の多くが、発進時にはスルスルスルッと滑らかに加速して行くのに対して、AKITAの場合はドドドドッと鼓動感が濃厚で、知らず知らずのうちに気分が高揚する。もっともそういう印象は低中回転域のみで、高回転域では少々息苦しさを感じるのだが、常用域のパワーは十分にあるし、最高速は120km/h以上出るのだから、ワインディングロードを攻めるような走りをしない限り、エンジン特性に物足りなさを感じることはないだろう。
それに続いて感心したのはハンドリングの軽快さ。車重と車格を考えれば、それは当然と言う人がいるかもしれないが、このバイクはステップバーの位置が絶妙なようで、下半身を使った荷重と抜重に対する反応が実に従順。乗り手の操作に応じて、車体がヒョイヒョイッと軽やかに向きを変えていく感触は、安定性に重きを置く、今どきの250ccスポーツとは一線を画する特性だと思えた。
もっとも誤解を恐れずに言うなら、かつての日本で販売されていた空冷250cc単気筒車、カワサキ・エストレヤやスズキST250のように、AKITAはノーマルのままで長く乗りたくなるモデルではない。個人的にはバランスがいまひとつの前後ショックを何とかしたいし(リアがかなり硬い一方で、フロントが柔らかい)、グリップ力が低くてロードノイズが大きいタイヤ、利き方が唐突なリアブレーキなどに、違和感を覚える人もいるだろう。
でも僕はそれでいい、と言うか、それもアリじゃないかと感じた。そもそもの話をするなら、MUTTモーターサイクルズが販売しているのは、万能性よりも独自性を重視したカスタムバイクなのだから。もちろん世の中には、最初からパーフェクトなカスタムバイクも存在するけれど、同社の創設者であるベニー・トーマスは、オーナーが自分好みのモディファイを行うことを念頭に置いて、多種多様な方向性のモデルを生み出しているのだと思う。