掲載日:2020年10月30日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/淺倉 恵介
HONDA CBR250RR
ホットな話題が山盛りの250ccクラス。軽量で扱いやすい車体や、車検の無い気軽さなど、ビギナーからベテランまで幅広い層から支持されている。その250ccクラスで「最強」の称号を欲しいままにしてきたCBR250RRが、デビューから3年を経てビッグマイナーチェンジを敢行。
外観から見て取れる変化はカラーリングくらいなのだが、メカニズムは大きく進化しているのだという。中でもエンジンの進化は著しく、内部パーツのほとんどが新設計。エンジンに関していえば、フルモデルチェンジと言って差し支えないレベルだ。最高出力は3馬力アップしての41馬力。ここに来てのパワーアップは、250ccクラスでは久々となる四気筒エンジンの搭載車として話題になっている、カワサキZX-25Rを意識していることが伺える。
ホンダの技術力と生産力を考えれば、4気筒エンジンの開発は難しいことではないだろう。それでも、2気筒エンジンの熟成を選んだことには理由があるに違いない。ここでは「ホンダの選択」がどのような形に結実したのか、マシンの特徴を紹介しつつ考察を進めていこう。
やはり気になるのはエンジン。そのパワーアップに直結していると考えられるピストンは新形状となり圧縮比が従来型の11.5:1から12.0:1へと引き上げられている。組み合わされるマフラーは、外観の変化はないが内部構造が見直されている。当然、インジェクションシステムの燃調は、エンジンのスペックと排気系に、点火時期と併せリセッティングが施された。
生み出したパワーは少しも無駄にしないと、フリクションロスの軽減も徹底される。バランサーシャフト軸が小径化しモーメントを減少、バルブスプリングの荷重も低減された。ピストンが上下することでクランクケース内で発生する圧力は、ポンピングロスとなりパワーロスに繋がる。効率よく圧力を逃がすために、シリンダー下部に切り欠きが追加されている。
そうした内部パーツの全面的な見直しで、より高回転型のエンジンとなり最高出力の発生回転が500回転上がって41PS/13,000rpm。これは無理に高回転まで回して得たパワーではない。馬力は「トルク×回転数」で算出される。最大トルクは2.5kg・f/11,000rpmと、こちらも0.2kg・f向上。つまり、エンジン自体のパフォーマンスを引き上げ、パワーロスを徹底的に排除した結果のパワーアップなのだ。
国内のバイクレースでは、JP250というカテゴリーが盛り上がっている。これは、250ccスポーツバイクの人気が上昇したことで誕生したレース。始まった当初は様々なバイクが参戦していたのだが、CBR250RRが登場して以来ほぼワンメイクレースの様相を呈するようになった。CBR250RRでなければ勝てない、CBR250RRが速過ぎるからだ。
ストリートでもCBR250RRのアドバンテージは変わらない。単純に速いし、それでいて気難しいところがない。パワーのあるエンジンもさることながら、車体の完成度も素晴らしい。剛性感の高いフレームは高速走行での安定感が段違いだし、それでいて軽快にコーナリングしてくれる。性能の高さは、走りの余裕に繋がるということか? バイクの好き好きは人それぞれだ。だが完成度と戦闘力の高さならCBR250RRはクラスNo.1。自分はそう考えている。そのCBR250RRがモデルチェンジしたと聞き、ワクワクしながら試乗に挑んだ。
実車に対面してのファーストインプレッションは拍子抜けするものだった。何しろ、外観上は何も変わりがない。カラーリングこそリニューアルされているものの、「ああ、新色ね」程度の感想しかない。もっとも、ブラックを基調にグレーとレッドが効果的に配置されたニューカラーは実にカッコイイ。ホンダのスポーツバイクといえば、レッド、ブルー、ホワイトのトリコロールがアイコンだけれど、サーキットやワインディングならともかく、街中で乗るには個人的には気恥ずかしい。その点、このマットガンパウダーブラックメタリックは、適度にシックでスポーティ。それに、このカラーリングはかつて存在したホンダのレーシングマシン、SEEDホンダNSR500を思わせる。今や遠く、輝かしき80年代バイクブームを経験したオジさんの琴線を絶妙に刺激してくるのである。これが「アガる」というヤツか?
マシンに跨りクラッチレバーを握る。実は、このクラッチには期待していたのだ。新たにアシストスリッパークラッチが装備されたことで、どれほどクラッチが軽くなったか興味があったのだ。だが、ある意味で期待外れ。確かに軽くなってはいるのだが、もともとクラッチが重いバイクではないので、大きな感動がないのだ。従来モデルの出来がいいだけに、その上をいくのは難しい。
エンジンはセルボタンで一発始動、これはまあ現代のバイクでは当たり前。走り出すと、これまた相変わらずいい。エンジンは3,000回転も回っていれば、街乗りを十分にこなす。250ccの排気量と、15,000回転も回るエンジンであることを考えると、これだけで実は凄い。本領を発揮するのは7,500回転から上、9,000〜12,000回転のパワーとレスポンスに、思わず「速いっ」という言葉が出る。一旦回転数を落とすと、パワーバンドに戻るまで多少待ちが入るが、中回転域のトルクはフラットでモタつき感は薄い。そもそも、250ccのスポーツバイクなのだ。速く走らせたいなら、高回転を活かした走りをするべきなのだ。そして、新しいCBR250RRには、パワーバンドを外さない走りのために大きな武器が加わった。それが注目の「クイックシフター」だ。
新型CBR250RRのクイックシフターは、オートブリッピング機能を装備しシフトアップ&ダウンでクラッチ操作が不要なもの。大型バイクの高級モデルではもはや珍しくない装備だし、ミドルクラスでも装備するマシンが出てきている。シフトアップのクラッチレス化は点火カットと進角調整で可能なので、多くのバイクで実現可能。だが、オートブリッピングが必要なシフトダウンは、スロットル開度をコンピュータが制御する、スロットルバイワイヤの存在が不可欠。CBR250RRはデビュー時からスロットルバイワイヤを採用している。これまでもシフトアップのみのクイックシフターはオプションで存在していたが、なぜシフトアップ&ダウンにしないのか? と疑問に感じていた。今回のモデルチェンジで、ようやくクイックシフターとして完成したというところだ。
このクイックシフターが素晴らしい。シフトアップはスロットルを全開固定したままで気持ち良く決まるし、シフトダウンではキレイにブリッピングしてスムーズにギヤが変わる。ためしに渋滞路の10km/h程度の停止直前の速度域で、2速から1速にシフトダウンしてみた。ギヤ比の開きも大きく、回転数は低い。クラッチを使えば、大きなショックが出る。しかも渋滞しているので目の前には四輪車がいる。スロットルを煽りすぎて、急加速させたくないシチュエーションだ。だが、あっけなくシフトダウンに成功。後輪がロックするようなこともなければ、マシンが前に出たがって暴れることもない。スリッパークラッチがシフトショックを緩和している部分もあるのだが、このクイックシフター実に素晴らしい。恥ずかしながら、35年もバイクに乗っている自分より、生まれたばかりの新型CBR250RRの方がシフトダウンは上手いのだ。
ただ、惜しむらくはこのクイックシフターがオプション設定であること。価格はメーカー希望価格で税込2万5300円。絶対に装備するべきと自信を持って薦める。今回のモデルチェンジでは車両価格が据え置きで、良心的だと言われている。だが、多少値上げしても、クイックシフターを標準装備する方が良かったのではないかと思う。そんなもの要らないという人もいるだろうが、使ってみれば絶対に手放せなくなる。追記しておくと、新型対応のクイックシフターは従来モデルには取り付け不可だ。
車体の素晴らしさも、今までと変わらない。高速域ではビシッと安定しつつ、車体を動かす時は軽快に反応。コーナーでは「曲がりきれないかも?」と不安になることは一度もなかった。サスペンションのセッティングを見直したと聞いているが、正直なところ変更点がわからなかった。今までと変わらず「凄くイイ! 」と感じただけだ。気になった点をあげるとすれば、リアタイヤがギャップを踏んだ時の突き上げ感が強いこと。スプリングが固くはないので、サスペンションが急激に動く時の減衰力の立ち上がりが早すぎるようだ。もっとも、自分は小柄で体重も標準体型より軽い。そのことが影響しているのかもしれない。
新型CBR250RRは、これまでと変わらず素晴らしいバイクだ。実を言えば3馬力アップした最高出力の違いを体感できるかは微妙。従来モデルのオーナーに、即座に買い換えるべき! と薦めるほど進化しているかというと、それもない。だが、確実に良くなっているのは確か。クイックシフターを体感してしまうと、自分がオーナーなら買い替えを考えてしまうだろう。パワーアップに関しては、クローズドコースでは確かに成果が出ているとも聞いている。使い古された言葉だが、まさにこれが「正常進化」だ。モデルチェンジして、CBR250RRの魅力がさらに高まったことは絶対に間違いない。
排気量249cc、水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒エンジンはボア×ストロークに変化なし。新形状を採用したピストンにより圧縮比は0.5アップの12.0:1。排気系やインジェクションのセッティングも見直され、最高出力は3馬力アップ。パワーアップに対応するため、強度を高めた浸炭コンロッドを使用。バランサーシャフト軸の小径化、バルブスプリングの荷重低減、シリンダーへのポンピングロス対策など、メカニカルロスの軽減も徹底されている。
シフトアップ&ダウンのクラッチレス化を実現する、クイックシフターがオプションで用意される。アンダーカウルの切り欠き部分から覗く、シフトロッド先端のパーツがクイックシフターのスイッチ。
排気口が上下に二つ並ぶサイレンサーは、CBR250RRのデザインアイコン。マフラーは外観上の変化はないが、新しくなったエンジンに合わせて内部構造が見直されている。
フロントのシングルディスクブレーキは変更なしだが、全モデルにABSが搭載された。また、スパルタンな7本スポークデザインのホイールは、全モデルがゴールドペイントされる。
フロントフォークはセッティングが変更された他、アウターチューブの全長が5mm延長された。それにより、フォークトップが突き出されている。レースで使用する時、車体のセッティング変更の幅が広がった。
リアショックユニットは、クリック式でプリロード調整が可能。ダンピングアジャスターは装備しない。
リアサスペンションはミドルクラスでは少数派のハイメカニズムのリンク式、ホンダ伝統のプロリンクを採用している。
スイングアームは、軽量かつ高剛性なアルミ鋳造製。左右非対称形状で、車体右側は排気系を避けて湾曲している。
フルLCDのメーターは、従来モデルからデザイン変更なしだが、クイックシフター使用時にはギヤポジションインジケーター内に「QS ON」と表示される。走行距離は、オドとツイントリップを切り替え表示。
左ハンドルスイッチボックスの前側に、ライディングモードの切り替えスイッチが設けられる。ライディングモードの切り替えは、走行中でも可能になっている。
ヘッドライトはLED四灯式。上2灯はポジションランプで常時点灯。下2灯のヘッドランプは内部でさらに分割され、ロービーム時は内側2灯が点灯。ハイビーム時は内側2灯に加え、外側2灯も追加点灯。ウインカーもLED。
エッジの効いた造形が魅力のテール周り。2灯式LEDテールランプの上側は常時点灯、下側がストップランプ。
フューエルタンク容量は、250ccクラスとしては標準的な14Lを確保している。
ライダー用シートは前方が絞り込まれ、角が落とされた形状で足つき性は良好。独立したパッセンジャー用シートは小さめなので、エマージェンシー用と考えたほうがいいだろう。
パッセンジャー用シートは脱着式。タンデムベルトは車体側に取り付けられているので、使用しない時は収納できる。シート下の小物入れスペースは、ライダーシート下側が深いので、開口部面積から受ける印象よりは容量が大きい。だが、ETC車載機+αの容積に留まっている。
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