掲載日:2020年02月25日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/伊丹 孝裕 写真/KTM JAPAN
KTM 1290 SUPER DUKE R
オフロードのイメージが強かったKTMだが、近年はオンロードモデルのラインナップを急速に拡大。特に「DUKE(デューク)」のネーミングはすっかり浸透している。
数あるデュークシリーズの中でもフラッグシップの役割を担うのが「1290 スーパーデューク R」だ。「スーパー」と「R」の文字が追加されているのだからいかにもスゴそうだが、「1290」という数字もなかなかのもの。1,290㏄どころではなく、実際には1,301㏄もある。
そんな1290 スーパーデューク Rがモデルチェンジを果たし、2019年秋のEICMA(ミラノショー)で披露された。そして先頃、その国際ローンチがポルトガルで開催されたのである。
スーパーデュークの名を持つモデルは2005年に登場した。999㏄のVツインエンジンを搭載した990 スーパーデュークが初で、その後フルモデルチェンジ。2014年にデビューしたのが1290 スーパーデューク Rである。
“THE BEAST”のニックネームはこの時に与えられ、エンジンの排気量は1,301㏄にまでアップ。75度のシリンダー挟み角を持つ水冷4ストロークVツインは180psという最高出力を発揮した。スロットルを開ければ瞬間的にトルクが立ち上がり、ラフな操作を許さないスパルタンなフィーリングが、いかにもKTMらしかった。
その猛々しさに優しさが加わったのが、2017年モデル以降のことである。この時、エンジンの内部パーツに大きく手が加えられ、電子デバイスもアップデート。サスペンションのセッティングも見直された。
では、2020年モデルはどうなったのか? まず目につくのが、完全新設計になったフレームで、その構造はシンプルの極み。車重の軽量化にも大きく貢献している。それに付随してサブフレームはスチールパイプからコンポジット材になり、スイングアームやリアサスペンションの取り付け方法も別モノへと進化。KTMはこれを“THE BEAST 3.0”と呼び、世代の切り換わりを宣言することになった。
新型1290 スーパーデューク Rの試乗会は、ポルトガル南部の街ポルティマオにある「アウトドローモ・インターナショナル・アルガルヴェ」で開催された。コース全長は4,684m、メインストレートは969mで国際サーキットとしては特別大きくもない。
とはいえ、コーナーというコーナーはほとんどが上っているか、下っているかという超アグレッシブなレイアウトを持ち、上りだと空しか見えず、下りは穴に落ちていくような感覚だ。そんなところで180㎰のネイキッドを振り回すのは少々勇気がいるものの、完璧に躾られ、スロットルをどんどん開けていけるスムーズなパワー特性を披露。まるで900㏄前後のVツインを操っているかのような手の内感があった。
1,301㏄のエンジンに対して900㏄のようだ、などと表現すれば生粋のKTMファンはガッカリするかもしれないが、そこは大丈夫。レイン、ストリート、スポーツ、トラックの順番でアグレッシブさを増すライディングモードのレベルを上げ、トラクションコントロールやウィリーコントロールの介入度を制限すれば、ギヤが5速に入っていても、時速が200km近い領域からでもフロントタイヤがリフトしようとするからだ。
ライダーが穏やかに走りたい時はそれに従い、本当のパフォーマンスを求めた時はパワーがいくらでも溢れ出す。そういう自由自在なエンジンに仕立てられていた。
さて、肝心のフレームはどうか? KTMの緻密な作り込みを感じさせる部分がここで、フレキシブルなエンジンのキャラクターに合わせ、車体もまたフレンドリーになっている。
従来は、ステアリングヘッドからピボットにかけて急落下するようなパイプの取り回しだったが、新型はメインパイプが低く、水平に近い角度で配され、その構造はシンプルそのもの。見た目の印象通り、低重心化と軽量化にひと役買っている。
そしてもうひとつ、注目すべき変更がリアサスペンションに設けられたリンクだ。これまでのリンクレス構造と比較し、トラクションと衝撃吸収性が明らかに向上。特にストリートでの乗り心地は格段によくなった。
サーキットでもワインディングでもハンドリングは安定方向に振られ、車体の挙動は落ち着いたものに変化。バンク角にそれほど頼らなくても十分な旋回力を発揮してくれるため、先が見通せないワインディングでもスイスイと流れるような走りを見せる。
巨大なボアを持つスポーツツインと言えば、一発一発の爆発力があまりにも大きく、それを支えるフレームも足まわりにも頑強な味つけになりがちだ。ところが新型1290 スーパーデューク Rにはそれがなく、ストリートからサーキットまで幅広く対応。しかもそれが極めて高いレベルにあり、KTMの新時代を予感させるモデルに仕上がっていた。
WPのAPEX48倒立フォークとブレンボのStylemaモノブロックキャリパーを組み合わせるフロントまわり。ホイールトラベル量は125mmが確保されている。コーナリングABSを装備し、車体がバンクしている最中のブレーキングも容易になった。
キャタライザーを内蔵するマフラーは従来モデル比で太く長くなっているものの、エキゾースト全体で1.0kgの軽量化に成功。当然ユーロ5をクリアしている。タイヤはブリヂストンのバトラックスS22が純正指定される。
ヘッドライトを含め、灯火類にはすべてLEDを採用する。特徴的な2眼式のフロントマスクは従来モデルのイメージを踏襲。中央のクリアランスは取り込んだエアの流入経路として機能し、ステムを通ってエアボックスに導かれる。
メーターには大型の7インチTFTディスプレイを装備。ライダーの体格に合わせて角度調整を行うことができる。高剛性のテーパーハンドルバーも可変式で、4段階22mmの調整幅を持つ。
ライディングモード(レイン/ストリート/スポーツ/トラック)の選択やトラクションコントロールの調整、クルーズコントロールの設定などはハンドル左側のスイッチボックスに集約。中央にはジョイスティックタイプのボタンが設置され、直感的な操作が可能だ。
排気量1,301㏄、75度のシリンダー挟み角を持つ水冷4ストロークV型2気筒エンジンを搭載。シリンダーヘッドやインジェクター、マッピング変更といったきめ細やかな変更により、従来ユニット比で最高出力が3ps向上。単体重量は1.0kg軽くなっている。
クラッチの操作力とシフトダウン時のエンジンブレーキを軽減するパワーアシストスリッパークラッチを装備。オイル経路とクラッチディスクが見直され、よりスムーズでロスのないギヤチェンジを可能にしている。
まったく異なる形状になったメインフレーム。クロモリのトレリス構造という形式は同じながら、オーバルだったメインパイプは円形になり、ねじれ剛性の3倍アップと2kgの軽量化、低重心化を実現している。サブフレームはアルミと強化プラスチックの複合材になり、こちらも1.5kgの軽量化に貢献。
リアサスペンションもWPのAPEXモノショック。従来のショックから200g軽量になっている。注目はその下部にリンクが新設されたことだ。これがストローク量と衝撃吸収性をサポート。路面追従性が大きく引き上げられている。
フレームの刷新やリンクの追加にともない、スイングアームの設計も変更された。剛性は15%向上し、ピボットの装着位置が5mm上方へ移動。加速時の安定性とタイヤの接地感が見直された。
1290 スーパーデューク Rのパフォーマンスを引き出すKTMパワーパーツ装着車。アクラポビッチのチタンフルエキゾースト、アルミ削り出しのトリプルクランプ、レーシングステップ、ステアリングダンパーなどがラインナップされ、スリックタイヤも履きこなす。
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