掲載日:2019年06月28日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/山下 剛
HONDA CB500X
ホンダは2018年のミラノショーで「CB500F」、「CBR500R」、「CB500X」の3モデルを発表した。いずれも471cc水冷直列2気筒エンジンを搭載するバイクで、フレームも共通ながら足まわりやフェアリングの変更などによってそれぞれに適切なキャラクターが与えられている。今回、イギリスとマン島で2週間あまりにわたってCB500Xを走らせる機会を得られたので、その乗り心地や使い勝手についてレポートしよう。
日本では免許制度に合わせて排気量を399ccとした「CBR400R」と「400X」の2車種のみが販売されており、今回レポートするCB500Xを日本で試乗できる機会はかなり限られる。そんなインプレッションにどれだけ意味があるのかとも思うが、CB500Xの最高出力35kWに対して、400Xのそれは34kWとほとんど変わりない。最大トルクは43Nmと38Nmでやや差があるものの、両車のパワーフィールはほぼ相似形になると思われる。それを踏まえれば、このインプレッションにも意味があるのではないかと思い、記事を書き進める次第だ。他の試乗記事とはやや趣向が異なるが、それを踏まえて読んでいただければ幸いである。
500ccという排気量クラスは、速度域が日本よりも高いヨーロッパでも小さめの部類で、ミドルクラスといえば650〜900ccあたりが主流だ。ではパワーが足りないかというとそんなことはない。高速道路で速度違反しつつ走るならともかく遵法運転をしている限り不足を感じる場面はどこにもない。強いていえば、70mph(112km/h)巡航するとエンジン回転が5000rpm近くになり、やや気ぜわしいと感じる程度だ。
CB500Xを走らせていてもっとも印象的なのはエンジンだ。CB500シリーズの他、レブル500にも搭載されるこの水冷直列2気筒エンジンは、非常によくできていると感じさせられる。低回転域のトルクはちょうどよく、過不足がない。ビッグバイクにはありがちな、恐るおそる気遣いながらスロットル操作する必要はなく、神経質になることなく右手を回せる。アイドリングから4000rpmあたりまでは振動があるが、角がないマイルドなもので、肉体的にも精神的にも疲労につながらない。それでいて2気筒らしい心地良い振動で、バイクを走らせる楽しさを高揚させる。
そして4500rpmを超えたあたりからのエンジンフィーリングはまるで4気筒エンジンのように振動がなく、非常にスムーズに回転が上昇していく。あくまで静かで滑らかだが、しっかりとパワーが溢れ出てきて加速する。全身にピタリとフィットする加速感で、バイクと人間がシンクロするのだ。これがめっぽう気持ちよく、気分よく加速できる。
大排気量エンジンの高回転域の加速感は力強く、それはそれでたしかに気分がいい。しかし使える場面が限られることが最大のデメリットだ。いっぽうCB500Xは一般道でも高速道路でもしっかりと高回転域を使い切れるところがまた気分をよくしてくれる。
これはやはり180度クランク位相で高回転型エンジンであることが効いているのだろう。5000〜7000rpmあたりを多用してワインディングを走るときの気持ちよさはかなりのものだ。CB500Xはクロスオーバーツアラーだが、エンジンの素性だけでいえばしっかりとしたロードスポーツである。乗り手が求めるスピードとパワーに対する、エンジン回転上昇の速さと加速力、音と振動。これらに食い違いや誤解がなく、エンジンは乗り手の要求と一般公道で許されるふるまいに対してあくまで従順、かつ過不足なく応答する。これこそがバイクを走らせる醍醐味だ、と感じさせてくれるエンジンなのだ。
それでいてクロスオーバーツアラーたる19インチフロントホイールがもたらす安定感が、鷹揚な操作でも許容してくれる懐の深さにつながっている。もちろん未舗装路に入ればこの前輪が荒れた路面でも走行安定性を確保してくれるし、エンジンは低回転域でも十分なトルクを発揮する。いや、もっといえば細めのトルクだからこそかえって使いやすい。スロットル操作を多少荒くしても路面をかきむしることがないからスリップもしないし、ダートをトコトコとのんびり走ることにも無理がない。現代のスクランブラーたる性能をしっかりと持っている。
1960年代、ホンダはドリームCB72スーパースポーツというバイクを作った。まだ国産バイクは黎明期で、大排気量で大パワーのヨーロッパ車に対して250cc直列2気筒エンジンで対抗し、その存在感を明示した名車だ。CB500は排気量こそ倍になったが、対するヨーロッパ車(これには日本車ももちろん含まれるが)も倍、あるいはそれ以上になっているからイーブンだ。
1000cc超のバイクが当たり前の時代に、半分の500ccでそれらに対抗し、決して引けを取らない走行性能とライディングフィールを実現しているこのCB500は、世界と戦い、勝ち上がっていった原動力となったスポーツバイクCB72の再来ではないか。名車CBの源流を蘇らせた現代版である。そう考えればCB500X(400X)は、CB72のスクランブラー版であったCL72のリメイクだ(ただしCL72は360度クランク位相)。
CB500Xの国内版には「400X」で、車名にはCBもCLも付与されない。日本におけるCBという名称について回るネイキッドスポーツイメージとの相性を考慮した結果だと邪推するが、これがちょっともったいない。CRF1000Lをアフリカツインとしたように、400Xも「CL400Xスクランブラー」としてもよかったのではないか。
その排気量と気筒数からCBシリーズの中でも地味な存在となっているが、この直列2気筒エンジンはもっと多くの人に味わってもらいたい。「2気筒こそCBだ」と思わせるほどの力がある。それほどにエンジンの素性がいいのだ。
前述したように今回はイギリスとマン島で2週間あまりCB500Xを走らせ、ときに500km以上の距離を一日で移動したし、終日雨天のこともあった。しかしそんなときでも肉体・精神ともに疲労はなく、非常に心地いいままに投宿、快眠できたことも記してレポートを終える。