掲載日:2013年08月01日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/和歌山 利宏 写真/徳永 茂
車両に近付き跨る段階において、ライダーに一切のプレッシャーを与えないばかりか、むしろ CTX にはホッとさせてくれる持ち味がある。見るからにシートが低く、実際、足着き性が良く、しかも傾いていた車体を起こすのが実に軽い。NC700S もその点でフレンドリーだが、この CTX はさらに重心が低く、ハンドル位置も広めでやや高いことが効を奏しているのだろう。
NC700S よりも低く後方にある着座位置にお尻を据え、前方にあるステップに脚を伸ばす。いわゆるフォーワードコントロールだが、小柄な僕でも脚が伸び切ることはない。マニュアルシフト(MT)車でのシフト操作にも問題はない。さすが、この国内仕様車のシートは、ストッパーが海外仕様よりも 30mm 前にセットされているだけのことはある。そしてハンドルグリップは腕を伸ばした自然なところにある。クルーザーにはグリップの位置や角度が個性的なものも多いが、これは至って自然体、快適である。
スルスルと発進していくと、安定感に包まれた快適さがあり、極低速でバランスを保つことに気を遣うこともない。さらにホッとさせてくれる一方で、独特の鼓動感が心地良い。270 度クランクのエンジンは、等間隔よりもわずかに鼓動がずれ、その力強いビートのうしろでいくつかの軽いアフタービートを轟かせる。このことは NC700 でも変わらないはずだが、充実した低中回転域のおかげで、鼓動感を味わいやすくなっているようだ。この鼓動感は、6速で 50km/h弱、1,800~1,900rpm ぐらいから味わうことができる。何とも、日本の一般道を走る上でも最高なのである。そこで、スポーティに使用回転域を自分で決めることのできるマニュアルシフトも悪くないが、ホッとさせてくれる持ち味をさらに上質に楽しむには、DCT 車が向いていると言えそうだ。
この DCT がまたたいへん良く出来ており、オートマチックモードのドライブモードだと、MT 車でのんびり走るときとほぼ同じタイミングで自動的にシフトしてくれるし、スロットルを戻せば、まるで自分の意思が読まれているみたいにギアダウンし、エンジンブレーキを効かせてくれる。また、スポーツモードだと、ワインディングのコーナーをメリハリ良く走るときのリズムでシフトしてくれる。ドライブにしてもスポーツにしても、2,000rpm 以下には落ちず、6速に入れたいところで5速のままということもあって、鼓動感を取り出すことに拘りがあれば、MT 車のほうが向いていようが、快適な上にスポーティ感は一切損なわれていない。コーナリングでも DCT は最高なのだ。
コーナーリングは、バンク角こそ浅くても楽しむことが出来る。イージー感覚で流すのもいいが、向きを変えるためのマシンコントロールを堪能することも出来るのだ。その意味で、CTX はまさしくスポーツ車である。腰の位置がピタリと決まり、人車の一体感があって腰が入る。快適でクルーザー気分であったはずなのに、気が付くと、まるでスポーツバイクであったかのような錯覚に陥る。これぞ CTX の提唱する世界なのかもしれない。