

掲載日:2013年05月23日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真・動画/MOTOCOM 衣装協力/HYOD
1982年に初代 VT250F が出たときのことは今も鮮明に覚えている。学校にバイク雑誌を持ち込み、そこに掲載されたスクープ記事を友人と一緒にむさぼるように読んでいた記憶がある。それまで見たこともない流麗なスタイリングと、車体の真ん中に鎮座したV型エンジンのサウンドを想像し、心躍ったものだ。
あれから31年。当時最先端のスーパースポーツだった VT の末裔は、今や誰でも乗られるエントリーモデルへと立ち位置は変ったが、ホンダらしい精緻なエンジンフィールをともなったVツインが奏でる鼓動感は、今なお心の奥深くに訴えかけてくるものがある。今のアラフィフ世代には、そんなノスタルジーを覚える人もいるのでは、と思う。
早速乗ってみる。まあ、とにかく扱いやすいバイクだ。車体はスリムでシート高は低く、車重も軽量クラス。ちなみにハーフカウル付きの VTR-F の車重は 164kg ( VTRは161kg )だが、これは同じホンダの 250cc 単気筒スポーツ、CBR250R ( 161kg/ABS 仕様は 165kg )と同等レベル。VTR が2気筒であることを考えれば、いかに軽いかが想像できよう。
排気量的なこともあるが、パワーフィールはとにかく穏やかでスムーズだ。エンジンは低回転域のレスポンスが向上しているということだが、確かに従来型はスロットルを開けた際にややダルさがあったが、新型では微妙に改善されている気はする。直接乗り比べたわけではないが、ひとつ確かなのは極低速でよく粘るエンジンであること。発進時やUターン時などは楽だし安心できる。街中をクルーズするような中速域では、Vツインらしい “トコトコ” という鼓動感を味わえるし、7,000rpm 辺りから上は “ブーン” という連続音とともに心地よい上昇感が楽しめる。といった具合に、2つのキャラクターが混在するところがVツインエンジンのいいところだ。
ハンドリングは軽快だが穏やか。フレームがスチールトラス構造で、かつピボットレスということもあるかもしれない。“カチッ” というより “ヤワッ” と曲がっていく感じ。“スパッ” と倒れ込むような切れ味はないが、そこがかえって安心感につながっている。
サスペンションもより快適な方向性にリセッティングされているそうだが、体感的には確かにソフトで優しい乗り味である。大まかにはスポーツ志向と言うよりは、街乗り、ツーリング志向の設定のようだ。特にハーフカウル付きの VTR-F には、今の設定が合っていると思う。
ライディングポジションは STD と同様、上体が起きたアップライトな姿勢になるが、それでも高速走行時には大型ハーフカウルが程良く風を受け流してくれるので楽だ。そして何と言ってもハーフカウルとその先端に組み込まれたY字デザインのマルチリフレクターヘッドライトがカッコいい。STD と比べてたった2万円ちょっとの価格差でこれだけラグジュアリー感が高まるなら、かなりお得だろう。
一点だけ欲を言えば、ABS 付きのタイプ設定があっても良かったかなと思う。街乗りからツーリングユースまで幅広く使うとなればなおさら、万が一の安心感は欲しい。
個人的にはホンダの伝統を受け継ぐ「Vツイン」というだけで十分魅力的。初めてのバイクにも超オススメだし、あの頃を取り戻したいナイスミドルな殿方にも、ぜひ選択肢に加えていただきたい1台だ。
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