カワサキ ZRX1200 ダエグ
カワサキ ZRX1200 ダエグ

カワサキ ZRX1200 ダエグ – スポーツ指向ビッグネイキッドの最右翼

掲載日:2013年03月21日 試乗インプレ・レビュー    

取材・撮影・文/淺倉 恵介

カワサキ ZRX1200 ダエグの試乗インプレッション

カワサキ ZRX1200 ダエグの画像

絶妙なハンドリングとフレキシブルなパワー
あらゆるシチュエーションで走りを楽しめる

とにかくコーナリングが気持ちいい。中高速コーナーではハンドリングに適度な手応えがあり、安定感も高い。狙ったラインを、望んだバンク角でキレイにトレースすることができる。低速コーナーでは、まるでフロントが切れ込んでいくようにグイっと向きを変えていくが、そこでフロントが巻き込んでしまうようなことは決してない。バイクのバンクと、旋回力の立ち上がりのバランスが絶妙なのだ。ワインディングはもちろん、街乗りで交差点を曲がる時さえ楽しさを感じられるハンドリングで、まさに丁度良い軽快さ。リッタークラスのネイキッドバイクのハンドリングには、ある程度の手応えは欲しいもの。だからといって重過ぎるのは、また困りもの。その点ではZRX1200DAEGのハンドリングは実に適度な手応えがあり、自然で馴染み易いものだ。これは、ディメンジョンの設定が効いているのだろう。ZRX1200DAEGのトレール量は100mm、ZRX1200Rの106mmから6mm減少している。これは安定性より運動性をとった設定だと言える。初代モデルであるZRX1100は、スーパースポーツ顔負けの運動性の高さが話題となったが、その反面安定性が足りないとする声も少なくなかった。そこを改良したZRX1200Rのハンドリングは高い評価を得たが、今度は落ち着き過ぎて面白味に欠けるという意見があったのも事実。ZRX1200DAEGは、軽過ぎず重過ぎずで実にしっくりくるハンドリングを実現している。従来モデル2車の良いトコ取りをした感じである。高速道路での直進安定性も良好。超高速域での加速には、ややフロントの接地感が薄くなるが、不安定に感じるほどではない。アップライトなポジションのネイキッドとしては、いたしかたない部分でもあるだろう。

カワサキ ZRX1200 ダエグの画像

車体に関しては、サスペンションにも触れておきたい。乗り心地は固過ぎず柔らか過ぎずで、適度に快適。これはクッション性に優れたシートのおかげもある。長時間走行にも十分耐えるが、ポジションが立っていため体重のほとんどを尻で支えることになり、疲労が着座面に集中する。1日中走り続ける際は、時折姿勢をかえる必要があるだろう。また、リアショックはかなりダンピングが効いて落ち着いた動きを見せるが、その反面フロントフォークに動き過ぎの傾向がある。ギャップを踏んだ時など、リアはすぐに収束するが、フロントの収まりはワンテンポ遅れる。フロントフォークに関しては、もう少し動きの質感を上げたいものだ。

従来モデルの6ピストンから、コンベンショナルな4ピストンタイプに変更となったフロントブレーキも好感触。制動力の立ち上がり方がリニアで、コントロール性も高い。特にブレーキをリリースする時の感触がスムーズでいい。構造上、どうしても引きずりをおこしがちな6ピストンを捨てたのは正解だと言えるだろう。個人的には、もう少し初期から効くタイプが好みだが、これはパッドを交換すれば良い話だ。

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エンジンは実にスムーズ。パワーバンドはどこだ? と思うほどフラットなパワー特性を持つ。2,500回転も回っていれば十分以上のレスポンスで応え、力強い加速を見せてくれる。「これくらいスロットルを開けたら、これくらいの加速をして欲しい」という、乗り手の意志にピッタリと合った加速感なのだ。スロットルを大きめに開けば、思った以上の加速でライダーを喜ばせ、スロットル開度が小さめであれば「もっと開けられるだろう?」と優しく加速する。このようにスロットルの開閉で、マシンとの対話を楽しめるのだ。

また加速感がいい。スーパースポーツの瞬間移動的な加速とも、メガスポーツの手に負えない怒濤の加速力とも異なり、エンジンがある意味で重々しい回り方をして「いかにもビッグバイク」という加速をする。それがなんとも人間の感性に絶妙にマッチしているのだ。ZRX1200DAEGのエンジンはGPZ900Rの発展型である。熟成と改善を重ね、中身は別物と言っていい。基礎となっている設計は30年近く前のものだが、その古さが味となり、最新のエンジンには無いクランクの存在を感じる加速感を生み出しているのだろう。日本のワインディングは小さなコーナーが続き、加減速を繰り返すようなロケーションが多い。ZRX1200DAEGは、その“加速すること”自体が楽しいのだからたまらない。6速化されたミッションをフルに活用して速さを追求するのもいいが、3速、4速あたりをホールドしたまま、スロットルだけでワインディングを攻めるのも楽しいものだ。そして実は、それこそが速く走る方法でもある。

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ただ、レブリミットが低いことが残念でならない。ZRX1200DAEGは9,500回転で回転リミッターが作動する。ZRX1200Rのレッドゾーンが11,000回転だったことを考えても、本来はもっと回るエンジンであるはずなのだ。カムシャフトが中低速重視の設定なこともあり、高回転がウリというエンジンではないが、ピークからもう一伸びというお楽しみがあってもいい。4気筒エンジンには、やはりそれを期待したくなるものだ。

車体の取り回しに関しては、リッタークラスでは有数の良さを誇る。押し歩きは車重なりの重さがあるが、車体がコンパクトでハンドルの切れ角も大きいので、引き回すのは難しくない。足着き性も良好で、795mmというシート高の数値以上に安心感が高い。これは重心の低さも寄与しており、身長が160cmもあればなんの問題もないはずだ。また、Uターンが非常にラクなので、どんな場所でも躊躇せずに入っていける気軽さがある。これは大切なポイントだ。スポーツ性の高さがクローズアップされがちなZRX1200DAEGだが、ネイキッドというジャンルは様々な使い方をされるもの。サーキットやワインディング専用車もあれば、ツーリングはもちろん通勤や通学に使われている車両も少なくはない。そんな日常使用にも対応し、スポーツランも大得意というキャパシティの広さが、ZRX1200DAEGにはある。そして誤解を恐れずに言うなら、ZRX1200DAEGというバイクは、ビッグバイクらしい“手に負えない”感が小さい。全てが手の内にあり、振り回して楽しめる感覚こそがZRX1200DAEG最大の美点だ。もちろん、110PSという最大出力は十分以上にパワフルで、フルに使い切るのは容易ではない。けれど「乗りこなしたい、乗りこなせるかもしれない」そう思わせる優しさがZRX1200DAEGにはある。パワフルなのに優しく、気難しくはないのに乗り手をその気になさせる。ZRX1200DAEGは、そんな1台なのだ。

カワサキ ZRX1200 ダエグの詳細写真は次ページにて

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