KTM 990 スーパーモト T – 戦闘的なモタードをベースとしたオンロード・ロングツアラー

戦闘的なモタードをベースとした
オンロード・ロングツアラーが登場

KTMのツーリングバイク、と言えば多くの人がアドベンチャーシリーズを思い浮かべるかもしれないが、2009年度のラインナップから新たなマシンが登場した。ハイパワーかつコンパクトな水冷ユニットを搭載した同社の大排気量モタード「990スーパーモト」をベースとした「990スーパーモトT」だ。ベースとなったモデルは、メーカー自らワインディングロードを“狩場”と表現するほどのスポーツマシンで、一見すると「これをベースにツーリング？」と思ってしまうほど。しかし、今回インプレッションする「T」は、ルックスだけでなく装備も旅を意識したものになっており、“スーパーモト”とは違うバイクであることを強く主張している。KTMはレース志向の強いメーカーだが、以前インプレッションした990アドベンチャーのように、旅バイクの完成度も高いのが特徴。新しく加わったこのモデルのツーリング力を、インプレッションを通して体感してみたい。

KTM 990 スーパーモト Tの試乗インプレッション

幅広いシチュエーションを楽しめる
柔軟性が魅力のツーリングマシン

「あれ、乗り易い」。これが990スーパーモトTに対する私のファーストインプレッションだ。ちなみに、KTMのバイクが特に乗りにくいというわけではない。しかし、これまで試乗したRC8や990アドベンチャーとは全く違う感覚に驚いてしまった。気難しさが無いと言えばいいのだろうか、非常にカドのとれた優しいマシンなのだ。車体は確かに大きいが、990スーパーモトより低くなったシート高により足着き性が向上しているし、排気量に対して軽い車体はライダーに負担を感じさせない。モタードならではの広いハンドル切れ角は、取り回しだけでなく狭い道での旋回においてもストレスを感じにくいのも良い点。そして何より、搭載されているLC8エンジンの扱いやすさが非常に好印象なのだ。990アドベンチャーと比べてもノイズが少なくなり、振動が抑えられたエンジンは出足から非常にスムーズで、スロットルワークに対して非常に従順。混雑しがちな東京都内の道でも右手の動きを改めて意識する必要はなく、多少雑な扱いをしても安定して走りを見せてくれるほどだ。特に2000回転から3000回転までの低速域のドライバビリティが高く、「KTMってこんなに大人しかったかな…？」と思ってしまうほど乗り易く、他のモデルを乗ったことがあるライダーほど驚くのではないだろうか。もちろん、本気でスロットルを開ければ115PSに相応しいパワーを見せつけてくれるが、そこに至るまでの過渡特性もあくまで穏やかだ。サスペンションもソフト志向の味付けがされており、硬さを感じさせないしなやかな足回りで、このモデルがただの大排気量モタードではなく、新しいツーリングマシンであることを実感させてくれるはずだ。

今回の試乗では、混雑する都内の一般道から首都高速、関東圏外へと繋がる国道から高速道路までを走破したが、とにかく疲労が少ないのに驚いた。ウインドプロテクション性能はアドベンチャーほどではないが、このモデルのために開発されたフェアリングは小型ながら効果的で、見た目以上にライダーを保護してくれる。また、前述した扱いやすいエンジンと乗り心地を重視したサスペンションのおかげで、速度域の大きく異なる道程をこなしてもストレスにならないし、それでいてワインディングではバイクでスポーツする楽しみを味あわせてくれるのもこのバイクの魅力と言えるだろう。モタードベースの切れ味あるハンドリングはツーリング仕様になっても健在で、その気になればスーパースポーツも追い回すことが出来そうだ。褒めてばかりになってしまうが、雨天での乗りやすさも忘れてはならない美点。乗り易い＝無闇に緊張しないで済むことから、路面状況が急に変わるような場面でも安心して走ることが出来るのだ。ただ、さすがにダートも同じ様にイージーとはいかないようだ。今回は砂利の多いフラットダートを試走してみたが、少しパワーが勝ちすぎているような印象だった。ラフロードも存分に走りたいなら、990アドベンチャーをと言う選択肢になるだろう。オンロードであるならば、990スーパーモトTは持ち前の乗り易さでシチュエーションを選ばない。ただの「長距離向け」ではなく、どんな場所でも乗って楽しいツーリングマシンとして、非常に高い完成度を誇っていると言えるだろう。